2017/09/18

扇辰・喬太郎の会(2017/9/17)

第71回「扇辰・喬太郎の会」
日時:2017年9月17日(日)18時30分
会場:国立演芸場
<  番組  >
前座・柳家寿伴『道具屋』
入船亭扇辰『さんま火事』
柳家喬太郎『二十四孝』*
~仲入り~
柳家喬太郎『すなっくらんどぞめき』
入船亭扇辰『緑林門松竹(みどりのはやしかどのまつたけ)』*
(*ネタ下ろし)

毎回人気で前売り完売のこの会、この日も3連休の中日に加え台風接近というコンディションにかかわらず満員御礼。
処で、安倍政権は来月にも衆院解散、総選挙の実施を謀っているとか。国民には北のミサイルで日々危機感を煽っていきながら、その裏では選挙準備かね。ということは、それほど怖がらなくても良いという事か。
本当に危機なら、敢えて政治空白を作るはずないもんね。

扇辰『さんま火事』
得意の『目黒』の方ではなく、こちらのネタ。
長屋の裏に住む地主がひどくケチで、しかも何かと長屋の連中に迷惑をかける。こないだも地主の娘が前の空き地に簪を落としたので、拾った人には多額の礼をするという。空き地は雑草が生い茂っているので、長屋の連中は総出で草刈りをしたが、簪は見つからない。後で聞いたら、草刈りをやらせるための嘘だったと分かる。万事がこんな具合で、腹の虫が収まらない連中が集って大家を訪れ、仕返しの知恵を借りる。
大家は、それなら長屋全員で秋刀魚を焼いて、団扇で扇いで煙を地主の家に向かわせ、大声で火事だ!と叫ぶ。地主の商売が油屋だから、きっと慌てるに違いない。それを見て皆で笑ってやろうという。
喜んだ長屋の連中は、長屋18軒七輪を並べて秋刀魚を焼き始めた。
この騒ぎに地主も最初は驚くが、煙が秋刀魚からだと分かると、早々に飯の支度。「この匂いを嗅いで、おかずにして食べてしまおう」。
紙切りの初代林家正楽の創作。
蒲焼の煙をおかずに飯を食うという小噺によく似ている。
扇辰の高座は、地主からこんな酷い目にあったと訴える長屋の衆のドタバタぶりが良く出来ていた。

喬太郎『二十四孝』
この日がネタ下ろし。
筋はほとんどの方がご存知だと思うが、二十四孝の故事の引き方やサゲが演者によって異なる。
先ず故事の方だが、喬太郎の高座は王祥の鯉、孟宗の筍、郭巨の釜掘り、呉孟の蚊の4種類だった。
サゲは、男が呉孟の真似で全身に酒を吹きかけようとしたが、ついつい自分でみな飲んで、そのまま寝込んでしまう。
朝起きると蚊の食った跡がないので、男が喜んで「婆さん見ねえ。天が感ずった」。
婆さんが「当たり前さ。あたしが夜っぴて団扇で扇いでいたんだ」でサゲ。
未だ完全に入っていないせいか(呉孟の名前がなかなか出なかった)、おそるおそる演じているようで、喬太郎らしさが出ていなかった。
しかし今後磨いてゆけば、立派な持ちネタになり得ると思わせる高座だった。

喬太郎『すなっくらんどぞめき』
ネタ下ろしから解放されて、見違えるようなハイテンション。今冬に予定している初めての欧州公演や、11月に自らが主演する舞台『スプリングハズカム』のエピソードを嬉しそうに語っていた。
ネタは、古典の『二階ぞめき』の吉原を、かつて池袋駅地下にあった”スナックランド”に置き換えたもの。
ネタそのものよりも、喬太郎の池袋愛、蘊蓄、トリビアの披歴の方が面白かった。
いかがわしさも町の魅力の一つなのだ。

