2019/07/17

「ロシア国立交響楽団」(2019/7/16)

「ロシア国立交響楽団〈シンフォニック・カペレ〉」
日時:2019年7月16日(火)19時
会場:東京オペラシティ コンサートホール
指揮:ヴァレリー・ポリャンスキー
ピアノ:アンナ・フェドロヴァ
ロシア国立交響楽団〈シンフォニック・カペレ〉
[   曲目   ]
チャイコフスキー:
スラヴ行進曲 op.31
ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 op.23
交響曲第5番ホ短調 op.64

高校生のころ、今では信じがたいだろうが「ステレオ・コンサート」というのがあった。ステレオレコードを、ホールの舞台の両端に置かれたステレオスピーカーを通して音楽を聴くというものだ。当時は未だステレオが一般に普及していなかった。入場料は数十円だったと記憶しているが、貧乏学生にとっては有難い存在だった。
ある時、そこでチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を聴き、なんという素晴らしい曲だろうと深く印象に残った。ピアノはリヒテルだが交響楽団は不明。司会者が、ソ連の演奏者のレコードはとても貴重で、リヒテルを「鉄の腕」 を持つピアニストだと紹介していた覚えがある。
以前の新聞広告で「チャイコの一番」と書かれていたが、コンサートの広告だったので多分「チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番」を指しているんだろうと思い、クラシックファンではこの略称で通じるほどの有名なんだろう。「メンコン」「モツレク」の類である。
ただ、生演奏を聴く機会のないまま今日まで来てしまい、来日したロシア国立交響楽団の演奏プログラムにチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番とあったので、出かけた次第。
いつもは最も安い席を取るのだが、今回は張り込んで1階のほぼ中央付近の良い席を確保した。

「スラヴ行進曲」
冒頭のメロディを聴いて、ああこの曲だったのかと。誰でもが一度は耳にしたことがある物悲しい旋律で始まり、次第に勇壮な行進曲風な旋律に移り、終盤にはティンパニーの連打で盛り上がる。
19世紀に起きたトルコーセビリア戦争で、同じスラブ民族としてセビリアを支援するための曲だった。曲の中にセビリア民謡の旋律がとりいれられている。

「ピアノ協奏曲第1番」
期待通りの素晴らしい曲、そして他の生演奏を聴いていないので比較はできないが演奏もまた素晴らしかった。
この曲の魅力はなんと言っても冒頭部分で、華麗で壮大な旋律は一度聴いたら忘れられない。ただこの旋律はその後には再現されない。
第一楽章ではいかにもスラブ風な旋律が流れ、静かに始まる第二楽章は洒落た旋律に聴こえる。第三楽章ではピアノの技巧とオケの力強い演奏から、最終章ではピアノとオケとの盛り上がりによりカタルシスを味わえる。
やっぱり来て良かったと、そう思った。

「交響曲第5番」
ディスクを含め初めて聴く曲だった。チャイコフスキーの交響曲というと「悲愴」と名付けられた第5番が有名だが、この第5番も負けず劣らずの名曲だと思った。
この曲の第一主題は「運命の動機」と名付けられているそうだが、これが全楽章に登場する、とても印象的な旋律だ。特に第一楽章の冒頭にクラリネット2本で演奏され、耳に残る。第二楽章ではホルンが、第三楽章では木管が、そして第4楽章では序奏と終結部分に、それぞれ演奏される。

指揮のヴァレリー・ポリャンスキーは「赤いカラヤン」という綽名があるそうだが、巨漢で愛嬌のある人だ。観客の再三のアンコールに対して「時間だから」とばかり腕時計を示したり、観客の拍手に合わせて手を振りながら退場していた。
満足の演奏会だった。

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2019/07/15

「白酒・三三・萬橘」(2019/7/14)

「三つ巴」昼の部
日時:2019年7月14日(日)13時
会場:よみうり大手町ホール
<   番組  >
三遊亭萬橘『孝行糖』
桃月庵白酒『代脈』
柳家三三『五目講釈』
~仲入り~
三遊亭萬橘『紀州』
柳家三三『転宅』
桃月庵白酒『百川』

