“志の輔noにぎわい”
横浜にぎわい座での立川志の輔独演会のチケット入手が、段々難しくなっています。ここの演芸場の前売りは、通常前月の1日ですが、志の輔の公演だけは10日発売にしています。でも当日、時間開始と共に電話をかけ続け、ようやく1時間後につながった時は、二階席しか残っていなかった。
それでも、普段はホールでしか聞けない志の輔を、演芸場で聞くこのゼイタク、最高のゼイタクかも知れません。
人気はTV出演の影響もあるでしょう。しかし人気番組“笑点”のレギュラーで、まともな落語が出来ない芸人がいるのですから、志の輔の場合はやはり実力と、何より客へのサービス精神が、人気の源です。
7月9日、“志の輔noにぎわい”昼の部に行きました。
当日は昼夜2回公演でしたが、志の輔本人が言ってたように、多分昼の部に行った客が正解だったと思います。独演会の昼夜公演は、キツイでしょうね。
開口一番は、弟子の志の春、「真田小僧」です。前座噺でやり易く、そこそこ笑いが取れるのでしょうか、最近どこに行っても、この「真田小僧」。少しは客の身にもなってくれ。前座噺も数多くあるのですから、三代目三遊亭金馬のCDでも聞いて、勉強しなさい。
続いて、これまた弟子の志の八で「唖の釣り」。タイトルに放送禁止用語が含まれているのと、障害者差別に配慮してか、最近余り高座にかけられなくなった噺です。古典芸能と差別問題、なかなか悩ましい問題ですが、それを言い出すと、“与太郎さん”も出られなくなる恐れがあります。
古典芸能に限って、ある程度割り切りが必要でしょう。そうしないと、この噺のオチで、「ああ、器用な唖だ、口をきいた。」が、通じなくなってしまう。
志の輔の一席目は、「千両みかん」。
志の輔の魅力の一つに、マクラから本題に入る入り方が、とても上手いことが挙げられます。ロンドンでのテロ事件や、郵政民営化などコンテンポラリーな話題を振っておいて、スッと演目に入る、このタイミングが絶妙です。
その「千両みかん」ですが、これまた珍しい演目に入るでしょう。古くは古今亭志ん生や長男の先代馬生が、時々高座にかけていました。志ん生のCDを聞くとマクラで、「この噺は上方からきたもので、大変良く出来た噺ですが、(演者には)損な噺であります。」と言ってます。つまり難しい割には、客に受けない噺と、志ん生が言っているわけです。
みかん食べたさに死ぬほど患う息子、そのみかんを入手するために奔走する番頭、みかんに千両(今の金にして1億円相当)の金を払う主人、どんな果物でも、一年中手に入る現代人の生活感からは、この噺に共鳴が出来ない。そうするとみかんを3房持って、番頭が夜逃げするという、この噺のオチがピンとこない。
志の輔の演出は、オリジナルに手を加え、みかん問屋で苦労しながら、たった一つのみかんを探し出すという場面に時間をかけ、当時の夏にみかんを入手する難しさを出していました。
それと、このみかん問屋の主人が、いかにも大店の主人という性格付けにすることにより、慌てる番頭との対比をくっきりと浮かび上がらせていました。
志の輔は、この“損な噺”で、見事に客を引き込んでいました。
中入り後の、新良幸人と志田真木による沖縄歌謡と舞踊(初見)を間に挟んで、志の輔の二席目は「もう半分」。
先ず、この演し物の選定に驚かされます。確かに今は夏ですから、怪談噺というのはアリでしょう。しかしこの「もう半分」は、かなり陰惨な内容であるのと、例えば「牡丹灯篭」と比べて色彩感が無い。従って、演者の少ない演目なのです。
お婆さんものなど新作落語で一時代を築いた五代目古今亭今輔が、滅多にやらない古典の一つとして、時々高座にかけていた程度です。
娘を吉原に売って得た50両を酒屋に置き忘れる八百屋、それを届けようとする酒屋の主人、ネコババをそそのかす女房の性格付け。特に最初は金を届けるつもりの主人が、女房の説得で次第に心変わりする主人の心理描写が見事です。
志の輔の演出は、全体を芝居噺のように演じ、リアリティを出していました。
志の輔の明るい性格が、この噺の陰惨さを薄め、観客の共感を得ていました。熱演でした。
名実ともに、落語界の第一人者に成ったと言っても、決して誉め過ぎではないでしょう。
この日の客は、皆満足して家路につかれたでしょう。
ただ心配なのは、そのうちここの演芸場で、志の輔を見られなくなるということで、杞憂に終われば良いのですが.。
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» 「志の輔らくご新古典の世界」鑑賞 [和日記日和]
行ってきました。今年3回目の生らくご。 前から楽しみだった、立川志の輔師匠のパルコプロデュース「志の輔らくご新古典の世界」。 独演会とはいえ、一席目は弟子がはなすものだと思っていたので、幕があがり志の輔師匠が出てきたときは驚きました。この「志の輔らくご」は三席とも志の輔が演じるものだったんですね。 ...... [続きを読む]
» 笑門来福〜志の輔 no にぎわい@横浜にぎわい座 [Hush!!]
雨にも負けず、
セールにも目もくれず
中華街にも背を向けて
志の輔目当ての横浜詣で。
今日の演目は
・千両みかん
・もう半分
出来はもちろん言うことなし。
志の輔さんの舞台で、毎回、落語と同じくらい楽しみなのが
枕や締めで語られる、落語にかける想い... [続きを読む]
TBありがとうございました。
お礼まで・・・・
投稿: ぶ~ | 2005/07/12 10:43
ちょうど折も良く、読売関西版に志の輔師匠のインタビュー記事が掲載されていますね。
http://osaka.yomiuri.co.jp/miseru/mi50711a.htm
投稿: satoka | 2005/07/12 18:19
はじめまして、TBありがとうございました。
今年は、まだ志の輔師匠のみならず、落語をナマで聞けていません…
投稿: 和 | 2005/07/12 21:56
トラックバックありがとうございました。
たしかに、「志の輔noにぎわい」は、今いちばんチケットが入手しにくく、また、あとあと語られることになる独演会なのかもしれませんね。
投稿: かくらん堂 | 2005/07/12 23:58
TBありがとうございました。
私は夜公演にいったのですが、昼夜演目は同じだったのですね。
「21世紀」に文楽や能との競演など様々な取組みをされているおかげで、ご本人の度量はますます広く深くなり、そしてチケットは取りづらくなる。。といったところでしょうか。
貴重な演芸場での高座、来月はお休みだそうですがこれからも頑張って足を運ぼうと思います。
投稿: Chieee | 2005/07/17 01:19
Chieee様
志の輔は、古典の伝統を守りながら、新しい分野に挑戦し続けています。
人気に決して溺れない、こうした姿勢が、ファンの共感を呼ぶのだと思います。
投稿: home-9 | 2005/07/18 11:43