『女を殺せ、子供を殺せ、全員殺せ!』
米国ブッシュ大統領のイラク新戦略の中味が、次第に明らかになってきたが、予想通り2万人規模の米軍増派が柱となるようだ。
ブッシュは、フセインの死刑執行に言い訳がましいことを述べているようだが、イラク新戦略の公表前に処刑を急がせたことは想像に難くない。
この男のどこがそんなに良いのか、コイズミに聞いて見たいものだ。
堤未夏という人が書いた「アメリカ弱者革命」(海鳴社)という本を読み終えたが、久々に読んでいて何度か涙が溢れてしまった。
この本の中で著者の堤未夏さんは、イラク帰還兵たちにインタビューしているのだが、長くなるが特に印象に残った部分をいくつか紹介したい。
アメリカには徴兵制度がないので、イラクの戦場に駆り出されるのは志願兵だ。無論喜んで戦地に行く人間などいない。3千万人とも言われる米国内の飢餓階層の中の貧困家庭の子供たちや、定職につけない若者達が、軍のリクルーターの口車に乗せられて連れて行かれる。
アブグレイブ刑務所でイラク人捕虜を虐待した米兵で、サブリナ・ハーマンは地元のピザ屋の副店長を解雇されて入隊、イヴァン・フレデリックは勤めていた工場が閉鎖となり入隊している。
米国社会の底辺にいる人々が、軍隊の底辺にスライドしているのが現状だ。
我が国でも沢山の若者が定職につけなかったり、いわゆるニートと呼ばれる青年が増えているが、「明日はわが身」と捉えてほしい。
入隊した彼らは、イラクに派遣される前に6週間の訓練を受ける。
「訓練期間中、俺たちは同じ言葉をリズムに乗せて、何度も繰り返し叫ばされた。
『その女を殺せ、その子どもを殺せ、殺せ、殺せ、全員殺せ!』
朝の点呼のとき、食事の前と後、訓練の最中、寝る直前まで、両手を背中の後ろで組んで、その言葉を叫ばされるんだ。
声が小さいと、見せしめに腕立て伏せを500回させられたり、頭を固定して残酷な映像を何時間も見せられる。
あれをやられた奴は毎晩、悪夢で寝られなくなるぜ。それが恐くて、みんな顔を真っ赤にして絶叫してたよ。」
トマトジュースを入れたキャベツを頭に見立てた人形を撃たせて、仲間同士で競争させる。敵は人間でないと洗脳教育をするというものだ。
こうして若者たちは、ものを考えない、殺人マシーンの仕立てられる。
帰還兵の話しによると、イラク開戦からブッシュの戦争終結宣言までの間は、米軍はイラク国民から歓迎を受けていたそうだ。
その状況が一変したのは、米軍が大量破壊兵器を探すために、銃を持って民家を捜査し始めた時からだという。
「僕らを迎えてくれた人々の笑顔が消え、代わりに恐怖に怯えたそれになった。
一度あるビル内を捜査している途中に、5,6人のイラク人男性がわーっと入ってきて、アラビア語でなんだかわめきはじめた。
僕らの上官は一言、『銃を取れ!』と叫んで・・・・何がなんだか分からなかった。
マシンガンが発砲される音がして・・・、僕たちはビルを出るように言われて、出たところでミサイルが撃ちこまれて、気がついたら、そこらじゅう血の海だった。
破壊されたビルの周りには、中にいた家族たちの手足が散らばっていて、さっき僕が目を合わせて微笑んだ女の子の体の一部を見たとき、僕は・・・」
「僕は、ポケットからカメラを取りだして、その子のボディパーツを写真に収めたんだ。
仲間が、『そんなもの撮るなんて正気か?』って言ったけど、僕はどうしても撮りたかった。なぜだと思う?」
「生きているかぎり、永遠に忘れないためだよ。僕の魂の一部が壊れてしまったこの日のことをね。」
2004年12月に行った米陸軍の調査によれば、現在イラクにいる兵士の6人に1人は重度の精神障害を負っているという。
強度のPTSDを負って帰還した兵士は、帰国後に満足な治療が受けられず、社会復帰できない、満足な家庭生活も送れないまま、ドロップアウトしてゆく。
イラク帰還兵の中で、既に50万人に人がホームレスになっているのだそうだ。
それでも生きて帰れた人は、まだいいのかも知れない。
弟がイラクで戦死した帰還兵の話し。
「・・・小さな箱に入って帰ってきた。砲撃隊にいた弟の乗っていたタンクが爆破されて死んだんだ。その知らせを聞いたとき、最初に浮かんだのは、弟がイラクの子どもたちと遊んでる姿だった。弟は子どもが大好きで、イラクにいた時よく村の子どもと遊んでいたから。
軍からは小切手が送られてきた。それを見た時のショックは、今も忘れられない。
