中国「上海汚職事件」で見えてくるもの
中国で9月25日、上海の社会保険基金の不正流用汚職事件に関与したとして、同市トップの陳良宇・党委書記(59)が解任されたことが明らかになりました。
また同事件にからみ黄菊副首相(党中央政治局常務委員)の妻らが軟禁されたことも明らかになっています。
中国共産党で政治局員が解任されたのは11年ぶりですから、今回の上海汚職事件は大きな政治問題です。
このブログでも、中国政府の汚職問題は何回か採りあげてきました。
中国共産党の過去の党大会の中でも、再三にわたり幹部の不正・汚職の撲滅が訴えられてきましたが、一向にその効果が上がっていません。それどころか、ますます深刻化するばかりです。
昨年1年間で、全国で1万1000人が汚職で党籍をはく奪され、うち7000人が刑事処分を受けています。
もちろんこうした摘発は氷山の一角に過ぎません。
党中央規律検査委員会は、今回の事件に関連し、「職責の高低にかかわらず、誰であろうと法律にのっとり調査し、腐敗分子を厳しく処分する」とコメントしていますが、本気でそんなことをしたら、中国政府の幹部は皆いなくなってしまう。
現在の中国が抱える最大の政治課題は
①幹部の不正・腐敗
②格差(都市と農村、沿岸部と内陸部、北と南)の拡大
の二つです。今回の事件はその双方に絡んでいます。
北京の胡錦濤政権は国内の格差を是正するため、経済成長率を抑えようとしています。
それに対して上海市の幹部はあくまで経済成長を第一にしたい、この対立があります。中国の昔からの政治の北京、経済の上海という構図が、未だに生きているわけです。
もう一つ今回の事件に見え隠れするのは、権力争いという側面です。
胡錦濤政権の基盤は未だ弱いですから、ここで上海閥である江沢民・前総書記の力を殺いでおきたいという思惑が背景にあります。
そうした意味で、今回の汚職摘発は「政変」と見ても良いでしょう。
今の中国が社会主義国家などと思う人はいないでしょう。確かにかつて社会主義を目指していた時期もありました。
しかし現在はむき出しの資本主義、いうならば原始資本主義国家が実態です。所得の再分配が行われず、富める者や権力者にばかり有利なルールが作られ、格差は拡がる一方です。
もう一つ重要なのは、社会全体に倫理が欠けている点です。
「改革開放」以前の中国に旅行した時はチップにボールペンを渡しても丁重に断られたのに、今では10元(150円)渡してもフンという顔をされると、古くからの旅行者が言います。
金が大事=金が全ての社会 になってしまい、かつては国民の中にあった倫理観もすっかり捨て去られました。
倫理無き資本主義がどこに向かうか、その将来は決して明るいものではありません。
経済は改革され資本主義になっているのに、政治形態、社会のシステム、法整備、公正な徴税ルール、社会規範、これらが全くといって良いほど手が付けられていない、ここに中国の根本問題があります。
現在の「もぐら叩き」のような不正・腐敗摘発では、何も解決されません。
もう一つ、経済格差の拡大をナショナリズムを煽ることによって、国内の不満を逸らそうとしている政策も気になる所です。
しかしこの点は現在の日本政府も同様で、一方で「改革」の名のもとで格差拡大を進め、もう一方で民族主義を煽る、正に小泉―安倍政権は中国政府と同じ手法をとっています。
政治に倫理観が欠けていること、中央官庁や地方自治体での不正・腐敗が止まる所を知らないのも、何か似ておりますなあ。
「他山の石、以って玉を攻むべし」です。
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