今年のイチオシ!談春の「文七元結」
最近寄席や落語をネタにしたブログが増えました。およその勘ですが、8割は女性が書いてますね。採り上げられている噺家は、いわゆる寄席通が贔屓にしている人とは多少違っているようです。
立川談春もその一人で、ブログで話題になる噺家としては、今や確実にBEST10に入るでしょう。
12月10日に横浜にぎわい座、その「談春四季の会『冬』」に。実は談春は初見でしたが、会場は補助席が出る一杯の入り、やはり女性客が目立ちました。
前座なし、ゲストなしで、中入を挟んで本人が2席という文字通りの独演会です。
1席目は「味噌蔵」。これが終わった頃は正直、来たのを後悔していました。師匠談志が食べ物を大事にするというマクラから本題まで、全く笑えなかったし、一口で言えばつまらない。
先ずネタの選定が間違ってます。「味噌蔵」という演目は長講でやる噺じゃない。トントンとテンポ良く、1席15分程度に仕上げるネタです。
近年では八代目三笑亭可楽が得意としていましたが、可楽独特のリズム感がこの噺に生きていました。
談春は独自の工夫をしていましたが、全体が間延びしているため流れが悪い。談春に限ったことではありませんが、最近独演会で本来の短い噺を、無理やり長講にする傾向がありますが、あれは止めた方が良いと思います。
2席目は「文七元結」、毎年暮になると古典落語の真打が高座にかける演目で、過去多くの名人上手の名演がありますので、演者の実力が最も問われる大ネタと言えるでしょう。
先ず、恐らくは談春本人がバクチ好きなのでしょうか、博打打ちのマクラを生き生きと語っていました。
父親の左官長兵衛の博打の借金を見かねて吉原の大店「佐野槌」に身を沈める娘お久。「佐野槌」の女将が長兵衛に向かって、50両と引き換えにそのお久の気持ちを伝え戒める場面、そしてお久自身が長兵衛に母を大事にするよう訴える場面が、この噺の前半の泣かせ所ですが、ここを談春は大胆に端折ってしまいました。
その代わりに、女将が博打がいかに馬鹿馬鹿しいものかということを懇々と長兵衛に説く演出にしています。
世の中のウラもオモテも知り尽くした女将の人物描写の見事さ、借金の期限を2年先の大晦日にして、一日でも返済が過ぎれば「その時は、私は鬼になるよ」というセリフの凄み、談春の語りが冴え渡ります。
その大事な50両を、大金を盗られたと思い込み、吾妻橋から身投げようとしていた「近江屋」の手代文七に投げ与える長兵衛。
談春の演出はここを余り理詰めにせず、行きがかり上引っ込みがつかなくなった江戸っ子の心意気にしていましたが、この演じ方の方が後半の展開に無理なくつながり、成功していました。
文七が「近江屋」へ戻り、既に財布が店に届けられていることを知った時の動転ぶりが可笑しく、番頭が文七から「佐野槌」の名前を引き出すのに、当時の吉原の大店の名を片端からあげて、ご主人から「番頭さん、良く知ってますねエ」と嫌みを言われる場面は、このご主人の鷹揚な性格を描き出していました。
夜を徹して喧嘩していた長兵衛夫婦の元へ、文七とご主人がお礼に現れ、最後は娘お久も50両も戻ってくるというお目出度い大団円まで、談春は一気に盛り上げていきました。
大いに泣かせ、大いに笑わせ、この日の幕を閉じました。
私が聴いたここ数年の「文七元結」の中では、この談春の噺は出色の出来でした。
そして今年1年聴いた落語の中でも、これが一番でした。
未だ少し早いですが、立川談春の「文七元結」に、「2005年My演芸大賞」を贈呈したいと思います。
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もちろん期待しました。わたくしは、「お見事!」と言いたい。 《演目》 ○紺屋高尾 [続きを読む]
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