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2006/05/23

前進座五月公演@国立劇場

Umenosuke
ここの所歌舞伎に少々ご無沙汰で、久々の観劇となりました。5月の国立劇場は、前進座75周年記念公演です。5月21日の昼の部です。
前進座は、昭和の初期に行われた歌舞伎の革新運動の中で誕生しました。下級俳優(家柄が下級であり、演技力とは別問題)中心に結成された経緯からか、世話物が得意で、座員に女優がいるという特色もあります。
1980年頃までは、座員が集団生活していたこと、時には鞭が飛んだという厳しい稽古が、この劇団に独特のアンサンブルを生んでいました。

今回の公演は、通し狂言「謎帯一寸徳兵衛(なぞのおびちょっととくべえ)」と「魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)」の2本で、作者が前者は鶴屋南北、後者は河竹黙阿弥です。
「謎・・・」は、「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわのかがみ)」を南北が改作したものです。登場人物や場所はそっくり借りて、ストーリーは全く書き替えたものです。
南北の作品としては余り上演されてこなかったもので、前進座も戦後初めての再演となりました。
登場人物の多くが、いかにも南北らしく極悪非道な人間として描かれていて、特に主役の大島団七は、後の南北作品である「東海道四谷怪談」の中の、民谷伊右衛門を彷彿とさせます。

団七は嵐圭史が演じましたが、序幕の第一場では集中力を欠いた演技で心配しましたが、以後は立ち直り、二枚目の極悪人という難役を演じ切りました。
特に二幕目で、大雨の田圃の中で女房お梶を惨殺する場面は、凄みと迫力がありました。
もう一人の主役吾妻屋徳兵衛は、中村梅雀が演じましたが、ここの所すっかり貫禄を増してきて、大詰で団七と対決するシーンでは一歩も引かず、腹の据わった演技が舞台を締めました。
立女形のお梶とお辰は、河原崎国太郎が二役を演じました。姉妹でありながら、お梶は幸せ薄い人生を送り、姉のお辰は鉄火な芸者という好対照の性格ですが、国太郎はきちんと演じ分けていました。
特にお梶が殺害されるシーンは、美しくも凄惨で、魅せてくれました。
国太郎は、見る度に進歩をしています。
「謎・・・」は、実に良く出来た芝居で、余り上演されないのが不思議なくらいです。

「魚屋宗五郎」は、お目当ての中村梅之助の一人舞台です。
本来はもっと長い芝居ですが、今回はその中のクライマックスシーンである魚屋内の場面が上演されました。
旗本の家に妾奉公に出ていた宗五郎の妹おつたが、無実の罪で惨殺されたのを知った宗五郎が、酒を飲むうちに次第に怒りが爆発し、旗本の家に向かうというストーリーです。
当初は妹の不義密通が原因と聞かされ、懸命に自分を納得をさせていた宗五郎が、腰元から真相を聞かされ、怒りがこみ上げてきます。
梅之助の演出は、事実が分った段階で、妹の仇を討とうと腹に決めて、その後に禁酒の誓いを破って酒を飲むという解釈のようです。
決意を固めた瞬間の目の鋭さに、思わずこちらがぞっとしました。
やはり役者は“目”です。
それと梅之助が、次第に酒に酔ってゆく演技も、この芝居の見所です。

脇役の演技もそれぞれ手堅く、特に「謎・・・」の女郎お磯と、「魚屋・・・」の腰元おなぎを演じた女形、山崎杏佳の不思議な色気が眼につきました。

久々の歌舞伎観賞は、十分満足のいくものでした。
ただ残念なのは、観客の高齢化です。前進座としては、今回のような埋もれた名作に光を当てながら、いわゆる“女子供”にも満足して貰う構成を考えることが、興行的には求められるでしょう。
大変な難題ではありますが。

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コメント

はじめまして。クロリンです。
トラックバックありがとうございます。
先日初めて歌舞伎を観ました。
歌舞伎初心者ということで薦められたものです。
長唄。三味線・鳴り物など約束事もう少し理解していればもっと楽しめるのでしょうけれど・・・・
これをご縁に私のようなブログもたまに覗きに来て下さいませ。
たまにはまじめなことを掲載していますので・・・・

投稿: クロリン | 2006/05/23 07:17

TB有難う、若い頃歌舞伎は眠いものと思っていましたが、今では楽しめます。それでもイヤホンガイドは必需品、今回の女形、美しさに欠けていたとは思いませんでしたか?

投稿: yasuko | 2006/05/23 16:35

クロリン様
コメント有難うございます。
時々歌舞伎は初めてという方とご一緒しますが、皆さん、こんな楽しいものだとは思わなかったと言われます。
歌舞伎と寄席は、是非一度は経験して欲しいと、常日頃周囲に宣伝しています。
ブログを拝見すると、お花とアロマと山口祐一郎さんに包まれた生活を送られているようで、楽しさが伝わってきます。

投稿: home-9 | 2006/05/24 05:17

yasuko様
コメント有難うございます。
前進座は、先代国太郎が亡くなってから、立女形の育成が遅れているのでしょう。
当代の国太郎も段々良くなってはいますが、まだまだ力量の不足は否めません。
イヤホンガイドは便利ですが、私の場合舞台に集中できなくなるので、使わないようにしています。

投稿: home-9 | 2006/05/24 05:30

home-9さま、はじめまして。

遅くなってしまいましたが、TBありがとうございました。
前進座さんのお芝居は、松竹大歌舞伎とはまた違う魅力があって、ずっと見続けています。
梅之助さんがしばらくお休みなさっていた頃は、どうなることか・・と思いましたが、梅之助さんもお元気で、次世代の役者さんの輝きも見ることができて、いいお芝居だったと思います。
もっともっと沢山の方に見て頂けるといいですね。
これからもよろしくお願い致します。

投稿: yae | 2006/05/28 08:46

yae様
コメント有難うございます。
やはり前進座は梅之助ですね。
舞台に出ているだけで、江戸時代の空気が流れていく、真に得難い名優です。
梅之助が健在の内に第三世代が早く成長して、更に良い芝居を見せて欲しいと願っています。

投稿: home-9 | 2006/05/29 06:12

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