国交省の責任が問われる『耐震強度偽装』
以前このブログで、「天井落下事故は人災」「手抜き工事は続くよ、どこまでも」の2本の記事で、現在の建設業界が前近代的な産業形態にあり、今後も建築を巡る不正事件は後を絶たないだろうと書きましたが、今回又しても建築に関する不正が発覚しました。
「姉歯建築設計事務所」が、2003年2月~05年10月の間、ビルやマンションなど21棟の柱や梁(はり)の構造計算をする際、建物にかかる外力の数値を実際の約半分にして入力していたというものです。
建物によっては震度5程度の地震で倒壊する可能性もあり、既に入居している住民を中心に、不安が高まっているとの報道です。
現在都会に住む多くの人は集合住宅で暮らしており、私自身を含めて他人事ではありません。今回のような不正は、いつでもどこでも起こりうる問題なのです。
建築には施主(今回の場合は、デベロッパーと呼ばれる業者)、設計、施工、工事監理と多くの組織が係り、更に「建築確認」や「工事完了届け」を地方自治体に提出することが義務付けられています。
つまり本来は、これだけ相互のチェック体制が出来ているわけです。
今回の明るみに出た不正を見ると、「姉歯建築設計事務所」は個人事務所であり、仕事の多くは、元請である大きな設計事務所の下請けであったと見られます。不正に作成された構造計算書には、認定番号の印字も認定書も添付されていなかったということですから、先ず元請の設計事務所が気付かなくてはいけない。
更に、国交賞指定の検査機関により―今回不正のあった物件の大半は「イーホームズ」社が検査していますが―審査と建築確認を受けるのですが、中身はともかく、認定番号と認定書が揃っていないというのは、形式上の不備ですから、これも当然気が付くべきです。
私が最もいぶかるのは、施工会社=ゼネコンです。
建物の強度を半分に減らす為には、鉄筋の数を減らしたり、柱を細くしたり、壁を薄くしたりしたのでしょうから、ゼネコンは気が付くべきです。ゼネコン社内には、沢山の構造計算の専門家がいますし、それでなくとも従来の経験から、オヤッと思うが普通でしょう。
設計事務所が作成した設計書が、施工の実情と合わず、ゼネコンからの指摘で修正されることは、そう珍しくない筈です。
ゼネコンは気が付いてはいたが、見て見ぬ振りをしていた、私にはそうとしか見えません。
施工監理は、設計通りに施工されているかを監理する機能があります。
本来この段階でもチェックが働くべきなのですが、以前の記事でも指摘したとおり、殆どの工事でゼネコンが施工監理会社を指定するため、ここが正しく機能しない。
そして施主のデベロッパーですが、ここも素人が持ち家を建てるわけではなく、プロ集団ですから、明らかな設計ミスには、気が付いてもおかしくない。
処が、デベロッパー自身が「姉歯建築設計事務所」を指定していたとの報道からすれば、不正に係っていたか黙認していたか、疑義が持たれます。
結論から言えば、今回の件は、全ての関係者が寄って集って不正を働く、あるいは意識的に見逃してきた結果と想定されます。
その背景に、建設業界の体質があります。
公共工事では談合し、民間工事ではコストを抑えるために手抜きや不正を行う、この体質を改めない限り、これからもこうした欠陥ビル、欠陥マンション、欠陥住宅は、絶対に無くなりません。
このことは、国土交通省が、一番分っている筈です。でも彼らは、決して改めようとはしない。
それは根底に「政・官・財・学」の相互癒着があるからです。
小泉首相が唱える「構造改革」は、こうした課題こそ真っ先に取り組むべきだと、私は思います。
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いや、驚いた。
何処の国の話かと思ったら、日本の、しかも東京の話ではないですか!