扇辰『緑林門松竹』
ネタ下ろし。
三遊亭圓朝作の長編で、その発端にあたる『医者秀英の家』の口演。
根津七軒町の医者・秀英宅に奉公人として、信州の田舎者というふれこみで入り込んだ新助市。秀英がおすわを妾に囲っていると知った新助市は秀英の妻に、秀英が妻を毒殺して妾を本妻になおす事を計画していると嘘の話しを持ち掛け、毒薬譽石の在り処を聞き出した上、妻を殺害する。
今度は妾宅にとって返し、秀英に妻が間男していると嘘を言い、自宅に連れ出した所で、秀英を毒殺してしまう。
二人を殺して金を奪った新助市は、いずこかに姿をくらます。
とにかくこの噺、登場人物は悪者ばかりで、それが延々と殺人を繰り返して行くというストーリーなのだ。
演じ手が少ないのは、ストーリーがあまりに陰惨だからだろう。
扇辰の高座は、それぞれの人物像を明確に描いていて、相変わらず完成度が高い。これならいつでも再演可能だろうが、口演の場は限られるかも。

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2017/09/17

#14ワザオギ落語会(2017/9/16)

第14回「ワザオギ落語会」
日時:2017年9月16日(土)18:15
会場:国立演芸場
<  番組  >
入船亭小辰『代脈』
三遊亭兼好『浮世床(将棋、夢)』
入船亭扇辰『藁人形』
~仲入り~
笑福亭たま『ふたなり』
柳家権太楼『青菜』

14回目となる「ワザオギ落語会」、アタシの出席率は5割ていどかと思う。
会によって出演者の顔ぶれに偏りがあるのは、主催者やディレクターの好みだろう。
権太楼が2回目というのは意外な気がするし、雲助は出てないのでは。

小辰『代脈』
上り坂の芸というのは楽しいもので、時期は忘れたが以前に聴いた時から比べてぐっと面白味を増している。
小辰が描く医者の見習い・銀南だが、愚か者というよりは食い気と色気、そして好奇心に溢れた若者らしさを示していたように思う。
開口一番で一気に客席を引き込んだのも、独演会を重ねてきた精進の賜物だろう。

兼好『浮世床(将棋、夢)』
兼好で感心するのは、かなりの回数の高座を観ているが、その度にネタが異なることだ。次々と新しいネタに挑戦しているに違いない。
この演目も面白く聴かせていたが、女性に色気が感じられないのが欠点だった。例えば男に返杯する際には、相手の男の顔をじっと見て欲しい。
プログラムの解説によれば、いま怪談噺を演じてみたいとか。
楽しみですね。きっと芸域がぐっと拡がるだろう。

たま『ふたなり』
マクラの、寄席のマーケットリサーチの話しが面白かった。
初めて落語を聴いた人が2度目に来る確率は25%、つまり4人に一人だ。2度目に来た人が3度目に来る確率は90%と大きく跳ね上がる。
興味を持ったのは、犯罪の再犯率の傾向と類似していると思ったからだ。閑話休題。
「ふたなり」とは半陰陽のことで、これはマクラで解説が必要だったのでは。
ある村で深夜、男の所に若い衆が二人訪れ、村の金を10両使い込んでしまい、このままでは夜逃げするしかないと泣きつく。
男はついつい恰好つけで、10両ぐらい俺が隣村の知り合いから借りで来ると言ってしまう。
処が、隣村に行くには恐ろしい「栴檀の森」を通らねばならない。
実は大の怖がりだった男、怖がりながら森を歩いていると、いきなり若い娘から声をかけられる。
聞けば、「男と道ならぬ仲になり、お腹に子を宿してしまった。駆け落ちをすることになったが、男が自分を捨てて逃げてしまい、この上は死ぬより他ないから、遺書として書置きを書いて懐にしまっている」とのこと。
当初は死のうとする娘を止めた男だったが、娘が「親の目を盗んで十両の金を持って来ている」と聞いて気が変わる。
「ああ。そんなら死に!」「へ!」「死んだらええねん。もう、帰るとこもないねんし、さっさと死んだらええ。わいが手伝おたるさかい。」「おおきにありがとさんでございます。」
そうして男は上手いこと言って娘から10両の金をせしめる。
死ぬのをためらう娘に男は、「死に方の手本を見せたる」と言って良い枝振りの木を探し、紐をかけ、首をかけ、足元の石を蹴りと首吊りの手順を説明している間に、うっかり男は本当に自殺してしまった。
その様子を見た娘はすっかり気が変わり、男から10両の金を取り戻し、代りに遺書を男の懐に入れて消えてしまう。
帰ってこないのを心配した若い衆二人がが森に来て男の死体を見つけ村中大騒ぎ。
役人が男の遺体を検視していると、懐の遺書を見つける。
「『一度はままよ二度三度、重ねてみれば情けなや。ついにお腹に子を宿し…』な、何じゃこれは」。
驚く役人が若い衆に「こりゃ、この男ははふたなりか?」
「いいえ。宵に出たなりでございます。」)
でサゲ。
時間の関係から10分で演じる短縮版だったが、その分スピーディーな展開になり、たまの歯切れの良さも手伝って、十分に面白さは伝わった。
新作の多いたまだが、アタシはこの人の語る新感覚の古典を高く評価している。
若手では、東の一之輔、西のたまである。

