国際テロの背景(その2)
中東問題の要であるイスラエル対パレスチナの領土問題、しばしば繰り返される両者の武力衝突について、従来多くの日本人は、パレスチナ側への共感、支持の声が強かった。一つには日本政府が、エネルギー源確保のためにアラブ諸国との友好関係を重視した政策を採ってきたことも、無縁ではないでしょう。それにニュースなどで、投石するパレスチナの若者に、重装備のイスラエル正規軍が攻撃する映像を繰り返し見ると、どうしてもパレスチナに肩入れしたくなります。判官贔屓という、日本人独特の心情もあります。
しかし、こうした空気に微妙な変化が起きたのは、2004年11月11日のアラファト氏の死去と、それに続く遺産問題でした。先ず次の数字を見て頂きたい、いずれも丸い数値にしていて、単位は億ドルです。
50 35 5
左からアラファト氏の遺産推定額、パレスチナ自治政府の国内総生産、海外からの援助金(1年間)です。海外援助金については少し古いデータですが、パレスチナ計画国際協力庁(MOPIC:Ministry of Planning and International Cooperation)の1993-1998年間の実績値を採用しました。
アラファト氏の遺産は、パレスチナ自治政府のGDP総額を遥かに超え、海外からの援助金の10年分に相当します。こうしてみると、アラファト氏の遺産が、いかに膨大であったかが分かります。
彼が大富豪の御曹司だったわけではないとすれば、パレスチナのトップの地位の間に蓄財したものと、推定されます。
アラファト氏の死後パレスチナの首脳から、海外からの援助金はアラファト氏の個人口座に入金されていたとの説明がありましたが、各国の援助はその国の税金から支出されていますから、有り得ない話しです。
ではなぜこのような膨大な金額を、アラファト氏は蓄財していたのか、私の推定では次の通りです。
①私利私欲のために、単純に公金横領を繰り返していた。
②援助金の民衆への分配により生活が向上し、対イスラエルへの武力攻撃(爆弾テロなどの)が抑制されるのを避けたかった。保身のためには、イスラエルとの緊張関係を維持する必要があった。
③和平協定を円滑に実行することを条件にした、他国からのワイロ又は裏金が存在した。
①の可能性は、過去のアラファト氏にキャリアから見て、先ず有り得ないでしょう。
③の疑念は完全には捨て切れませんが、可能性は低いでしょう。
そうなると、残り②が、最も可能性が高いことになります。
パレスチナ自治政府が所管する地域は、三重県程度の広さです。ここに住む民衆に毎年600億円近い資金が分配され有効に活用されていたなら、民衆の生活は今とはかなり違っていたと思われます。
その場合、現在進行中の中東新和平(ロードマップ)が、よりスムースに進行していた可能性も高かったと思われます。
今年8月にガザ地区からイスラエルが全面撤退を完了しました。ところが9月下旬、パレスチナ過激派ハマスのパレード中に爆発事故がありました。原因はハマスの武器の爆発だったのですが、ハマスはこれをイスラエルの攻撃だと主張、イスラエル側にロケット弾を打ち込みました。これに対しイスラエルは、ガザに報復の空爆を行いました。
従来なら、ここで両者の武力攻撃がエスカレートする所ですが、今回は違っていました。パレスチナ住民の怒りがハマスに向かい、ハマス側が停戦を表明しました。パレスチナの内部の新しい動向として、注目されます。
パレスチナの民衆が、アラファト氏の文字通りの「負の遺産」を乗り越えて、生活の再建と国作りに向けて、新たな前身を図るよう、心から希望するものです。
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トラックバック有難う御座いましたー かなりお詳しいのですね・・・ これからも宜しくお願い致します!
投稿: 竹ちゃん | 2005/10/16 23:10
TBありがとうございました。死ぬのはいつも最前線で戦っている兵士達です。志の高い政治家が出現してくれるといいのですが、膨れ上がった憎しみは簡単には小さくなりそうもありません。悲しい現実です。
投稿: Nasbon | 2005/10/17 08:57
こんな記事にまたしてもTB有難うございます。アラファト議長には少し不信感があったのですが、なるほど、そういうことをしていた可能性があるわけですね。本当なのであれば、煽動屋より始末が悪いですね。未来永劫憎しみ続けて、一体何が残るのか・・・
投稿: がじゅー | 2005/10/18 00:48
竹ちゃん様
Nasbon様
コメント有難うございます。
金の流れは、政治の流れです。アルカイダやアラファト氏への資金の流れが解明されれば、テロの背景はより鮮明になってくると思います。
真相が明らかになるには、まだ時間がかかるのかも知れませんね。
投稿: home-9 | 2005/10/18 00:53
がじゅー様
そのアラファト氏が亡くなれば、スンナリ中東和平が進むのかというと、決してそう楽観的になれる状態では無い、ここが現在の中東問題が抱えている困難さです。
イスラエルを訪問してみて、解決の難しさをより一層感じてしまいました。
投稿: home-9 | 2005/10/18 09:05
こんにちは。本館(?)の方にも遊びに来させていただきました。
アラファトは腹黒いよ、というのはいろいろな人から聞かされてはいたものの、あの人の良さそうな笑顔を見て「そうかなあ」と思っていましたが、なるほどそういうわけだったのですね。そりゃ奥さんも死後急にしゃしゃり出てくるわけです。奥さんとのあの歳の差もお金のなせる業だったんでしょうか?
中途半端に前の記事にコメントしてすみません^^;
投稿: easihcugih | 2005/11/06 18:05
easihcugih様
アラファトの例に限らず、日本の海外援助のかなりの部分が、実際には政府高官のワイロと化しているのが実情です。
使い道を問わないという今の援助金制度は、見直す必要があるかも知れません。
投稿: home-9 | 2005/11/07 08:09