「白酒・三三・萬橘」人気の若手による三人会。各2席ずつ演じて昼夜公演で、その昼の部へ。
白酒がマクラで、こんな事を言っていた。落語は個人で演るものなので、仕事を離れて互いに個人的に親しい人というのはいない。師匠の雲助も白酒も、普段は他の噺家とは会わないようにしており、たまたま出会ってもアイコンタクト程度で挨拶もしないと。狭い世界なのに、未だに一度も顔を見た事がない噺家もいるという。楽屋に集まっても、この日に掛けるネタの打ち合わせなんかしないと。
それは噺家だけでなく、落語好きにも言えた。昔の寄席なんて偏屈オヤジの集まりみたいだった。親しい仲間が集まってグループで寄席に来るなんて光景はなかった。落語のファン層は確実に変化してきているようだ。

一人が2席ずつ3時間の会で、しかも昼夜公演っとあって、それぞれ手慣れたネタを掛けていた。従って、適度に楽しむことはできたが、これと言った特記事項もない。それじゃあまり愛想がないので、
三三『五目講釈』について。
道楽が過ぎたあげく、勘当されて親方のところに居候している生薬(きぐすり)屋の若旦那。どこかで働きなさいと意見する親方に、若旦那は講釈師になると言い出すので、親方は長屋の連中を集め、若旦那の芸を披露させることにした。若旦那は「赤穂義士伝」の抜き読みを読み始めると、これがなかなかの腕前。処が、次第に「新選組」だの「平家物語」だのと話が飛んで行ってしまい…。
別題を『居候講釈』、古今亭志ん生は『調合』として演じていた。
他に、船中でサメに囲まれた時、乗客の講釈師が船べりで講談を演じてサメを退散させるというストーリーのものもあり、5代目三遊亭円楽はこれを『五目講釈』として演じていた。古今亭菊志んは同じ噺を『兵庫船』として演じている。
要は、有名な逸話や時に時事問題まで取り入れたハチャメチャな講談をもっともらしく語る所がミソで、講釈の腕前を聴かせるとこが肝要。
三三の講談も上手いもんだ。

余談になるが、先年イエメンを旅行した時に、初めて「鍛冶屋」を見た。『紀州』にあるようにトンテンカンと槌を打っていたが、あれは大変な作業だ。農村では、少年が村の井戸から水を汲み上げ、桶に入れて天秤に担ぎ家まで運んでいるのを見た。『水屋の富』を彷彿とさせた。
古典落語の姿も、ああした国に行かないと味わえない。

 

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2019/07/14

青年座「明日-1945年8月8日・長崎」(2019/7/13)

劇団青年座 第237回公演「明日-1945年8月8日・長崎」

日時:2019年7月13日(土)14時
会場:東京芸術劇場・シアターイースト
原作=井上光晴
脚色=小松幹生
演出=鈴木完一郎
演出補=山本龍二
<   キャスト   >
巡査/堂崎彰男=桜木信介
堂崎ハル=津田真澄
銅打弥助=山﨑秀樹
銅打みね子=柳下季里
三浦泰一郎/高谷藤雄(声)=山賀教弘
三浦ツイ/高谷藤雄の母(声)=山本与志恵
石原継夫=逢笠恵祐
福永亜矢=小暮智美
水本広=高松潤
水本満江=田上唯
助産婦/産婆=佐野美幸
山口由信=五十嵐明
山口キヨ/おばさん=遠藤好
三浦ヤエ=角田萌果
中川庄治=前田聖太
ツル子=田邉稚菜
<演奏>
ピアノ=大貫夏奈
ヴァイオリン=菅野千怜
チェロ=石貝梨華

この作品は、1945年8月8日から9日の早朝までの、つまり長崎に原爆が投下される直前までの、長崎市に住む市井の人々の生活を描いたもの。つまり原爆を書かずに原爆の惨禍を描いた作品だ。
原作者の井上光晴によれば、長崎の原爆投下地点周辺を歩いていたら、住宅の物干し台に洗濯物が干されひらひらしているのが目に留まった。それで原爆投下の前の日もこうした光景だったんだろうと、この作品が閃いたとある。
調べてみると、この地域では前日に一組の結婚式が行われ、二人の赤ん坊が誕生していた。原作者は生存者の記録や証言を得て、本作品を書き上げたようだ。

