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2005/11/07

昔一人の歌手がいて「ちあきなおみ」賛歌

chiakinaomi
「昔」などというと、熱烈なファンに叱られるでしょうが、ちあきなおみが一切の芸能活動を退いてから、はや13年が経ちました。現在でも彼女の多くのアルバムはロングセラーになっていて、相変わらず根強い人気を博しています。
戦後日本の歌謡曲(演歌という言葉が嫌いなので、敢えて)の歌手の中で唄の上手い人といえば、先ず美空ひばり、そして次はちあきなおみでしょう。

私より年齢が3歳若いちあきなおみは、当初セクシーアイドルで売り出しました。
デビュー間が無い頃、当時人気TV番組であった「裏番組をぶっ飛ばせ」で、コント55号と野球拳をして負け続け、着ていたものを1枚ずつ脱ぎ、最後はビキニ姿になって評判になりました。
着ていた物はその場でオークションにかけられ、売り上げは福祉施設に寄付されるというトンデモ番組でした。
後に「喝采」でレコ大を受賞した彼女の活躍からは、その姿は想像つかないと思います。

作曲家の船村徹が彼女を評して「音符の裏を読んで歌う歌手」と言っていますが、言葉を代えれば彼女の唄が、しばしば作詞家や作曲家の意図を超えてしまうことを意味しています。
私の想像ですが、ちあきが歌う「歳月河」や「紅とんぼ」を聞いて、作曲した船村徹自身が、恐らくそう感じたのではないでしょうか。
例えて云うなら、メンデルスゾーンの交響曲「スコットランド」を、名指揮者クレンペラーが振ると、余りにスケールの大きい恰幅の良い曲になってしまうように。
彼女のカバー曲である「黄昏のビギン」を作曲した中村八大や、「粋な別れ」を作曲した浜口庫之助も、同じ思いではないでしょうか。

“唄は3分間のドラマ”という使い古された言葉がありますが、では本当に“3分間のドラマ”として表現できている日本の歌手が一体何人いるか、些か心許ない。感情移入の過剰な人は沢山いる、思い入れタップリに歌える人もいる、しかし肝心の歌唱力が付いていけなくては、聞く人の心を動かすことは出来ません。
芝居の舞台で演技を磨いたちあきの唄には、この両面が備わっていました。

例を挙げましょう。ちあきなおみのレコードとしては当時ヒットしなかった「矢切の渡し」を、同じ曲で大ヒットし、レコ大までとった細川たかしの歌唱を比べると一目瞭然。冒頭の「つれて逃げてよ・・・」「ついておいでよ・・・」の部分では、ちあきの唄では女性の語尾「よ」をすがるように、男性の語尾「よ」は包み込むように歌っています。そして何よりの違いは、余韻の「・・・」がちあきの唄には在り、細川の唄には表現されていません。その結果、この曲の一番肝心な男女の情念が、ちあきなおみの唄に籠められています。
梅沢富美男の踊りに使う曲が、ちあきの曲であるのも、この辺りの理由なのでしょう。
彼女が唄う「かもめの街」や「片情」を聞けば、この“3分のドラマ”が実感できます。

歌手ちあきなおみのを最も特長づけるのは、外国の曲での優れた歌唱力です。
この点は、美空ひばりも共通ですね。ひばりはジャズもシャンソンも上手かったし、ラテンの曲など絶品でした。
ちあきの唄では、ジャズの「朝日楼」(原題;朝日のあたる家)やシャンソンの「それぞれのテーブル」、「すり切れたレコード」も実に結構です。
しかし何といっても、ちあきはファドです。是非一度聴いて見て下さい。
「悲恋」、「酔いどれ船」(かもめ)、「霧笛」(難船)、ポルトガルのファド独特の哀愁と、ちあきの情念が合体し、独特の世界を創り出しました。
真に上手な歌手というのは、どんなジャンルの歌でも聴かせるものです。

歌手ちあきなおみのカムバックを求める声は根強いのですが、私は一ファンとして、敢えてこのままで良いと考えています。
以前から不思議に思っていたことなのですが、なぜ歌謡曲の大半の歌手は、声が落ちると同時に歌唱力が落ちるのでしょうか。
海外の歌手でも声は落ちる、これは止むを得ないことです。しかし歌唱力は全盛期を保っている人が多いように見受けられます。
以前アメリカの歌手ペリー・コモが、80歳を越えて日本公演を行いましたが、もちろん声は往年とは比較にならない。しかし何と唄の上手いこと、惚れ惚れしましたね。日本の歌手では先ず有り得ない話です。

このままそっとしておきたい、これがちあきなおみを愛する一ファンとしての心境です。

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コメント

こんばんは。

ちあきなおみさんは、存在感のある芸能人でしたね。うさぎは、歌手としてよりも役者としての個性のほうが、強烈な印象として残っています。「八時だよ、全員集合」でのちょっとした寸劇とか~歌手だと思えないくらい笑いをとられるので、結構マルチタレントなのかも~と思ったりしてました。あのキャラは忘れられません。
この印象の違いは、Homeー9さんとの年代の違いかな?

トラックバックありがとうございます!!
本当にちあきなおみさんは素晴らしいヴォーカリストですよね!
HOME-9さんの記事をうんうんとうなずきながら読まして頂きました。ものすごく同感です!
海外のシンガーさんは年を取っても、最盛期ほどの声のパワーは無くなっていても、表現力は益々増していて、ずっと現役で歌ってほしいと思ってしまうのですが、日本人はなぜか聞くに堪えなくなってしまう人が多い気がします。歌えなくなったら辞めた方がいいのになんて思ってしまいます。ひばりさんも尊敬して止まない大好きな歌い手さんです。恥ずかしながら私も歌手を目指してます。こんなすごいシンガーさんに一歩でも近づきたいと思い、日々精進中です。歴史関連の記事も大変興味深くて、これからちょくちょく拝見させていただきたいと思ってます!

トラックバック、ありがとうございました。
記事はなかなか興味深い内容で、
楽しくよませていただきました。
これからも時々遊びに来ます。

うさぎさん、こんばんは。
うっ、年代の違い・・・、キビシイそのオコトバ。
ちあきなおみは、一人芝居で舞台も踏んでいますし、ちょっと天然ボケ的なキャラもあって、俳優としても一級でした。
笠置シズ子のように、歌手は引退して女優だけ続ける道もあったのでしょうが、やはり歌が好きだったんでしょうね。
でも、あれも人生だと思います。

しんぺい様
昔から芸能が大好きで。これからも歌手の話題など取上げて行きたいと思います。
又遊びに来て下さい。

伊東ゆかりを忘れてる! 〔さすらい〕を聴けばわかります

ササクレアマノジャク様
こういうのは好みの問題なので100人に訊けば100通りの答えが返ってくる、それでいいんじゃないでしょうか。

ちあきなおみさん 歌うまいです さとうきび畑とか 喝采は不朽の名作です

ヤマモト様
ちあきは、演歌はもちろんポップス、ジャズ、シャンソン、ファドと何を唄わしても一級品。女性歌手としては、ひばりと二枚看板でしょうね。

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