国立演芸場「花形演芸大賞」受賞者の会
落語ブーム、お笑いブームと言われているのですが、確かに最近寄席や独演会に、若い、それも女性が増えました。会場も華やいだ雰囲気になり、喜ばしいことです。TVのドラマやお笑い番組の影響もあるようですが、彼女達の会話を小耳に挟むと、昨日今日の落語ファンでは無さそうです。
6月26日の国立演芸場「H16年度 花形演芸大賞受賞者の会」も、そうした若い客が、立ち見を含めて大勢詰めかけました。
この演芸大賞は、国立演芸場に出演する若手(と言ってもこの世界、結構皆さん歳がイッテますが)芸人の中から、優秀な芸人が選ばれます。特に色物と言って、ボーイズや紙切り、大神楽といった、普段とかく陽の目を見ることが少ない分野の芸人には、大きな励ましになっているようです。
歌舞伎と違って、世襲制度がない寄席の世界ですが、最近親の後を継ぐ芸人が、増えたようです。
今回も、金賞受賞の林家二楽の父親は、先代林家正楽です。先代は東北訛りが取れず、落語家を諦め紙切りに転じた人でしたが、先年私が寄席で見た直ぐ後で急死し、驚いたことを思い出します。
二楽は、父親とは全く違った芸風で、紙切りをOHPを使ってショーアップするという、独特の演出で注目されています。
銀賞受賞の三遊亭金時の父親は、当代の三遊亭金馬です。当代の金馬は、若い頃は下手な噺家で、売れなくて腹話術をやっていました。その後NHKのお笑い番組でブレークしましたが、私は未だに上手い噺家とは思っていません。
息子の金時は本格派で、昨年の芸術祭新人賞に次ぐ、今回の受賞となりました。完全に父親を越えています。当日は「青菜」を演じましたが、この噺、旦那のユッタリとした大らかな人物描写と、庭先での会話に涼風を感じさせるのがポイントとなりますが、金時はしっかりと演じていました。
銀賞の鏡味仙三は、国立演芸場の養成所出身だそうで、芸歴7年というのには少々驚きました。どうしてどうして、大神楽を一人で演じて、しかも結構オリジナリティーも出しているのですから、大したものです。
金賞のポカスカジャン、寄席のボーイズ物という枠をはみ出した芸風で、何よりサービス精神旺盛なのが良い。でも、当日私を指差して、“あそこに、顔が黒く、アタマの白い背後霊が!”と言ったので、減点です。
もう一人の金賞は、昨年に引き続き柳家三太桜でした。後輩の喬太郎に大賞をさらわれた悔しさが、アリアリでした。でも私は、ああした楽屋落ちは、あまり高座で出さない方が、好感が持てると思います。
演目は「宗論」、浄土真宗とキリスト教の宗教論争という、テーマが避けられるのか、最近高座で聞く機会が減った演目です。三太桜は、キリスト教信者の息子を、思い切って戯画化する演出で、客席に笑いを巻き起こしていました。
客演は、柳亭市馬です。これも最近では珍しい「堪忍袋」を、正攻法で演じました。私はこの人の、高座での歩く格好が好きで、ファンなのです。
最後は大賞受賞の、お目当て柳家喬太郎です。昨年は銀賞でしたので、一足飛びの大賞受賞となりました。この1年で、そんなに急に進歩する筈も無く、むしろ喬太郎に対する、専門家の評価が変わったと見るべきでしょう。
喬太郎は、新作と古典の二本立てで通していますが、どちらかというと本人は、新作に傾いているようです。私も喬太郎の芸は、新作の方を買っています。落語を聞きにきた客に、古典より新作で聞かせる方が、難しい。喬太郎の自作の新作は、正直言ってそう面白いホンにはなっていない。従って、演出、演じ方で聞かせることになります。
当日は「すみれ荘201号室」、大学オチ研をネタにした、自虐性の濃い自伝的作品です。喬太郎は、会話の“間”の取り方と、女性の微妙な表情を良く捉えて、客を噺に引き込んでいました。
時代はやはり、志の輔、喬太郎でしょうか。
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» ブームと言われて喜ぶ人。 [ばかまねえさん、まぬけのうがち。]
落語について(シロツメクサ便り) 正直な感想だと思います。かなりの割合で共感でき [続きを読む]
トラックバックありがとうございます。
表彰式っていうのも、いつもの寄席と違っていいものでしたね。喬太郎師の黒紋付姿、初めて拝見しました。
さて、来年は誰が受賞でしょう?あ。気が早いですね。
投稿: 築地の柳 | 2005/06/27 22:55
築地の柳様
確かに表彰式とうのは、独特の華やいだ雰囲気がありますね。
それと、旬の芸人を一同に見られ、得した気分にもなれます。
芸術協会の噺家の受賞が無いのが、チョット寂しかったですね。
投稿: home-9 | 2005/06/28 22:58