権太楼と扇辰はいずれも得意ネタだから、感想はいいでしょう。

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2017/09/11

お知らせ

1週間ほど小休止します。

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2017/09/10

柳家権太楼・甚語楼親子会(2017/9/9)

「柳家権太楼・甚語楼親子会」
日時:2017年9月9日(土)14時
会場:横浜にぎわい座 芸能ホール
<  番組  >
前座・柳家小多け『初天神』
柳家さん光『粗忽の釘』
柳家甚語楼『幾代餅』
~仲入り~
ボンボンブラザース『太神楽曲芸』
柳家権太楼『青菜』

又しても権ちゃん、ここのとこすっかり権太楼づいているが、この日の親子会のお目当ては甚語楼の方だった。

甚語楼『幾代餅』
2006年真打昇進、その当時はあまり注目していなかったが、最近メキメキと腕を上げていると見ている。
先ず声がいい。高くなく低くなく聞きやすい声だ。
顔がいい、落語家向きである。近ごやたらイケメンだどうだと騒ぐ向きがあるが、あれは所詮おんな子どもの世界。二枚目の顔というのは、噺家にとって疵になることもある。
客から見て、俺の方がまだましだなと思える程度で丁度いい。甚語楼はそういう顔をしている。
語り口が明解で、芸風が明るい。
このネタも人情噺風に演じる人もあるが、甚語楼は終始滑稽噺として演じていた。
清蔵が身分を明かし、それに感激した幾代が清蔵の妻になることを告げる場面では、もう少し情緒が欲しいという感もあった。
ただ、幾代の立場になってみれば、来年3月に年季が明けるというのに未だ身の振り方が定まっていなかったのだろう。そうした時に、自分に一途な男が現れた。誠実そうだし働き者のようだし、むしろ幾代にとっては渡りに船だったのかも。
そうして見ればこの話は美談でもなんでもなく、花魁の再就職の物語だ。
だから、カラッと演じるのも一つの演り方だと思う。

権太楼『青菜』
権太楼のこのネタは落語ファンにはお馴染みで、解説不要だろう。
昨日は2階席から見たのだが、改めて権太楼の芸風に感じたことがある。
先ず、よく動く。上半身を右に左に捻ったり傾けたり。美味そうな料理を目の前にした植木屋は、両手で顔を覆い感激を表現させる。
植木屋が柳陰が手酌で呑む時も、コップを演者の右膝近くに置いて酒をつぎ、徳利は左側の前方に戻す。
この様に一つ一つの動きが大きい上に、顔を筋肉も大きめに動かす。セリフを言う時に前に身を乗り出し首を傾ける。
観客は話芸とともに、こうした動きに気を取られ、権太楼の世界にはまって行く。
柳家権太楼としての確固たる芸風は、こうして確立していったんだなと。
植木屋夫婦を動物園のカバの檻の前で見合わせたのは「稲葉の旦那」だったが、して見るとさん喬だったか。

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2017/09/08

「ワーニャ伯父さん」(2017/9/7マチネ)

SIS Company,Kera meets CHEKHOV vol.3/4「ワーニャ伯父さん」
日時:2017年9月7日(木)13時30分
会場:新国立劇場 小劇場 THE PIT

作:アントン・チェーホフ
上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
<  キャスト  >
セレブリャコーフ(元大学教授):山崎一
エレーナ(若い後妻):宮沢りえ
ワーニャ(先妻の兄):段田安則
ソーニャ(先妻の娘):黒木華
ヴォイニーツカヤ夫人(ワーニャの母):立石涼子
テレーギン(隣人の没落貴族):小野武彦
アーストロフ(村の唯一の医師):横田栄司
マリーナ(乳母):水野あや
下男:遠山俊也
(ギター演奏:伏見蛍)