舞台は、結婚式を挙げた二人とその列席者たちの家族の様子が描かれ、それぞれが「明日~~するけんね」といった会話を交わしあっていた。8月1日には長崎市内が空爆され、また米軍が九州に上陸してみな殺しにされるという噂が流れ緊迫した状況もあったが、それでも人々はごく当たり前の日常を送っていた。
8月9日午前4時17分に新たな生命が誕生する。「かあさん、きつかよ」とうめく娘の手を握り、赤ん坊の泣き声が響くと、ほっとした母親が空を見上げながら、こうつぶやく。
「ああ、明けたよ。今日もよか天気になるじゃろう。よか日和たい。ほんなこつ」
このおよそ7時間後に原爆が投下され、7万3千人あまりの人が亡くなるのだ。

演劇を観る機会はそう多くはないが、なかで青年座の舞台を観る比率が高い。
それは、この劇団の上演作品の多くが社会問題に切り込んでおり、かつ楽しい舞台を披露してくれるからだ。
やはり芝居は楽しくなくてはならない。
本作品も登場人物と一緒に笑ったり泣いたりホッとしたりしながら、終ってから怒りがこみあげてくる、そういう舞台だった。

公演は17日まで。

 

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2019/07/12

恵比寿まめかな寄席(2019/7/11)

「恵比寿まめかな寄席」7月公演 昼の部
日時:2019年7月11日(木)14時
会場:恵比寿・エコー劇場
<  番組  >
柳家寿伴『宿題』
三遊亭萬橘『時そば』
どぶろっく『歌ネタ』
柳家喬太郎『夜の慣用句』
~仲入り~
坂本頼光『血煙り高田馬場』
林家あずみ『三味線漫談』
桂文珍『スマホでイタコ』

「恵比寿まめかな寄席」には何度か足を運んだが、この会場での開催は今回で終了、次回は別の会場でファイナルを行うようだ。
この会でしか会えない芸人もいて貴重な存在だっただけに残念。

寿伴『宿題』
稽古不足だったかな。

萬橘『時そば』
最初のソバ屋の所でスベってしまい、会場がシーンとなる場面もあった。翌日のソバ屋の場面では盛り返して受けていた。最初の日の客は兄いで、その手口を弟分に教えて翌日・・・、という独自の演じ方。翌日のソバ屋の場面で食い終わった客が「さっき、よそで不味いの食ってきたから」に、ソバ屋が「えっ、うちより?」と返すギャグは秀逸。

どぶろっく『歌ネタ』
初見。演目を何と書いていいのか、漫才でもないしコントとも違うので「歌ネタ」とした。かなり売れてる人気者の様で場内は盛り上がっていたが、私には最後まで面白さが分からなかった。こっちの感性なのか、相性が悪いのか。
たまにTVでお笑い番組を見ることはあるが、過去に面白いと思ったのはサンドウィッチマン、東京03と中川家ぐらいで、他は総じてつまらなかった。年かね。

喬太郎『夜の慣用句』
お馴染みの池袋ネタのマクラから、これもまたお馴染みの本題へ。なにせ数ある新作の中でも名作ですからね。この日が鈴本の夜トリ初日で、そっちで頭が一杯と、チラリと本音も。

頼光『血煙り高田馬場』
活弁を寄席芸にした功労者だ。言われて気が付いたのだが、音楽は本人が編集して入れたもので、無声映画には音楽も入ってないもんね。
映画は1928年制作のもので、主演は大河内傳次郎で、私が知った頃は『丹下左膳』をよく演じていた。「シェイハタンゲ、ナハシャゼン」の決めセリフが有名だった。ご存じ「喧嘩安兵衛」を演じて、脇役に若き日の「ばんじゅん」こと伴淳三郎が出ていたのがご愛敬。