それも、2、3階建てとかでなく、中高層の物件・・・
こりゃ大変な事件がおきたものだ。
しかし、こういった事件の背景が解らないでもない。
昔、某建設会社の設計部で働いていた私。
設計部では、構造事務所とのやり取りで
「もっと梁小さくならないか?これじゃキッチン納まらないよ」
とか、
「確認申請いついつまでに出さ... [続きを読む]
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今回の事件は、まず [続きを読む]
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----------------(以下引用)--------------------
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件が発覚し、大きな問題になっている。
震度5程度でも崩壊するおそれのあるビルがあるようで、まさに人命や財産を左右する
ような問題である。
もちろん最も悪いのは、偽造した設計士であり、それを依頼または容認した業者である
ことは言うまでもない。(これもやたらコストダウン&利益を優先する傾向が影響して
いるかも知れないとも思う。)
だが、もう一つ問題視されているのが、民間の検査機関がチェックできなか... [続きを読む]
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作成した構造計算書を基に、建築確認審査や完了検査を行った指定確認検査機関「イーホ
ームズ」(東京都新宿区)を24日に立ち入り検査することを決めた。「東日本住宅評価
センター」(横浜市)も近く検査する。
国交省は、審査や検査が適切に行われれば偽造の発見は可能だったとみており、2社の
業務実態を確認した上で、指定取り消しや改善命令などの処分を検討している。
イーホームズは国交省に対し、22日に文書で回答。必... [続きを読む]
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とにかく分譲マンションなどに不信感が広がり始めている。例の姉歯建築設計事務所、それと民間の指定確認検査機関であるイーホームズ及びそれらの関連業者らを巡る、耐震強度偽装問題(構造計算の偽造)だ。一番の当事者である姉歯建築士の会見模様については、その態度について既にかなりの批判の声が上がっていたわけだが、イーホームズについてもその建築確認について問題が指摘されつつある。とりあえず、以下に主要な報道記事(リンク)を纏めておく。項目タイトルは当該報道記事のヘッドラインなので注意。
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<(2)の続きになります。>
今回の検査機関の問題点のうち、建築確認申請書類の不備の発見という面に関して
言えば、私は、官の方が今回の建築確認申請の書類不備は見つけやすかったのでは
ないかと思っている。(もしかしたら、H市役所は見逃してしまったかも知れないのだが。)
というのも、役所というのは、概して杓子定規で融通がきかず、また特に書類の形式
的な不備を嫌う所であると思うからだ。これは上司や担当官の姿勢にも左右されるとこ
ろはあるが、部署や人によっては非常に細かい記入漏れや誤字... [続きを読む]
» ■そういう”風潮”があったか?〜ニセ耐震マンション [AKATUKI DESIGN]
いやいや聞いてあきれる。
結局ヒューザーが黒幕か?
小嶋社長の弁明+明るみになる裏工作は救いようがない。
メディアの視線は、なんか姉歯かわいそうムードだし、ヒューザーが倒産すると住民が救済できないのか?
誰が、黒幕で一番悪いか?
なんだか、ニュースが入り乱れその辺はどうでもよくなってきた。
ただ、「そういう風潮があった」という姉歯氏の発言だけが私の耳に染み付いている。
果た... [続きを読む]
» 設計書類偽造問題・・・何でも「官から民へ」にするのはアブナイ!(4) [日本がアブナイ!]
まだ事件の全容は解明されておらず、これからも新たな事実が色々と出て来るかも
知れない状況であるが・・・。そろそろ、この件に関する投稿はいったん締めたいと
思う。そこで全体的な感想&まとめを書いてみたい。
<木村建設の元・東京支店長・・・衆院参考人質疑の際に、最初は姉歯先生とか言っ
てて、そのあと「姉歯」って呼び捨てにしそうになってませんでした?
もう一つ、小さい時から思っているのだが。本会議や党首討論の時なども含めて、
いちいちマイクの前に出たりはいったり、その度に手をあげて「O... [続きを読む]
» 耐震偽造責任所在わかれば済む問題じゃないよ。 [TrendCyclone]
耐震偽造して耐震強度が0.27倍になってるそうで。0.27倍って事は、0.27の√の3乗として、約0.65倍の主要構造物の太さってこと。実際は自重も減りもっと細くなるけどそのへんは、いいとして、85CM位の柱が必要だったとして、それを55CMで作っちゃったというわけだ!そ...... [続きを読む]
TBありがとうございました。
震度5強の地震でなくても、自ら倒壊する恐れのあるマンションがあるという記事を読んであきれかえっています。
投稿: 花レタスTV | 2005/11/20 21:11
こんばんは。
この記事に関係なくて、申し訳ないのですいが、
「心に残る絶景バトン」を、うさぎから発信しました。
受けて下さいますよねっ!(^_^)v
投稿: うさぎ | 2005/11/20 22:11
花レタスTV様
コメント有難うございます。
不正に建てられたマンションに入居されている方は、本当にお気の毒です。
建物は構造が最も大事なのですが、これが外部から簡単に見えない、ここが建築物の最大のネックです。
だから、特にこの部分の審査を厳しくしなければならない。
処が、政府は認証機関を民間委託してしまい、安易に不正が通るように変えてしまった。
この責任は大きいと思います。
投稿: home-9 | 2005/11/21 10:18