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2006/03/22

この逮捕はおかしい「福島県立病院・産婦人科医の医療ミス」

fukushima
子供の頃、近所の罹りつけの開業医が口癖のように言っていた言葉を覚えています。「医者は3人くらい殺さないと一人前になれない。私も何人も殺してきましたよ。」と言うのです。患者の方はあまり良い気分にはなれなかったが、事実なんだろうなと受け止めていました。
この医師が言った“医者が患者を殺す”は、医療過誤により患者を死に至らしめたことを意味しているのでしょう。つまり当時は、医療行為に誤りは付き物であるし、医療関係者も患者の側も、ある程度そうした事実は容認していたと言うことです。
わずか数十年の時代の流れの中で、現在は全く事情が変わってきました。

2月18日福島県立大野病院の産婦人科医である加藤克彦医師が、帝王切開中の大量出血により患者が死亡した医療事故(2004年12月17日死亡)に関して、業務上過失致死罪および、異状死の届出義務違反(医師法違反)で逮捕されました。
新聞各紙は、「帝王切開のミスで死亡、医師逮捕 福島の県立病院」(産経新聞2月17日)の見出しで報道しましたが、実際には帝王切開そのものが失敗したのではありません。
この患者の場合は、胎盤が子宮に癒着又は食い込む胎盤癒着と言う症状でした、通常は分娩が終わると胎盤は子宮から剥離して体外に排出されます。それに伴い子宮が収縮して出血が止まるのですが、この症状の産婦の場合は胎盤が剥離しないので出血が止まらず、死に至るケースがあるわけです。
全分娩中に、1万件に僅か数件という確率で発生する稀有な症例です。

実は私の妻が、実の母親をこの症状で亡くしています。こうした場合、出産したばかりの赤ちゃんと父親が後に残されますので、その後の家族は大変苦労します。従って今回の事件のご家族の辛さは、十分理解できます。
しかしこの件は、本当に刑事事件として逮捕勾留するような必要性があったのでしょうか。
このブログでは以前も医療事故の問題をとり上げた際に、警察や検察の行き過ぎた捜査を批判してきました。問題の医師は事故発生後も病院での診療を続けており、逃亡や証拠隠滅の恐れがあったとは思えません。
例えば耐震偽装事件などへの対応と比べても、今回の処置は納得がいきません。

この胎盤癒着という症例の難しさは、分娩が終わった後でしか分からない、つまり事前に検査で分かっていて準備できる性質のものでないという点です。
ここからは想像に過ぎませんが、帝王切開で胎児を取り出した後に胎盤癒着が確認されたため、医師はクーパー(手術用ハサミ)で剥離を試みました。癒着が軽いものであれば、それで隔離できるのですが、この患者の場合は強い癒着であったため剥離に失敗して、出血により死亡させたものと思われます。
結果としては、子宮を全部摘出する(全摘)手術を施すのが正解だったと思われますが、帝王切開と子宮全摘手術とは違う施術となります。その当時の病院に、即応できる体制があったのかどうかが分かりません。
それと子宮全摘を行うと、その後の出産が不可能となりますので、医師としてはできるだけ避けたいという気持ちが働いたとも想像されます。事実、以前に子宮筋腫で全適を受けた患者が、医師を訴えたケースもありました。
今回の事件にしても、もし結果として軽い癒着だったのに子宮を全摘していたら、逆に患者の家族からクレームがつく可能性があったと思います。
つまり今回のケースは、結果としては医療ミスになってしまいましたが、業務上過失致死として刑事事件で逮捕されるような性格のものではない、これが私の意見です。

もちろん理想的には、いかなる処置に関しても、医療機関は常に最悪の事態に備えて体制を作り上げておくべきでしょうが、その負担は誰がするのか。
一方で医療費の削減が声高く年々叫ばれていく中で、その両立は可能でしょうか。
大都会や、地方でも都市部であれば、そうした体制を構築することは可能かも知れませんが、過疎地を含む全国至る所にそうした体制を作るには、今の医療制度を変えていかねばならない。
「小泉改革」とは正反対の政策を進めなければなりません。