あずみ『三味線漫談』
進歩しつつあるのは認めるが、「伊勢音頭」で♪尾張名古屋はヤンレー城でもつ♪の所で音を外すようじゃ、まだまだ。

文珍『スマホでイタコ』
時事問題など採り上げながら、いつの間にかネタにつなげるマクラは巧みだ。上方落語界では上から8番目の年齢に達したそうで、7人見送ればトップに立てる、「7人の弔い」。
スマホにイタコのソフトを入れるとあの世と繋がり、師匠の文枝(良い方の文枝と言っていた)とも会話ができる。「亡くなった先輩たちも極楽寄席で活躍している。さっきジャニーさんが通っていった。談志は地獄だからここにはいない」。そんな会話をしているうちに本人がスマホの中に入ってしまい、気が付けばあの世に着いていたといったストーリー。
ネット版『地獄八景』ともいうべき趣きであまり新鮮味はないが、面白く聴かせていた。

 

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2019/07/11

「三遊亭圓歌 独演会」(2019/7/10)

みなと毎月落語会「三遊亭圓歌襲名記念落語会」
日時:2019年7月10日(水)19時
会場:赤坂区民センター
<   番組   >
前座・立川らくぼ『権兵衛狸』
三遊亭圓歌『南国慕情』
~仲入り~
三遊亭圓歌『母ちゃんのアンカ』

この落語会は「Kissポート財団」が主催しているが、企画・制作は「立川企画」。そのせいかプログラム1枚作るでなし、囃子はテープと実にケチくさい。この規模の会場を使うなら、せめて三味線の人ぐらいは呼べばいいじゃないかと、毎度思ってしまう。
前座も立川流から出しているが、これもどうかと思う。どうせ聴いてないからいいけどさ。

永年、寄席に行ってると2代が見られるケースは多いが、3代となると数が限られる。紙切りの正楽と、落語家では三木助、柳好を3代見ていたが、これに圓歌が加わった。

このたび襲名した当代は4代目、2代目も3代目も古典と新作両方を手掛けたが、売れたのはどちらかと言えば新作の方だった。当代もその傾向の様だ。
この日の2席はいずれも鉄板ネタで、寄席に行ってる人なら何度も聴いているに違いない。
圓歌の新作の特徴は「エッセイ落語」とも呼ぶべきもので、自身の生い立ちや家族、公演で訪れた旅先での出来事などを中心に、切れ目で地口を入れて笑いを取るというスタイルだ。時に辛口のネタも挟む。この日だと歴代首相の欠点を語っていたり、安部首相夫妻がよく手をつなぐのを「それ程の女じゃない」と混ぜっ返していた。
それぞれの小咄の完成度が高いので、何回聴いても面白い。客席は爆笑につぐ爆笑だった。

 

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2019/07/09

2019年上半期「演芸佳作選」

2019年1-6月に聴いた演芸のうち、優れた高座を選び、
演者、ネタ、月/日、落語会(又は寄席)の名称
の順に記した。
下記の高座は、年末に発表する「My演芸大賞」の大賞、優秀賞の候補になる。

春風亭一之輔『二番煎じ』1/15「鈴本演芸場」
入船亭扇遊『鼠穴』1/19「朝日名人会」
柳家喬太郎『偽甚五郎』1/19「朝日名人会」
林家種平『居残り佐平次』1/26「国立名人会」
神田京子『与謝野晶子』2/5「国立演芸場」
入船亭扇遊『付き馬』2/17「ぜん馬・扇遊二人会」
立川ぜん馬『ちきり伊勢屋』2/17「ぜん馬・扇遊二人会」
桂吉坊『胴乱の幸助』3/2「花形演芸会」
柳家小満ん『盃の殿様』3/27「人形町らくだ亭」
五街道雲助『九州吹き戻し』4/6「名作落語の夕べ」
春風亭一朝『刀屋』4/20「三田落語会」
露の新治『抜け雀』4/20「三田落語会」
三遊亭遊雀『三枚起請』5/8「芸協仲夏祭花形」
露の新治『大丸屋騒動』5/10「露の新治落語会」
むかし家今松『水屋の富』6/7「国立演芸場」
江戸家小猫『ものまね』6/15「花形演芸会」

