ちあきなおみ「戦後の光と影」を聴く
歌手ちあきなおみのCDアルバム「戦後の光と影」(COCP-33177)は、1970年代にレコードとして発売されたアルバムの復刻盤です。最近のブームに乗って,ちあきなおみの当時のアルバムが何点か復刻されましたが、その中の1枚です。
副題に「ちあきなおみ、瓦礫の中から」とあるように、オリジナルのレコード発売時期はまちまちですが、“日本の戦後”をテーマにした曲を集めカヴァーしたものです。
戦後とは、社会的混乱の中で誰もが毎日を生きる事で必死であった時代、明日への不安と将来への希望を持って生きた時代です。大勢の若者が職を求めて地方から都会へ移ってきた時代で、故郷での家族や友人、恋人との別れ、都会での新たな出会いが生まれた時代でした。
生きるために夜の街に立つ女性も多くいましたし、パンパンやオンリーと呼ばれた米兵相手の女性が派手な格好で闊歩していた時代でもありました。
ちあきなおみという歌手は、歌が上手いのは論を俟たない。加えて演歌からジャズ、シャンソン、ラテン、ポルトガルのファドなど幅広いジャンルの曲を歌いこなす歌唱力を持った、稀有な歌手です。
従ってどのようなアレンジの曲でも対応できる、これがちあきの強みです。
このアルバムでも、どの曲を採りあげても実に上手い。恐らくは「フランチェスカの鐘」(オリジナル歌手名;二葉あき子、以下同)を除けば、歌唱力でいずれもオリジナルを上回っているでしょう。
しかしこうしたテーマのあるアルバムでは、歌唱力だけが求められるのではない、何より“戦後の空気”をいかに表現できるかが最も重要な要件です。
ちあきは戦後生まれですが、小さい時から米軍キャンプをまわっていた経験があるせいでしょうか、その“戦後の空気”を見事に表現しています。じっと聴いていると、こみ上げてくるような懐かしさを感じてきます。
もう一つちあきの特長をあげれば、男歌が上手いことです。
このアルバムでも、「泪の乾杯」(竹山逸郎)や「逢いたかったぜ」(岡晴夫)を、ちあきは自家薬篭中のものとしています。
「黒い情念」の世界を描くのが得意のちあきの、別の一面を見せてくれるアルバムです。
この当時の歌を聴いていると、歌詞に生活感、リアリティーが感じられます。
「あなたも私も買われた命 恋して見たとて一夜の火花」(カスバの女)、「飢えて今ごろ妹はどこに 一目逢いたいお母さん」(星の流れに)、「夢が欲しさに小雨の路地で 泣いたあの日が懐かしい」(逢いたかったぜ)などなどなどです。
例えばこの「カスバの女」は、アルジェリアに駐屯する外人部隊の兵士とカスバの娼婦との恋を題材にしていますが、当時の人々は遠くアジアの国々へ送られた日本の兵士と従軍慰安婦との関係を投影させ聴いていたものと思われます。
加えて歌詞の美しさです。「待つ人の音なく 刻む雨の雫」(君待てども)、「細く悲しい竹笛なれど こめし願いを君知るや」(悲しき竹笛)、やあ実にイイですね。
フランチェスカの鐘は、どうしても「チンカラカン」と鳴って貰わなければいけない。
私の好みを言わせてもらえば、一つはこのアルバムの選曲に多少不満があります。
戦後というテーマであれば、初代コロムビア・ローズの歌が3曲入っているのは、いささかバランスを欠いています。
代りに「夜のプラットホーム」(二葉あき子)を入れて欲しかった。服部良一メロディーを、ちあきがどう歌うのかを是非聴きたかった。
それに「かりそめの恋」(三条町子)、これも落とせない曲です。
もう一つ、「フランチェスカの鐘」で、オリジナルの音源にあったセリフ(セリフは高杉妙子)がカットされていますが、これは曲想を知る上で大切な部分なので、やはりちあきのセリフ入りノーカットで聴きたかった。
欲を言うとキリがありませんが、とにあれこのちあきなおみのアルバムは、戦後の日本を再現させた記念碑的作品となると思われます。
(文中の歌手名はアイマイな記憶で書いていますので、間違っていたらゴメンナサイ。)
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投稿: e-アフィリ | 2006/10/15 13:31