イスラエル軍の暴走が招いたもの
重病のシャロン氏を引き継いだイスラエルのオルメルト首相は、ガザに続きヨルダン川西岸からの一部撤退を主張するなど現実路線を踏襲するかに見えましたが、イスラエル軍によるガザ地区とレバノンへの攻撃により緊張が高まり、中東は再び暗雲に包まれつつあります。
イスラエル軍の主な動きを時系列で追ってみると、先ず皮切りになったのは6月10日、ガザ地区北部の海水浴場にイスラエル軍は砲弾を撃ちこみ、子供と女性8名を殺害しました。
当初イスラエル軍は事件への関与を否定していましたが、その後“誤射”であったことを認めています。
このことがきっかけとなって、パレスチナのハマスは停戦合意の破棄を宣言し、イスラエルへの砲撃を開始しました。
次いで6月25日には、両者の戦闘でイスラエル軍兵士1名が捕虜のなったことをきっかけに、ガザ地区へ戦車部隊を侵攻させ、パレスチナの発電所や政府の建物を破壊し、28日には議員と閣僚の3分の1を逮捕して、パレスチナ政府は機能マヒの状態になっています。
7月12日には、レバノンのヒズボラによるイスラエル兵士拉致事件をきっかっけとして、13日からレバノンの首都ベイルート空港への爆撃を初めとして連日のように空爆を行い、レバノン南部には地上軍も侵攻しました。
この結果、7月29日までにレバノン側の犠牲者は450名を越えています。
更にレバノン南部カナで30日、住民が避難していた建物をイスラエル軍が空爆し、子ども37人を含む民間人ら57人が死亡しました。全員が就寝中に殺害されたと見られ、今回のイスラエルによる攻撃で最大の犠牲を出しました。
今回のイスラエルの攻撃は、パレスチナやレバノンのとどまることなく、25日にはレバノン南部ヒアム駐留の国連軍施設への攻撃が行われました。
空爆は6時間16回にわたり、国連からの再三の中止要請を無視して続けられ、国連軍兵士4名が死亡しました。空爆は施設破壊後の救援活動中にも行われたことから、イスラエル軍による意図的なものであることは明白です。
自らの進路を妨げるものは、例え国連であっても容赦しないという、イスラエル軍の決意の現れと見られます。
こうしたイスラエル軍の動きは、あるいはイスラエル政府の思惑を超えたものであったかも知れません。
しかし元々からイスラエルの最終目標は、中東全体を親イスラエル国家に変えることにあり、今回の攻撃をきっかけとして特にイスラエル国内の強硬派が、そうした主張を強めていくと思われます。
又こうしたイスラエルの目標は、米国の中東全体の民主化(つまりは親米化)というブッシュの戦略とも一致します。
今回の国連軍への攻撃に対する非難声明に米国が反対したのは、当然の帰結と言えます。
このままイスラエルがレバノンへの攻撃を強めていけば、ヒズボラを支援しているシリアとイランとの全面対決に行き着くこともあり得るでしょう。
この場合、米国を巻き込んだ第五次中東戦争というのが、最悪のシナリオとなります。
30日のカナ爆撃を機に、イスラエルは取り敢えず48時間の空爆停止を発表しましたが、一方のヒズボラが今回の空爆でますます態度を硬化させている現状から、このまま停戦に向かう可能性は低いと思われます。
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