例年はどちらかというと下半期に優れた高座が多いのだが、今年は上半期が当りの様だ。早くも「大賞」がこの中から選ばれそうな予感がする。

 

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2019/07/07

新国立『骨と十字架』(2019/7/6)

『骨と十字架』プレビュー公演
日時:2019年7月6日(土)14時
会場:新国立劇場 小劇場 THE PIT
脚本:野木萌葱
演出:小川絵梨子
<  キャスト  >
神農直隆:ピエール・テイヤール・ド・シャルダン(イエズス会の司祭、古生物学者)
小林隆:ブラディミル・レドゥスキ(イエズス会総長)
伊達暁:エミール・リサン(イエズス会の司祭、考古学者)
佐藤祐基:アンリ・ド・リュバック(ピエールの弟子)
近藤芳正:レジナルド・ガリグー・ラグランジュ(バチカンの枢機卿)

新国立小劇場で上演された『骨と十字架』のプレビュー公演を観劇。プレビュー公演での客の反応をみて手直しし、更に3日間稽古を行った後に本公演となる。従って本公演では多少演出が変わる可能性があるようだ。
作品のテーマは「信仰と科学への探求心との関係」。
時代は明確にされてないが、北京原人の発見が行われていたことから1920-30代の物語と思える。
本戯曲は、進化論を否定するキリスト教の教えに従いながら、同時に古生物学者として北京原人を発見し、一躍世界の注目を浴びることとなったフランス人司祭、ピエール・テイヤール・ド・シャルダンの物語だ。
人類の進化を認めれば、人間の祖先はアダムであるという聖書の教えに背くことになる。
ピエールを異端と指弾するバチカンの枢機卿は言う、「探求心は認める、但し、神の教えに反しない限りは」。何故なら全能の神は何もかもご存じだからだ。
ユヴァル・ノア・ハラリ著「サピエンス全史」によれば、人類の科学革命は「ヒトが知らないことを認めた」からとしている。知らないことを認めれば、新たな知識を得ようとする。それによって科学は進歩したという。
芝居は、信仰と科学をめぐる5人の登場人物によるディスカッション・ドラマとして進行する。
どう折り合いをつけてゆくか、5人5様の葛藤が繰り広げられ、それぞれがこの課題に真摯に向き合っていく様子が描かれている。
ただこの辺、私の様な無神論者(形式上は日蓮宗の檀徒だがハナから信じていない)にはなかなか理解し難い処だ。

神農直隆が真っ直ぐな主人公を好演、小林隆と近藤芳正がいい味を出していた。

公演は28日まで。

 

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2019/07/05

国立7月上席(2019/7/4)

国立演芸場7月上席・4日目

前座・立川幸太『道灌』
<   番組   >
立川幸之進『寄合酒』
春風亭傳枝『持参金』
ぴろき『ウクレレ漫談』 
三遊亭笑遊『無精床』
古今亭寿輔『老人天国』
  ―仲入り―
『真打昇進披露口上』高座下手より司会の傳枝、文治、談幸、吉幸、笑遊、寿輔
桂文治『代書屋』
立川談幸『青菜』
鏡味味千代『曲芸』
立川吉幸『らくだ』

国立演芸場7月上席は芸協の真打昇進披露興行で、4日目は談幸の惣領弟子の立川吉幸のお披露目だ。
吉幸の略歴は以下の通り。
平成9年10月 快楽亭ブラックに入門「ブラ房」
平成17年8月 立川談幸門下になる「吉幸」
平成19年7月 二ツ目昇進
平成27年4月 落語芸術協会入会
平成28年4月上席まで前座として務める
令和元年5月 真打昇進
経歴から分かるように随分と回り道をしてきた人だ。特に立川流から師匠と共に芸協に移籍した時は前座修行も経験させられた。でも芸協加入後に4年で真打というのは特例で、それだけ配慮して貰えたということになる。それでも入門から真打まで24年かかったのだから、遠回りには違いない。