KERAさんのチェーホフ四大戯曲に挑戦するシリーズの第3作は「ワーニャ伯父さん」。
【あらすじ】
大学教授を引退したセレブリャコーフは、妻を亡くした後、年の離れた若い後妻エレーナを娶る。夫妻は都会暮らしに別れを告げ、先妻の親から受け継いだ田舎の屋敷に戻ってきた。
先妻の兄であるワーニャは、学者としてのセレブリャコーフ を長年崇拝し、彼の支えとなるために、25年にもわたって領地を切り盛りしながら、先妻の娘ソーニャ、 母ヴォイニーツカヤ夫人、隣人であった没落貴族テレーギンと共につましく暮らしてきた。
その一方、教授には毎年多額なお金を送金してきた。
しかし、ワーニャの目の前に現れたセレブリャコーフは、いつも体調も機嫌も悪く、尊大で身勝手な態度で人を困らせるただの年寄りだった。
その妻エレーナも、夫への不満と義理の娘との折り合いの悪さも手伝い、田舎暮らしに不安で憂鬱な日々を送っている。
屋敷には常に重苦しい空気が立ち込めるようになっていた。何よりもワーニャは、 人生の大半を捧げきた相手が、単なる俗物だった事実に虚しさと絶望を感じ、勤勉だった彼の生活は激変してしまう。事ある毎にセレブリャコーフに毒づき、母にたしなめられるが、その憤りは収まらない。
セレブリャコーフの具合が良くないと往診に来る医師アーストロフは、この村の唯一の医師として貧しい 農民への医療に従事する傍ら、森林の環境保護を訴えて、献身的な活動を続けてきた。
しかし彼もまた田舎暮らしに鬱積した思いを抱き、診療を放り出して屋敷に入り浸り、ワーニャと酒を酌み交わすことも多くなる。彼が屋敷に入り浸るもう一つの理由は、若い人妻エレーナへの恋慕だ。エレーナの方も彼には満更でない様子。
そしてワーニャもまたエレーナに対し熱い思いを抱いていた。しかし、エレーナに相手にされるはずもない。
一方、アーストロフを、ソーニャの熱い眼差しが追いかけるのだが、これもまた相手にもされない。
互いの心はすれ違い、それぞれの虚しい恋心だけが募っていく。
そんな中、セレブリャコーフが突然皆に、この領地の売却をしたいと告げた。
激怒したワーニャはセレブリャコーフにつかみかかり、発砲までするが幸い弾は外れる。
この騒動で夫妻はここを去る決心をし、医師のアーストロフも屋敷を出て行く。
元の生活に戻った形となったが、ワーニャは元教授への失望と、その妻エレーナへの失恋という二重の痛手の中で苦しむ。
彼の心情を察したソーニャは、ワーニャにそっと優しく「生きてゆきましょう、ワーニャ伯父さん・・・」と語りかけるのだ。

何か大きな事柄が起きるわけでもなく。物語としては淡々と進行する。
しかし、その時々の登場人物たちの心の動き、揺れ、そういった物が観客に静かに伝わる、そんな芝居だ。
特に幕切れの傷心のワーニャに対するソーニャの優しい言葉は素晴らしい。自らも傷ついていながら、叔父の心情に寄り添うソーニャの純真さには心が洗われる思いだ。
他の演出を見てないので何とも比較のしようがないのだが、KERAさんの手になるこの舞台はとても面白く出来ていた。

出演者では、やはり圧倒的にワーニャを演じた段田安則の演技が素晴らしい。この人は何を演らしても上手い。
純真で一途なソーニャを演じた黒木華の演技も良かった。器量が悪い娘という役柄だが、十分に美しい。
ワキでは、乳母役の水野あやの演技が目立った。いかにも19世紀末のロシアの地方に住む老女らしい雰囲気を醸し出していた。

公演は26日まで。

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2017/09/06

必見!文楽「玉藻前曦袂」(2017/9/5)

9月文楽公演第二部「玉藻前曦袂(たまものまえあさひのたもと)」
 清水寺の段
 道春館の段
 神泉苑の段
 廊下の段
 訴訟の段
 祈りの段
 化粧殺生石
日時:2017年9月5日(火)16時
会場:国立劇場 小劇場

