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2005/05/21

これは「殺人事件」だろうか

haboro
北海道羽幌町の道立羽幌病院で2004年2月、自発呼吸できない男性患者(当時90歳)の延命治療を中止し、死亡させたとして、北海道警は5月18日、当時の担当医だった道職員の女性医師(33)を殺人容疑で旭川地検に書類送検しました。
今回は、高齢の心肺停止状態で入院してきた患者が、意識が戻らず、医師が脳死と判断し、患者家族も同意の上、人工呼吸器を外し、死亡させたとのことです。
延命治療の中止で医師が刑事責任を問われるのは、全国でも多分始めてのケースだろうと思います。
この事例ですが、果たして殺人罪として立件するような、中身だったのでしょうか。

5月20日、与党の有志議員が、「脳死はすべて人の死」と定める臓器移植法の改正案を最終的にまとめ、法案を公表しました。一方、協議に加わっていた議員の一人は、現行法通りに「臓器を提供する場合に限って脳死を人の死とする」と定めるという、別の改正案を公表しました。両者はそれぞれ、与野党に呼びかけて議員立法としての法案提出を目指すそうです。
このように、脳死一つをとっても、その解釈は大きく分かれているのが現状です。

「延命治療の中止」については、以前横浜地裁判決が①回復の見込みがなく、死期が迫っている ②治療行為の中止を求める患者の意思表示か、患者の意思を十分に推定できる家族の意思 ③「自然の死」を迎えさせる目的に沿った決定-の三要件を満たすことが必要、との判断を示しています。

ここでいう自然死とは、どのような定義なのでしょうか。
法律上は、病気によるものを自然死、それ以外の死因がはっきりしない変死、自殺、交通事故などを事故死と、分けています。
生理学(正確な言い方かどうか分かりませんが)では、老化とともに回復力(生命力)が落ちてきて、バランス良く生命を全うしたとき、それを自然死と言い、きんさん、ぎんさんのような場合が、これに当てはまるそうです。
一方最近では、臨床的には、無駄な延命医療を中止して病気の成り行きに任せての死(いわゆる尊厳死)のことを自然死と呼んでいるようです。
「自然死」を取り上げても、その解釈はさまざまです。

「患者の意思確認」も同様で、意識不明の患者の意思など、誰も確認できません。
家族の同意とありますが、家族はどの範囲なのでしょうか。末期患者の場合、付きっ切りで看病している家族と、遠方にいて滅多に見舞いにも来られない家族との間で、意見の相違があることは珍しくありません。
そして同意の方法は、文書なのですか、それとも口頭で良いのでしょうか。“患者が死亡することに同意します”という文書に、果たして署名する人がいるのでしょうか。

「人の死」をめぐっては、現在あまりに問題が多すぎるのです。

医師は、患者の治療に全力をあげることが要求されますが、同時に患者家族とも向き合わねばなりません。長期になれば、看病による精神的肉体的負担や、経済的負担など、家族の事情もある程度考慮しなくてはならない。患者が苦痛に喘いでいれば、“先生、早く楽にして上げて下さい”という、家族も出てくるでしょう。

この事件の場合、脳死判定を担当医個人で行ったことには問題がありますが、家族の同意を得て人工呼吸器を外していますし、故意で人を殺した殺人事件とは、どう考えても馴染みません。
これを立件化した、北海道警の判断は、誤りだと思います。

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医療・福祉」カテゴリの記事

コメント

「医学コミック作者の独白」の管理人、sashuです。
拙文にTBありがとうございました。
記事読ませて頂きましたが、全く同感です。
プロフィールも読ませて頂きました。……私も同じような性格なので、とても親しみを感じました。
また、訪問させて頂きます。

TB有難うございます。

私は自己決定権を重視する立場をずっととっております、従いまして、今回の医師の行為については、本人の意思が確認されていないのに、家族の願いを聞き入れたというところが問題であると考えます。

しかしながら、家族も医師に対して、責任もとれないようなことを頼むものではないと思いますし、今回の事件については、その点が明確でないのでなんとも申し上げようがありませんが、頼んだのであれば最後まで責任をとるべきだと思います、医師に対して言い散らして良いというものではないでしょう。

愚痴のようなブログに、
TB ありがとうございます。

詳しい背景がわかりませんので、この判断を弾劾できませんが、疑問の多いニュースでした。今後の推移を、注意深く観察していきたいと思います。

私は、権力行政が人の死、倫理的な問題に介入してくるのは越権だと思います。

刑事訴訟法は第189条第2項で、「司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査する」として犯罪の捜査を義務的に行わなければならないとしてます。そして、同法第246条では「司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない」とあります。これは「全件送致主義」といって警察の勝手な判断を防止しています。とはいえ、無数にある犯罪のすべてを立件することはできません。現実には送検していないものもあります(これは条理によるものとされています)。

今回の事件は医師自らが引き起こした騒動であり、罪状としては「殺人」となります。そのため警察としては無視できる枠を大きくはみ出しているように思います。今回の送検はこれらすべて原則に基づいている、いわぎ警察の義務を粛々とこなしただけの道警を非難することはできません。

今回の事件が検察官に送致された後は、同法第248条に「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる」とあります。起訴するか否かの段階においては、検察官に一定の裁量権を与えています。

TBありがとうございます。
私としては、現在の日本では「人の死」に関する論議が避けられがちなところを考えると、警察の判断は賢明だと思います。私は今回の送検に関しては、有罪とした判断ではないと思っています。
今回の事件を記に「人の死」の定義や死に行く人間の意思などをどう考えていくのか、積極的に考えるべきではないかと思います。

TBありがとうございます.私は現場の最前線で働いている医師ですが,プロセスに問題があるとしても人としてそれほど外れたことをしていないと思われるにもかかわらず,殺人者にされてしまってはたまりません.現状ではどんなに家族に懇願されても医師が自ら呼吸器を外すことはしないと思いますが,これが本当に人として正しいかどうかはいつも疑問に思います.それとも我々医療サイドが世間の常識からはずれているのでしょうか?いずれにしてもマスコミのあおり方は気に入りません.こんな状況では医療に身を捧げる人なんていなくなってしまいますよ.

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