幸之進『寄合酒』
初見。無難な出来。

傳枝『持参金』
当代は10代目で、初代は初代談洲楼燕枝が入門時に名乗っていたというから名跡を継いだわけだ。
高座は師匠の鯉昇譲りの軽快な運び。

ぴろき『ウクレレ漫談』 
自虐ネタの後で「明るく陽気に、いきましょう」で締める。ワンパターンだがとにかく可笑しい。

笑遊『無精床』
マクラで、30代の美人理容師に髭を剃って貰う喜びを語っていた。それで思い出したのは、若いころ通っていた理髪店にバストの大きなお姉さんがいて、髭を剃る時に身を乗り出して来るので目のやり場に困った(本音は困ってなかったけど)。
ちょっと形容のしようのない不思議な芸で、楽協には絶対にいないタイプだ。

寿輔『老人天国』
こちらも楽協にはいないタイプ。この日は2列目で熟睡している客を起こさぬようにと静かにしゃべっていた。ネタは先月の中席と同じ。

『口上』では、師匠の談幸がとても嬉しそうだったのが印象的だった。行動を共にし苦労させた分、安堵した気持ちなんだろう。2年前に協会の正会員になってから一気に弟子が4人も増えたのは芸風と人柄からか。

文治『代書屋』
しゃべり方、仕草、クスグリまで全て権太楼にそっくり。きっとネタは権太楼仕込みだろう。

談幸『青菜』
江戸っ子好みのサッパリした芸とでも言うべきか。近ごろこのネタをトリに掛けるような向きがあるが、あれは邪道。談幸の様に暑い時期に軽く演じるのが正解。

味千代『曲芸』
太神楽にあるまじき、どこかのお嬢さん風な容貌。芸は堅実。

吉幸『らくだ』
しみじみ見るとなかなか凄みのある風貌だ。一昔前の東映映画にそのまま出てきそう。ちょいと固い感じだったが、屑屋が酔って兄いに啖呵を切る場面は迫力があった。それぞれの人物の演じ分けに、もっと工夫が要るかも。

 

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2019/07/02

民藝「闇にさらわれて」(2019/7/1)

劇団民藝「闇にさらわれて」
日時:2019年7月1日(月)18時30分
会場:紀伊國屋サザンシアター

作=マーク・ヘイハースト 
訳・演出=丹野郁弓
<  キャスト  >
イルムガルト・リッテン=日色ともゑ
ハンス・リッテン=神敏将
カール・フォン・オシエツキー=佐々木梅治
エーリヒ・ミューザム=横島亘
コンラート博士=千葉茂則
フリッツ・リッテン=西川明
グスタフ・ハメルマン=大中耀洋
クリフォード・アレン卿=篠田三郎(客演)
突撃隊員、親衛隊員など=岡山甫 近藤一輝

命の危険にさらされている息子を必死に助けようとする母親を描いたこの戯曲は、1930年代のドイツでヒトラーが政権を奪取し、思想弾圧や民族浄化を強めた時代に実際にあった物語だ。
弁護士のハンス・リッテンは、父フリッツは高名な大学学長、母イルムガルトという良家に育つが、保守的な愛国者の父とは正反対にマルクス主義に傾倒し、反戦平和運動に身を投じる。父が結婚を契機にユダヤ教からキリスト教に改宗したことの反発から、ハンスはユダヤ教徒となる。
ハンス・リッテンを一躍有名にしたのは、1930年にベルリンの酒場エデンパレスに集まっていた共産党の若者に、ナチス突撃隊(SA)が武器を手に襲い掛かり殺傷した「エデンパレス事件」だ。
この裁判でリッテンはヒトラーを証人喚問した。リッテンは証拠を示してヒトラーの非合法・暴力路線の実態を追及する。
処が、1933年にヒトラーのナチ党が政権を握ると「緊急令」(自民党の改憲案にも類似の案がある)を発令し、国民の基本的人権を奪う。続いて「全権委任法」を発動し、立法権がナチ政府の手に渡ってしまう。政治犯やユダヤ人は逮捕され、強制収容所に送られる。リッテンもこうした中で捕らえられ残虐な拷問を受け、強制収容所に送られてしまう。
当時のドイツは、ヒトラーーとナチは国内では熱狂的な支持を受け、国外でも英国や米国ではむしろヒトラーの手腕を評価する向きまであった。そのため、ドイツ国内で行なわれたユダヤ人殺戮などが一部を除き大きく採り上げられ事が稀だった。
ハンスの母イルムガルトは、杳として行方を絶った息子を救出するために、身の危険を顧みず孤独な闘いを始めるのだが……。

