新作派による古典の会@横浜にぎわい座
今年の正月は何となく寄席の初席に行かずじまいになって、1月10日の「新作派による古典の会」が私にとっての初席となってしまった。
前売り完売で、客席は超満員だったのはご同慶に堪えないが、この日11時発売の2月の立川志の輔の独演会は、30分間で前売りがソールドアウト、イヤな時代になったもんだ。
落語家4名、講釈師1名の5人の出場者であるが、喬太郎と山陽は新作派に分類するのは無理があるし、昇太にしても新作派とは言えまい。
多少看板に偽りありだが、お正月公演だからうるさいことは言うまい(言っているじゃん)。
以下、出演順に。
神田山陽「狼退治」。
山陽の高座でいつも感じるのだが、もう少し落ち着いて講釈できないものだろうか。
芸風といってしまえばそれまでだろうが、講談には歴史上の人物、それもたいがい英雄、豪傑が登場するのだから、人物に風格が要求される。
せっかく山陽という大きな名前を継いだのだから、正道を歩んで欲しい。
柳家喬太郎「錦木検校」(三味線栗毛)。
予告に反してマクラ抜きで本題に。
喬太郎はいつ聴いても上手い。それに高座に上がっただけで客席をシメル、見上げたもんだよ屋根やのフンドシだ。
持ち時間の関係か、普段よりやや急いだ運びになったが、後の大名酒井雅楽頭(うたのかみ)になる角三郎に品がある。
この辺りが山陽とは天と地の差だ。
按摩の錦木の一途な心情も良く出ていて、申し分のない高座だった(大名を検校を言い間違えたのは、ご愛嬌)。
最近ふと思ったのだが、喬太郎という人は、盲人のようなハンディを負った人物を主人公にしたネタで、俄然精彩を放つような気がする。
被虐性という点で、名人8代目文楽と、芸風に共通性があるのではないだろうか。
春風亭昇太「時そば」
昇太の特色は軽妙さだ。
軽い芸人は山ほどいるが、軽妙な芸人は少ない。貴重な存在だ。
一見すると肩に力が入っていないように見えるが、実際には相当な努力をしているのだろう。
「時そば」でいえば、初めにそばを二人で食いに行くという設定にしており、原作にだいぶ手を入れている。
しかし古典落語の「時そば」の持っているエッセンスはそのまま活かし、新しい「時そば」を作りあげている。
欠点があげれば、そばの食い方が下手なことだ。
昇太の才能が光る一席だった。
仲入り後がどうもいけません。
三遊亭白鳥「親子酒」
古典にギャグを入れて、少しでも面白くしようという意欲は買う。しかし方向性が間違っている。
主人公の大店のご隠居だが、これが全く“らしく”ない。
禁酒の約束をした息子に気兼ねしながら、それでも好きな酒を最初は一杯だけと飲み始め、次第にブレーキが利かなくなる。それでも呑んで帰ってきた息子に説教するこの父親の描写が、このネタの眼目だ。
白鳥の人物描写では、人物がシラフなのか泥酔しているのか、見ていて区別がつかない。
林家彦いち「愛宕山」
京都の愛宕山をカナダの川に置き換えての改作版だ。
このネタは、かつては8代目桂文楽の十八番として、他の噺家の追随を許さなかったという逸話が残っているが、その文楽も元の古典に随分と手を入れたとある。
最近では古今亭志ん朝の名演があるが、これとても文楽の型を大きく変えている。
古典を残していくには、常に時代の新しい息吹を吹き込むことが必要だ。
しかし彦いちの改作は、原作の持っている風情を殺し、主人公一八の面白うてやがて哀しき悲哀を薄めてしまっている。
彦いち、白鳥の古典を何とか自分のものにしようとする意欲は評価できるが、結果は空回りしていたように思う。
喬太郎の風格が目立った会であった。
« 『女を殺せ、子供を殺せ、全員殺せ!』 | トップページ | 「健康情報番組」の健康破壊 »
「寄席・落語」カテゴリの記事
- (続)この演者にはこの噺(2023.09.03)
- 素噺と音曲師(2023.08.30)
- 落語『永代橋』(2023.08.05)
- 小三治のモノマネ(2023.07.30)
- 祝!人間国宝「五街道雲助」(2023.07.22)
落語はいいですね。
とくに上手い噺を聞いたあとは感動すら覚えたことがあります。
それは三遊亭円楽師匠の「紺屋高尾」です。
枕もいいし、自分なりに脚色した人情話に仕上がってて最高でした。
昔、文通してた女性と初めてあったとき、浜離宮から浅草まで水上バスに乗り、寄席へ連れて行ったことがありました。
そのときに聞いた噺のような記憶があります。
投稿: drunkon | 2007/01/13 00:45
drunkon様
コメント有難うございます。
寄席でデートとは、これまた乙なお話しです。
私も妻が臨月のとき、初めて寄席に連れて行った思い出があります。
この胎教が良かったかどうか、その後の結果を見ると疑問符が付きますけど。
圓楽の芝浜ですか、良いですよね。
病気で倒れてしまいましたが、2月には高座に復帰の予定だそうで、楽しみにしています。
投稿: home-9 | 2007/01/13 16:06
こんにちは
私もこの会を見に行きました。仲入り前まではとても面白かったですね。
昇太さんの形は上方で演じられる時そばのスタイルだと思います。まあ、あれほど変な二人ではないですけど。そこが昇太師匠のデフォルメの妙ですね。
投稿: como | 2007/01/15 00:41
como様
コメント有難うございます。
上方だと「時うどん」でしょうか、あちらがそういう設定だったんですか。
すると昇太の演出の方が、オリジナルに近くなりますね。
仲入り後は、客席がゆるんでいましたね。
前半が良かっただけに残念です。
投稿: home-9 | 2007/01/15 09:36