今全国で産婦人科がない医療機関、あっても今回の福島県立大野病院のように、医師が一人という医療機関が増えています。
一人医師では、今回のような不測の事態が起きたときの対応には無理があります。
原因は採算が合わないのと、医療事故による訴訟が急増しているという事が背景です。同じ問題は小児科救急診療にも起きており、乳幼児の急病に対する不安は、都市部でも起きています。
大学側が今後一人医師の病院に医師を派遣しないとの方針を決めたとなると、今後ますます産婦人科の無い病院が増えていきます。

医療行為というのは、殆どが人手で行われます、である以上ミスは避けられないし、要は出来るだけミスが起きぬような体制作りが肝要です。
無論今回のような悲劇が繰り返されぬよう、ミスの原因と再発防止を医療サイドが検討することは必要ですし、ご遺族への補償も行わなければならない。
しかしそれは、医師を逮捕拘留し、刑事事件として処罰することとは別の問題です。

全国どこに住んでいても安心して赤ちゃんが産める、乳幼児が育てられる医療体制は、公費でまかなっていかねばなりません。これからの少子化対策としても、極めて重要な課題だろうと思います。
経済大国の我が国に、この程度の費用負担ができないことは無い筈ですし、こうした事に税金が使われることに対しては、恐らく多くの国民の納得が得られると思います。

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医療・福祉」カテゴリの記事

コメント

 トラックバックありがとうございました。普段全然関係ないことばかり書いておりますが関東の片隅で産婦人科医として働いております。
 今回の逮捕劇に関しては(背景には絶望的な地方の産科医不足がありますが)「最善を尽くした医師が、結果が最良でなかったからといって逮捕された」ことにやりきれなさを感じる全国の医師が有志による800名以上のグループを作って声明文を出すなど、今までになかった動きが見られました。少しでも現状の改善に役立てば、と願わずにはいられません。

 医師はその仕事に対するプライドと献身以外はとても弱い人間だと(自分を含めて)思っています。正常経過の産婦さんにはお産直前直後と回診の時しかお会いしないことが多く、辛い陣痛の中頼りになるのは助産師さんです。夜中のお産(しばしば複数回)に起こされ、翌日も寝不足を抱えて通常の業務をこなさざるを得ない我々は助産師さんの有能さに日々助けられています。有り難いことだと思います。

 実は一般勤務医の給料は知らない方々が想像するより高くありません。現在でも休日や報酬について医師が議論・要求することは大変な我儘のように受け取られがちです(自他ともに)。決してコストパフォーマンスの良い職業とは言えない中で患者さんのため家族のため、そして自分のために働き続けるには仕事に対する誇りとささやかな喜びが不可欠なのだ、とご理解頂ければ医師の端くれとして大変嬉しく思います。長文失礼致しました。

らっきー様
早速当方にコメントを頂き有難うございます。
今回の事故は、いくつかの悪条件が重なった不幸な事故であったと思います。
医師としては、あの時点で採り得る選択肢の中から、最も妥当と判断した処置を行ったのでしょうが、産婦の死亡と言う最悪の結果を招いてしまったと考えます。
医療サイドとしては、医療体制を含めた検討が必要ですが、どう考えても医師を逮捕して裁判にかけ刑務所に送るというような性質のものではありません。
こんな事が罷り通るなら、いずれ医師の成り手が無くなるでしょう。
この件に限らず、最近の捜査及び司法当局の医療機関への強硬姿勢は、現在政府が進めようとしている混合診療導入など、いわゆる自己責任による医療制度への改定に向けての、地ならしではないかと危惧しています。「国策捜査」という言葉が頭に浮かんできます。
マスコミも安易に警察発表を鵜呑みにせず、問題の本質を捕えた報道姿勢をとるべきです。

home-9さん、初めまして
トラバありがとうございます。
僕もトラバさせていただきました。
この加藤医師の話、僕の友達で医学ではなく法律に詳しい人は、警察の見せしめというか権威誇示的意味合いがあるのじゃないかという風にとらえていました。僕もいろいろ意見してみた後での彼の意見だったので、ああそういう風に受け取ることもできるんだ、と思いました。
僕自身は医学生で後一年で医者になります。その微妙に現場に足を入れつつある立場からでも、都会に集中して地方では医師不足という医療の現場の様子は感じられます。
この事件で、産科、小児科など必要とされるけど特に訴えられやすくかつ忙しくて人気のない科の人気がさがるんじゃないかという懸念がありますが、実際僕もこの事件があったから外科とか小児科とかやめとけと言われました。でも、人が生きていく上で産科小児科ってのは本当に必要ですよね。そこが減って困るのは家庭をこれから気づいていく世代、ほんとう『世代』という単位でこまることになるんじゃないかな、って思います。
警察や司法の人々はそういう影響も考えてもっとどこからも抗議のでないようなやり方で医療に接してほしいなと思います。
最後のは僕の『働きやすい職場になってほしい』という希望ですが(笑)
ながながすいません。
あ、あとプロフィールの写真の女の子、かわいらしいですね。
では

