「凶暴」な法律、「共謀罪」法
「共謀罪」法案の審議が4月21日衆院法務委員会で始まりました。正式には「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」という長い名称だそうですが、与党はGW前の28日にも採決を行う方針でいます。この法案の中身を見ると、大変問題の多いというよりは極めて危険性の高い法案だと言えます。
2000年11月、国連総会で「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」が採択され、日本も署名しました。これを受けて国内法の整備もしなければいけない、ということで提案されたのが「共謀罪」法案です。確かに国境を越える組織犯罪に対して、国際的な協力体制を作って対処しなければならないのは事実でしょう。
しかしこの法案が通れば、4年以上の懲役・禁固刑を定めるすべての犯罪(600以上)を対象とし、その犯罪を「団体」(二人以上)が「共謀」(つまり相談や合意も含む)した場合、最高5年の懲役に問われることになります。
元々の条約では、対象となる犯罪は、金銭的利益その他の物質的利益を得ることを目的としたものに限定されるなど、いくつかの限定条件がついています。
処が今回の法案にはそうした限定がなく、4年以上の懲役・禁固刑を定めるすべての犯罪(600以上といわれる)を対象としています。日本の刑法では法定刑の幅が広いので、重大な犯罪とまではいえないものまで含まれてしまいます。
例えば万引きは窃盗罪ですので、刑罰は10年以下の懲役です。この他選挙演説の邪魔をする(4年以下の懲役)、選挙ポスターに落書きする(4年以下の懲役)、著作権侵害(5年以下の懲役)、無免許で酒をつくる(5年以下の懲役)、相続税逃れ(5年以下の懲役)などの、およそ国際的組織犯罪とは関係なさそうなものまで、全てが含まれることになります。
我が国には「組織的犯罪処罰法」がありますが、対象となる犯罪が11に限定されています。これに比べても余りに対象が広すぎるといえます。
共謀というと、何となく一味が集まって悪巧みをするという響きがありますが、今回の「共謀罪」法では政府は、暗黙の了解で共謀罪が成立する場合があると認めています。一同に会した話し合いがなくても、計画を知っていて黙認しただけでも、あるいは、目配せをしただけでも、共謀罪が成立する可能性があるともいっています。
しかも、じっさいに犯罪行為も準備もしていない段階でも罪となります。いったんやろうという合意ができて、あとでやめることにしたとしても処罰の対象となる、という答弁がありました。
つまり共謀罪は、特定の犯罪がまだなにも実行されていない段階で成立してしまいます。ここにこの法律の恐ろしさがあります。
日本の刑法では、「犯罪を実行し結果を発生」させた段階ではじめて処罰するのが原則です。「思想ではなく行為を罰する」という大原則があるからです。
従来の刑法では、あいつをやっつけようと友人と相談しただけでは、犯罪として罰せられることはありません。実際に暴力をふるい相手に怪我をさせた段階で、始めて処罰を受けるのです。
今回の「共謀罪」は、600を超える犯罪に対して、「犯罪を合意した」段階で処罰しようというものですから、「思想ではなく行為を罰する」という刑法の原則を根本から崩すものだといえます。
「共謀」罪を立証するためには、「共謀」を行った証拠が必要ですが、その証拠は、主に会話や通信の記録です。そのために捜査当局は会合に潜入して録音したり、盗聴したりせざるを得ないでしょう。自首した場合は刑が減免される規定があるため、密告の奨励につながる可能性もあります。
「共謀罪」が成立すると、「組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪から国民をより良く守る」どころか、多くの国民を、いつ自分も検挙・処罰されるかわからないという疑心暗鬼、相互監視の社会におとしいれる恐れが高いと思われます。
この法案の法務省のQ&Aを読むと、この法案の目的はあくまで国際的な組織犯罪の対処するためと強調していますし、上記の意見は少し考え過ぎだという声もあるでしょう。
しかし法律は一度成立すると、当初の思惑や目的を越えて、一人歩きするものです。戦前の治安維持法や、戦後の破壊活動防止法の運用がそれを示しています。
現に暴力団を処罰するためと言っていた「組織的犯罪処罰法」ですが、弁護士法違反を問われている西村真悟議員は、組織的犯罪処罰法でも起訴されています。
警察が、過去に「中央公論」の読者名簿を作成していた事があったことを、私たちは忘れてはならないと思います。
又本法案については、与党修正案が出されるようですが、内容を見る限りでは、元の法案の趣旨を変えていないようです。
自由とか平和というのは、手に入れるまでは大変な苦労を伴いますが、いったん手に入ると次第に有難味が薄れてきます。
このような問題の多い法律を、与党が「共謀」して強行しないよう、監視の目を強めていく必要があると考えます。
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