落語の8代目春風亭柳枝が『王子の狐』のマクラでこの物語に触れているが、そのくらい良く知られた芝居なんだろう。
9月の文楽公演第二部は、「玉藻前曦袂」。
近松梅枝軒・佐川藤太の合作で、1806年(文化3)初演。
原作は天竺、唐土、日本にまたがるスケールの大きなものらしいが、今回はそのうちの日本編を上演。
ストーリー。
三国伝来の金毛九尾の狐伝説に、鳥羽院の兄・薄雲王子(うすぐものおうじ)の反逆を絡ませた構成になっている。
薄雲王子は弟から何とか帝位を奪おうと画策する一方、右大臣藤原道春の姉娘桂姫を妻に望むが退けられる。それに逆恨みして道春亡き後、鷲塚金藤次に命じて姫を討たせようとする。道春の後室萩の方は拾い子の桂姫に義理をたて、妹娘初花姫を差し出そうとするが、金藤次は桂姫の首を打ち、桂姫が自分の実の娘だったことを告げ、王子の悪計を白状して死ぬ。進んで犠牲になることを競って双六で勝負する桂姫・初花姫の哀れさ、萩の方の複雑な母性愛の表現、金藤次の「もどり」(悪から善に立ち返る表現)などが見どころの「道春館の段」が物語のクライマックスで、単独でも上演されている。
この後、初花姫は玉藻前となって入内し帝の寵愛を受けるが、金毛九尾の狐に殺され狐が玉藻前に化ける。
病気がちの帝に代わって薄雲王子が政務をとるが、愛妾の遊女への女色に溺れ政務に身が入らない。
そこに帝の病の平癒を祈祷するために訪れた安倍泰成によって玉藻前の正体が妖狐であることが暴かれ、同時に薄雲王子の悪事も露見してしまう。
那須野が原に逃げた妖狐は追手に討たれ、殺生石となる。

以上があらすじだが、舞台は愁嘆場あり口説きありチャリ場面ありに加えて、早替りから変身、おまけに宙乗りまであるという見所満載なのだ。
正に、ザッツ・エンターテイメント。
特に「化粧殺生石」では、座頭→在所娘→雷→いなせな男→夜鷹→女郎→奴に早替りで踊りを見せ、最後には玉藻前に変身した妖狐が十二単の姿で幕切れとなる。
それぞれの役の細かな動きが見もので、ここは人形遣いの桐竹勘十郎の奮闘公演の趣きだ。

4時間半を超える舞台は飽きることなく、私のような文楽のビギナーにはピッタリだった。
ということは、文楽が初めてという方にもきっと楽しんで貰えると思う。
見なきゃ損ですよ。

公演は18日まで。

一つ言い忘れていた。
玉藻前の正体が妖狐であることが暴かれる場面で、ふと小池百合子の顔が思い浮かんだ。
何故だろう?

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2017/09/04

小林一茶、もう一つの顔

一茶といえば幼い時に実母と死に別れ、継母に虐められて育ちながら、幼子や雀、蛙などの小動物にまで愛情をそそいだ好々爺というイメージがあるが、これと真逆な人間像が存在している。
15歳で故郷を出て江戸に、24年後の享保1年に実父・弥五郎の重病を知り、故郷の北国街道柏原宿に戻る。この時、重篤状態にあった弥五郎から、異母弟の弥兵衛と遺産を二分割する旨の遺書を獲得する。
一茶が不在だった24年間、故郷の生家を守り続けたのは継母と弥兵衛だった。
それが四半世紀も留守にしておいて、いきなり遺書をつきつけ遺産分割を迫る一茶に、継母と弥兵衛は激怒する。
近所同族はもちろんのこと、柏原宿の住民皆が弥兵衛家族に同情し、一茶は村八分同然の身となる。
しかし、一茶はひるむことなく相続を履行する契約証文をとりつけ、最後は江戸訴訟までちらつかせて脅し、粘りに粘る。
この結果、一茶51歳の文化10年には、柏原宿の屋敷真半分と、留守中の家賃元利まで上乗せしてむしり取り、帰住したのだ。
(以上は、月刊誌「図書」2017年9月号に掲載の高橋敏「一茶の遺産相続」を要約)

余談になるが、52歳の時に28歳の妻を娶るが(初婚)、妻は一茶との毎日3回の情交が原因で37歳に亡くなる。
これは、逆『短命』ですね。
一茶はその後、62歳と64歳の時に再婚、再々婚している。