民藝の芝居を観るのは久しぶり、というか数十年ぶりだ。
舞台は、リッテンやその仲間に加えられる残酷な行為と、母親が助命のためにゲシュタボの本部まで乗り込んで交渉、嘆願する姿が交互に演じられる。
リッテンたちの困難な中でも明るさを失わず、最期まで公正で清廉な生き方を貫く姿は感動的だ。
母親を演じる日色ともゑの、凛とした姿は舞台を引き締めていた。
ただ、テーマがテーマだけにいかにも重い。
また、命を助けたい一身とはいえ、息子に仲間を売るよう勧める母親の姿はあまり見たくなかった。実話だから仕方ないのだろうが。

 

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2019/06/30

さだまさし・らくごカフェ・武道館

歌手のさだまさしが落語ファンで、学生時代に「オチ研」に入っていたとは、以前耳にしたことがあるが、神保町にある「らくごカフェ」との意外な関係について、月刊誌「図書」7月号に本人が書いている。

さだは國學院高校の時に落語研究会に所属していた。先輩に橘家二三蔵(7代目橘家圓蔵門下)がおり、さだが在学中に鈴本演芸場で落語会を開いたほどの由緒ある落研とのことだ。OBたちが集まって「語院居の会」を作っているが、さだが会長で、後輩の青木伸広が世話人代表。その青木が「らくごカフェ」のオーナーだ。
10年前に青木が突然「寄席の席亭になります」と言い出した。周囲はどうせ長続きしないからと止めたが、青木は「多分だめでしょうが、もし10年続いたら何かご褒美をください」というので、さだは「ああ、何でもやるよ」と答えていた。それが今年で10年もっちゃたのだ。

ご存じの通り、東京の落語家には階級制度があるが、最も難しいのは「二つ目」の時と言われている。師匠の身の回りの世話が無くなるが、生活は全て自分でしなければいけない。焦りや悩みで自分を見失い、脱落してゆく人も少なくない。
そうした二つ目の噺家に勉強会や独演会の場を与えるのが小さな寄席の存在だ。
「らくごカフェ」は座席数が50席ほどで、席料は2万円。入場料1000円として20人入れば赤字にならなくてすむ。30人入れば1万円の収入となり、貧しい落語家にとっては大きな励みになる。そうした若手に愛され支えられて10年続いたのだ。

その青木が突然、10周年記念の落語会を、それも武道館でやりたいと言い出した。「先輩、約束通りご褒美をください」とさだに出演を依頼してきた。青木が予て知り合いの志の輔と談春にさだを加えての侃々諤々の議論の末、今年の2月25日に武道館の落語会が開催された。
プログラムは、第1部が若手が集まって盛り上げ、最後は一之輔が『堀の内』を演じた。
第2部は、さだまさしのライブ。
第3部は、談春が『紺屋高尾』を演じた後に、さだが『いのちの理由』を歌った。
第4部は、志の輔が『八五郎出世』を演じた後に、さだが『親父の一番長い日』を歌って、お開き。
当日は、平日の午後4時開演にもかかわらず、8000席が完売という盛況。5時間の長丁場は熱気に溢れていた由。
落語通と呼ばれている人にも好評で、出演者一同も「武道館で落語って、ありですね」とすっかり気を良くしていた。

「僕は自信ありましたけどね」と言った青木、実はこのプログラムにある仕掛けが施してあった。
それは、談春と志の輔のそれぞれの1席の後のさだまさしの歌が、ネタへの「返歌」になっているのだ。その理由は、落語とさだまさしの歌に詳しい人には分かる。
そう聞かされたさだは、そっと涙ぐんだ。

 

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