ねえ、僕の国の政府が僕の最愛の弟の命につけた値段は、1万2千ドル(約140万円)だったんだよ。」
イラクの米軍の戦死者は、現在3000人を越えた。
こうした実態は、アメリカ国内でさえ殆ど知られていないそうである。
イラクの前線で戦っているのは、アメリカ国民の一部の階層だからだ。大多数の国民は、高みの見物なのだろう。
「アメリカ弱者革命」の著者である堤未果さんは、それでもアメリカ社会の将来に希望を失っていない。
でも私には、イラク戦争で志願兵制度をやめて、いっそ徴兵制度を復活させないと、アメリカ全体の目が覚めないのではとさえ思えてくる。
日本では今日、防衛庁が防衛省に衣替えして、これから自衛隊の海外派遣は本来任務となる。
国際貢献などと聞こえは良いが、実態は米軍への貢献がメインだ。
これで憲法9条を変えれば、晴れて戦闘体制が整えられることになる。
安倍総理のいう「美しい国」の彼方には何が待っているか、私たちは真実を見据えていかねばならないだろう。
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こんばんは
安倍政権は本格的に憲法、それも9条をを改悪するみたいですね。
となれば、日本も徴兵制度が復活という事態もありうるわけで、まさしく、堤未果さんのいうような現実が日本にも到来ということになりますね。
ま、日本の場合志願兵を募ってもくるかどうか?
徴兵制にしても、逃げ出すものが多いかもしれない。
石原慎太郎総指揮の映画「君のために死にいく」みたいに笑顔で特攻機に乗るものなどいるか!
戦争の悲劇をもっと世に問わなければいけないと思います。
ベトナム戦争の米国帰還兵を描いた「タクシードライバー」。
この主人公のトラビスは大統領選挙の秘書に言い寄って変人扱いされたものの、最後はアイリスという少女を売春宿から逃して英雄になった。
もともとこのトラビスは確かに精神に異常をきたしていたのかもしれない。
それはもちろん、戦争による後遺症でだ。
イラク戦争でも彼と似た症状を持つ兵士はかなりの数にのぼるでしょう。
何があっても、戦争反対である。
そのためにも憲法9条は維持しなければならないと思う。
投稿: dejavue | 2007/01/09 20:04
dejavue様
コメント有難うございます。
憲法改正について、賛成論が多数になっている現実があります。
若い層の人たちにも賛成者が増えているようです。
しかし9条が改正され、日本が晴れて正規な軍隊を持ち、米国の世界戦略に組み込まれるようになれば、恐らく志願者だけでは充足できないでしょう。
この時は、徴兵制度が日程にのぼってくるものと思われます。
憲法改正論議を一般化するのではなく、自分の将来、自分の子供や孫の未来まで考慮してゆかねばならない。
そういう意味において、米国の現実をしっかりと見据えてゆく事が肝要だろうと思います。
投稿: home-9 | 2007/01/09 21:45
今日、今頃発表されているのではないでしょうか?私は彼の顔も見たくないからTVはつけていませんが、2万人程増派するようです。この前の中間選挙でコングレスとセネターで民主党が主導権をとりましたから、今までのようには楽に行かないと思いますが、まだ彼はやるんじゃないでしょうか?呆れてものが言えません。
昨日もまたソマリアのアルカイーダに空爆していましたが、何の確実な証拠もないのに、なんとも恐ろしいことです。こういうの目の辺りに見ていると、力があれば何をしても良いのか?一体ものの善悪とは何か?
まるで今のアメリカ政府の価値基準がわからないですね。
私も前から言っているのですが、どうして日本はアメリカに迎合するのでしょうか?まったく不思議です。だから、日本はアメリカの51番目の州だとか言われるんですよね。日本は、主権国家としてもっと独自の立場を貫き通すべきだと思います。
投稿: stayus | 2007/01/11 11:59
stayus様
コメント有難うございます。
それにしてもブッシュという人は、懲りない人ですねえ。
日本がアメリカの州になるですか、どうも向こうが嫌がっているようですよ。
何故なら日本人に選挙権、被選挙権を持たれるのは困るらしい。
今のように、全てアメリカの言いなりで一切権利は主張しない、口は出さずに金は出す、これが一番なのでしょう。
投稿: home-9 | 2007/01/11 17:14