一茶にしても衣食足りてなんとやらで、生活が安定していたからこそ、あれだけの発句が生まれたのかも知れない。
激しい性欲も、創作活動のエネルギーの発露か。

人間というのは実に色々な面を持っている。だから面白いのだ。

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2017/09/03

ザ・柳家権太楼(2017/9/2)

大手町独演会ザ・柳家権太楼 其の四「徹頭徹尾 権太楼噺」
日時:2017年9月2日(土)13:00
会場:よみうり大手町ホール
<  番組  >
『挨拶』柳家権太楼
前座・柳家小多け『手紙無筆』
柳家さん光『新聞記事』
柳家権太楼『居残り佐平次』
~仲入り~
柳家権太楼『幽霊の辻』
柳家権太楼『藪入り』
(権太楼の3席はネタ出し)
この「ザ・000」シリーズは、通常一人で4席演じるのが、冒頭の挨拶で権太楼は今日は3席にすると宣言。理由は、顧客から疲れるという感想があったとのこと。だから今日は前座と二ツ目を前方にして1席、仲入り後に続けて2席という構成にすると。
プログラムには4席目として『楽屋噺あれこれ』とあったが、カットされていた。

権太楼の1,2席目の『居残り佐平次』と『幽霊の辻』、これはもう解説不要でしょう。
私見ではこれに『代書屋』を加えた3席が最も権太楼らしさ、言い換えれば権太楼の良さが出ている演目だと思う。
『幽霊の辻』での茶店の婆さん、『代書屋』での履歴書を依頼する男、いずれも権太楼にしか出来ない人物像だ。
『居残り』における佐平次でも、小遣い欲しさに部屋を回って芸をするのではなく、人を楽しませたくて演っている風に描いている。だから貰った祝儀はみな下働きの女中や飯炊きに分けている。こういう所がいかにも権太楼らしい。

権太楼『藪入り』
主催者からは『鼠穴』というリクエストがあったが、途中まで稽古してあのネタに出てくる兄がどうしても嫌で、やめることにしたと。確かにあの噺は陰惨で、あたしも好きじゃない。後から夢だと分かるのだが、後味が悪い。
そこで3代目三遊亭金馬の極め付けであり、その後もこれを超える人が出ないという『藪入り』に挑戦することにした。
ということは、今回がネタ下ろしなのかも知れない。

全体的な感想を言うと、演者の気負いが先に立って、空回りしていたという印象だった。
先ずマクラで、藪入りという制度について説明があったのは良いが、やはりこのネタでは鼠の懸賞についての解説は欠かせない。鼠は食料を食い漁るのみならず、伝染病の媒体となる。だから当局は懸賞金まで付けて鼠退治を奨励していて、商家では専ら小僧の仕事だった。同時に給金の貰えない小僧たちにとって、懸賞金は励みになっていたに違いない。
この辺りの背景の説明は欠かせなかったのではなかろうか。

最初に亀を奉公に出す際の両親の辛い思いを描く場面を加えていたが、これは蛇足。後半の描写だけで十分だ。
後半では、亀の財布にあった15円の出どころが分かった後の場面が冗長でダレてしまった。
それと両親が泣きすぎる。あれでは見てるこっちが白けてしまう。
今後の再演では、もっと磨きをかけた高座を期待したい。

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2017/08/31

テアトル・エコー「八月の人魚たち」(2017/8/30)

テアトル・エコー公演153「八月の人魚たち」
日時:2017年8月30日(水)14時
会場:恵比寿エコー劇場
作:J・ジョーンズ、N・ホープ、J・ウーテン
翻訳:鈴木小百合 
演出:酒井洋子
<  キャスト  >
森澤早苗:シェリー/永遠のチーム・キャプテン
杉村理加:レクシー/男漁りのイヴェントプランナー
薬師寺種子:ダイナ/男勝りの弁護士
重田千穂子:バーナデット/家族問題を抱える公立小学校教師
渡辺真砂子:ジェリー・ニール/天真爛漫な元修道女

