第7回「志らく百席」
立川志らく、談志門下きっての才人です。映画は脚本から監督、演劇の座長もこなし、落語論の著作も多い。じゃあ、こうした才人が、皆一流の芸人になるかといえば、そうは限らない、そこが芸能の世界の難しさです。その志らくが、現在“志らく百席”に挑んでいます。
ラインナップを見ると、軽い“道具屋”から、大ネタの“文七元結”まで、古典の名作の数々に、シネマ落語が6席混じっているところが、いかにも志らく。
第7回の志らく百席が、7月1日横浜にぎわい座でありました。
開口一番は、立川志ら乃。前座噺の“真田小僧”でしたが、この噺は、こましゃくれた子供が、大人をたぶらかすところに可笑しさがあるが、志ら乃の口調では、中学生くらいに見えてしまう。先日の国立演芸場で聞いた、前座の柳家さん作の“真田小僧”方が、出来が良かった。
この後志らくが連続2席、漫才の宮田陽・昇を挟んでもう1席と、3席を演じました。
この連続2席というのは、とても大変だと思います。落語は、先ずマクラから入って、次第にテンションをあげながら、最後にオチがくるわけです。ここから、一息つく暇も無く、次の噺に入るのですから。
これを避けるために、大半の独演会は通常2席にしているのでしょう。
1席目は“二十四孝”。三代目春風亭柳好が、得意ネタとしていました。自分の親や女房に暴力を振るう男を、大家が中国の故事を教訓に、諭すというストーリーですが、志らくは畳み掛けるようなテンポの良さで、一気に聞かせました。
随所に、新しい感覚のクスグリも入れて、自家薬籠中の物としていました。
連続の2席目は“化け物使い”。三代目桂三木助が得意としてましたし、最近では志ん朝の名演がありました。前半の人使いの荒い主人と実直な奉公人とのヤリトリ、後半の主人が化け物を脅かしながらこき使うところが、聞かせどころです。
マクラで、世の中に幽霊やお化けはいない、もしいたら広島球場で、バースがサヨナラホームランを打てるわけがないというあたり、いかにも志らくらしい。
本題に入ってから、欲を言えば、主人をもっと因業そうに演じたほうが良いでしょう。
3席目は“佃祭”。三代目三遊亭金馬が得意としたネタで、これも古今亭志ん朝の名演がありました。私の大好きな演目ですが、人情噺と滑稽噺が同居している、難しい演目です。
主な登場人物である、祭り好きの主人、嫉妬深い奥さん、3年前身投げをしようとして5両の金を与えて主人が助けた女、その亭主の船頭、通夜に来て的外れなクヤミを言って帰って行く長屋の連中、この演じ分けが眼目です。
しかも、暑い季節の中の涼風感も出さなくてはいけない、大ネタといっても良いでしょう。
志らくは、後半の通夜の場面はハイテンションで、面白く演じていました。
しかし、前半の主人と女との会話には、もう少し情感が欲しい。それと、主人が祭りに出掛けるときの服装を省略していましたが、この主人のいかにも趣味の良い、オットリとした性格の描写には欠かせないところなので、大事にして欲しい。
志らくは、ややくぐもった声質のため、早口になると聴き取り難い、これは噺家としてはハンデです。
三代目桂三木助が、声の音域が狭く暗い印象を与えるため、若い頃は随分と苦労したようですが、後年これを克服して、昭和の名人に加わりました。志らくも、これからより一層の努力が必要でしょう。
とにあれ、百席達成というのは、芸と興行の両方が成功しなくてはいけない、大変なプレッシャーだと思います。
古典を大事にして、果敢に挑む立川志らくに、拍手と声援を送ります。
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立川志ら乃『真田小僧』 立川志らく『二十四孝』 立川志らく『化物使い』 〈お仲入り〉 宮田陽・昇 漫才 立川志らく『佃祭』 志ら乃さんのまくらは身分証提示無限ループ地獄に陥りそうになった話。自分自身が自分だと証明してもらうには自分じゃなくて人なんだなあという話。健康保険には入っておこうと思った。無職になったら免除という方法もあるから。ここのところの志ら乃さんの進化ぶりには目を見張る。言葉選びのセンスがどんどん全面に出てきている。くすぐりも危険度が増しているし。この日の志ら乃さんの最高のくすぐり... [続きを読む]
TBありがとうございます
高座からサービス精神旺盛な芸人さんにいじられる程の常連さんとお見受けします
これからもよろしくお願いします
投稿: ロング | 2005/07/04 07:05
TBありがとうございます。
そうですか、志らく師匠は頑張っているんですねぇ。
私はまだ、CD「志らくのピン1・2」でしか志らく師匠を知りません。
高座を見に行きたいと、志らく師匠を教えてくれた仲間とも話しています。
“二十四孝”、“化け物使い”、“佃祭”音源として公開されてますかねぇ、探して聞いてみます。
投稿: モリチャン | 2005/07/04 10:25
「佃祭」はご指摘の通りだと思いました。
あと季節感もちょっと物足りなかったでしょうか。
25分位で演じましたが、特に9時終演にうるさいホールではないのですから、もう少し時間をかけても良かったのかも知れませんね。
投稿: sokotsuan | 2005/07/04 13:07
モリチャン様
コメント有難うございます。
落語はナマモノですから、冷凍保存したモノ(録音)だけでなく、是非ライブに行かれることをお薦めします。
投稿: home-9 | 2005/07/04 13:10
sokotsuan様
コメント有難うございます。
時間の関係で、少し端折ってしまったのでしょうか。マクラ抜きでも、最低30分は欲しいところです。
季節感が要求される佃祭は、「船徳」同様、とても難しい噺なんですね。
投稿: home-9 | 2005/07/04 13:50
コメントありがとうございました。
トラックバックが通っておられなかったようですのでこちらから改めて打たせていただきました。
志ん朝の「佃祭」も季節情緒があってよかったですよね。
投稿: みるくま | 2005/07/04 22:02
みるくま様
志ん朝の演出では、自宅を出る次郎兵衛のこしらえを、「白薩摩の着物に茶献上の帯、白なめしの鼻緒のすがった雪駄」と表現し、季節感と、次郎兵衛のセンスの良さを、見事に表わしていました。
志ん朝の「佃祭」は、名演中の名演でした。
投稿: home-9 | 2005/07/05 01:17