tomo様
コメント有難うございます。
私は医療の門外漢ですが、産婦人科や小児救急医療を採算ベースで行うことに無理があるのだと思います。
各科に複数の医師の配置を義務づければ、ますます撤退する医療機関が増えるでしょう。
今のままでは利益を生まず、リスクだけあるような診療は、止めるしかないでしょう。
消防署や救急車に採算を求めますか、それと同レヴェルの問題ではないでしょうか。
医師が誇りと安心感を持って診療できる体制を作ることが、患者の安全につながる、私はそう考えます。

プロフィールの少女ですか?スペイン・バルセロナの公園で写生していた小学生で、多分当時10才前後だったと思います。
もう10年くらい前ですから、今頃は飛び切りの美女に成長していることでしょう。
さすが、カルメンの国です。

home-9さま、はじめまして。
トラックバック、ありがとうございました。

医療のことだけではなく、都心の論理で田舎があっぷあっぷっていう今の状態は、それこそ採算無視の、いい意味での官僚的発想でなんとかしないといけないのに、小泉・自民党を支持しているのは、田舎の人たちですよね。
私の住んでいるあたりも、そんな田舎のひとつです。
選挙があるたびに、心底情けなくなります。

採算・成果至上主義が行き着くところには、優秀なDNAを持っていなければ産まない、という究極の産み分けがあるような気がします。

なんだか論点がずれてしまったみたい(^_^;)
乱文、失礼いたしました。

甥っ子が医者をしています。
彼の父親はくも膜下出血で倒れ植物状態に近い状態で長期入院をしております。
そんな父を見て彼は医者を志し、医学部を目指した訳です。
しかし大学を卒業し、現実に医者になるべく専門科目を選択する時には、小児科は少子化で将来がないし、産婦人科は訴訟を受けるリスクが高いし、内科は競争相手が多いし、外科は開業が大変だしなどと色々悩みタケチャンマンも相談を受けました。
楽できるのは何科か?金儲けできるのは何科か?ではなく自分は何がやりたいのか?で決めるべきだろうと答えましたが、彼の悩みも解らぬではありません。
唯でも地方で産婦人科医が不足しており、中都市の病院でも産婦人科が廃止されております。
今回の事件でまたまたその傾向に拍車がかかるのではと憂慮しております。

まきりん様
コメント有難うございます。
>採算・成果至上主義が行き着くところには、優秀なDNAを持っていなければ産まない、という究極の産み分けがあるような気がします。

なかなか過激なご指摘だと思いますが、しかし現在の小泉改革の行き着く先は、「負け組」は結婚も子供を持つ事が出来ない、そういう社会になりかねないと感じています。

この世に生を受けてくる子は平等であるべきですが、出産を迎えた母親の医療環境は地域によって全く異なります。
運不運で、母親と生まれる子の幸不幸が決まって良い訳がありません。
安全な環境で、安心して出産できるシステムを作ることは、火事に備えて消防車を、けが人や急病患者に備えて救急車を用意することと、同じ課題であると思います。
過疎地域で献身的に医療に携わっている医師には、頭が下がりますが、そうした方の熱意だけにすがるわけにはいきません。
こうした事故で問われるのは、政府の医療行政であり、小泉改革の中身です。

タケチャンマン様
コメント有難うございます。
私はかねがね最も崇高な職業は、医師や看護士など医療に携わる人々だと思っています。ご親類の方には、是非人々から尊敬される立派な医師になって頂きたいと願っています。

医療過誤は人の生命を左右しますので、極力避けなければなりません。
過誤には、つうウッカリという不注意のミスがあります。又専門医として当然見につけておかねばならない知識がないために起きるミスもあります。
厳しいようですが、こうしたミスで患者が死亡した場合は、医師は当然その責任が問われても仕方がありません。
しかし今回の事故のように、その時点で置かれた様々な制約条件の中で、医師が妥当と判断したことが結果として最善で無く、患者が死亡したというようなケースまで、逮捕・投獄という刑事責任が問われて良いでしょうか。