毎回、肩の凝らないコメディで楽しませてくれるテアトル・エコーの芝居。
今回は米国のトリオ作家(珍しい!)の作品の舞台化で、劇団の看板女優たちが顔を揃えた。

かつて大学の水泳部のチームメイトだった5人の女性。卒業後はそれぞれの道、それぞれの人生を歩んでいるが、毎年8月には海辺にあるコテージに集まることにしている。
水泳部の監督の息子と結婚し、今でも仲間のキャプテンであるシェリー
男性より仕事の敏腕弁護士でリッチな生活を送るダイナ
3年周期で夫を取り換えては美容整形で若さを保つレクシー
家族に深刻な問題を抱えながらいつも明るくふるまう教員のバーナデット
修道女だったがシングルマザーになって皆を驚かせる天真爛漫なジェリー・ニール
彼女たちの44歳から77歳までの再会を通して、互いが抱える様々な人生の問題を、互いの友情とチームワークで乗り越えて行くという人生賛歌の物語。

舞台の小気味よい会話の応酬で客席は笑いに包まれるが、中年から老年にかけて女性たちが抱える問題の普遍性も明らかにされてゆき、とても良く出来た作品に仕上がっている。
いまトランプ政権で顕在化しているエスタブリッシュメントに対する南部の人々の反発も、チラッと顔をのぞかせていて興味深い。

何より5人の女優たちの個性溢れる演技に注目。
特に我々男性(私だけか?)にとっては、杉村理加のダイナマイト・バディに目が離せない。

公演は9月5日まで。

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2017/08/28

#51三田落語会「権太楼・兼好 二人会」(2017/8/26昼)

第51回三田落語会昼席「柳家権太楼・三遊亭兼好」
日時:2017年8月26日(土)13時30分
会場:仏教伝道センタービル 8Fホール
<   番組   >
前座・橘家かな文『狸の札』
柳家権太楼『短命(長命)』
三遊亭兼好『大山詣り』
~仲入り~
三遊亭兼好『悋気の火の玉』
柳家権太楼『船徳』

久しぶりの三田落語会。この会は当日に次回の前売りを行うため、一度パスするとチケットが入手し難いのだ。

権太楼『短命(長命)』
マクラで池袋演芸場で演じた『幽霊の辻』を話題に。このネタ、途中から怪談噺風な展開になり、合わせて三味線の演奏が始まる。処が、その時のお囃子が新人だったので噺と三味線がチグハグになり、滅茶苦茶になってしまったという。これを高座で再現して見せていた。
本当は『青菜』を演るつもりだったが、前回、白酒が演じていたのでと『短命』に入る。
美人の女房を持つと亭主は短命になることを遠巻きに暗示する隠居と、これをなかなか察することができない男との会話。
ようやく理由が分かった男が、「じゃ、こういう風に・・・」と手真似すると、隠居が「ここは浅草演芸ホールじゃないんだから」とたしなめていた。

兼好『大山詣り』
高いテンションでマクラを語る。これはとても愉快だが、ネタに入るとテンションが下がるような気がする。
男二人が熊を丸坊主にする場面がやや長目でダレてしまった感がある。
一足先に戻った熊が長屋のお上さんたちを集める時、お上さんたちが不安を覚える様子を加えた方が、終盤に向けてより効果的なのでは。

兼好『悋気の火の玉』
軽いようだが、難しい噺なのだ。重要なのは正妻と妾の演じ分け。
片や大店の奥さんだから元は良い所の出だろう。妾の方はといえば吉原の花魁だ。この二人の女を対照的に描けるかどうかがポイントだが、どうやら兼好はこの辺りが苦手のようだ。
厳しいことを言うようだが、今の兼好の立場からすれば、より高いレベルが求められると思う。

権太楼『船徳』
前半はややあっさりと演じ、徳が二人の客を乗せて大川へ漕ぎだす所を中心に。
徳が失敗談を語る場面では、赤ん坊を負ぶったお上さんを乗せた船をひっくり返してしまったのだと。客がそれでどうなったかを訊くと徳は、「あっしはこの通り助かりました」。「お上さんの方はどうなったんだ?」と言うと、徳は「何しろ、自分のことが精一杯だったんで」。客の不安は募るばかり。
船が石垣に着いたら、通常は客の持っていた傘で石垣を突くのだが、この高座では二人の客が手で石垣を押すというのを二度繰り返していた。
1席目もそうだが、権太楼の演じる会話の間が絶妙で、当代落語界の第一人者としての実力を示していた。

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