>地方で産婦人科医が不足しており、中都市の病院でも産婦人科が廃止されております。
今回の事件でまたまたその傾向に拍車がかかるのではと憂慮しております。

この事件を契機に、大学の医学部が今後一人医師の病院には、医師を派遣しないケースが増えてくるでしょう。
その結果、産婦人科を置かない病院がますます増加すると思われます。
地域格差は拡大する一方です。

ウン?
報告書発表の際、調査委委員長の"宗像正寛"・県立三春病院診療
部長(現院長)は「胎盤の剥離が難しい時点でやめていれば助か
る可能性は高かった」と述べた。"手術用"はさみで胎盤をはがす
方法も通常あり得ないとも指摘した。//ヘ~ッ?ソゥナンスカ?

私も、危険な血管内手術を長年やって来ましたが、この宗像正寛
先生の様に技術も無いくせに偉そうな事を言う先生が居るんです
よね。恐ろしい"本当の前線"に来た事もないくせに大本営だけで
批評家ぶって批判する奴。こいつの顔と御自慢の"手"が見たいな。

自称、ゴッドハンド

私、自称ゴッドハンドですけれども、他科の外科系医長の先生達
からもソナイ言われた事あります。25年以上、超~危険な手技
に従事して来て老眼が酷くなって、現役から引退しました。何度
も絶望的な状況に立たされました。その時に私を救ってくれたの
は、偉そうな学者先生方が書かれた教科書ではなくて厳しい親方
から仕込まれたこの腕、現場での自己判断、それと最後には運で
した。お蔭様で本当は死んでしまったろう沢山の患者さんを救う
事が出来ました。でも残念ながら亡くなられた方もいらっしゃい
ました。避けられない事故もありました。私、世間では超一流と
言われている医学校を出まして、最新鋭で超一流の設備の病院で
働いて来たのですが、駄目なモノは駄目。運命を信じております。

そして老境に入った今、私の様に恵まれた環境に居られた医者じ
ゃなく、加藤先生の様に設備も大した事の無い田舎病院で毎日体
を張ってコツコツと働いている医者が"本物"だという事もヤット
理解出来たこの頃です。だから加藤先生、負けないで頑張って!

自称、ゴッドハンド

自称、ゴッドハンド
何故、知らない人物の能力が分かるのですかと質問がありました
のでお答えしたいと思います。黒帯高段者は道場で対戦相手の僅
かな動きからでも、その人間のレベルがタチドコロに分かります。
宗像正寛先生の発言から、この人は本当の絶望的な状況を経験せ
ずに理解も出来ていないので、教科書から格好の良い事を言って
さも自分が能力があるかの様に見せていますね。産婦人科の手術
の名人の前で手術させてみせて下さい。真の実力が分かりますよ。

加藤先生は今回大変辛い経験をしました。ここで諦めないで恐ろ
しい戦場から逃げないで下さい。また辛い目に合うでしょう。負
け戦さなら厚顔無恥な片岡康夫人間から再度迫害されるでしょう。
しかし今後も絶望的な状況になった時は勝ち負けは考えずに現場
での"自己判断"に総てを託さねばなりません。そうすると手術の
神様が己に憑依する日が来るのです。自分の実力を遥かに超えた
奇跡が起こって己一人では助ける事が出来ない患者さんが不思議
に助かるのです。この試練に耐えて、手術の達人になって下さい。

自称、ゴッドハンド

私もコピペ様
3回にわたるコメント有難うございます。
実際の医療に永年携わっておられた方のご意見は、大変重みがあります。
私の近所の病院でも、今春から婦人科が廃止となりました。その前には、救急の小児科が無くなっています。
都内の病院ですらこうした状況ですから、地方の医療機関は推して知るべしです。
今回の大野病院の事件(穏当は事件では無いのですが)は、こうした傾向一層拍車をかけることは目に見えています。
いくつかの選択肢があって、選択が最善でなかったからといって逮捕されていたら、医者はいくつ身体があっても足りません。
ご指摘のように、調査委員会委員長の発言は、現実を無視した後講釈だあると思います。
ただ一点、担当医がもう少し患者家族とのコミュニケーションに配慮していたら、このような結果にならなかったのでと、この点だけは残念な気がしています。

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