談春七夜アンコール2007横浜にぎわい座バージョン第二夜「山吹」
いやに長いタイトルだが、要は立川談春の独演会。横浜にぎわい座で、今年は7回公演を行うということである。「色」をテーマにして、その色に因んだネタを披露しようという趣向。
3月1日は「山吹」で、お金に関係した演目ということ。
立川談春「木乃伊取り(みいらとり)」
―仲入り―
立川談春「らくだ」
談春の独演会の魅力の一つは、プログラムがシンプルであること。前座も抜きで、本人しか出ない。
処で、通常の独演会というのは、大体こういう構成になっている。
前座
弟子(0~2人)
本人
―仲入り―
ゲスト
本人
こうなると時間の関係から、本人2席の内1席は軽めのネタになる。
せっかく独演会に行ったのだから、滅多に寄席で聴けないネタをじっくり聴きたいというのが、大方の客の心理。
談春の場合は、1時間の長講を2席、これが魅力。
「木乃伊取り」
引退宣言の直後ということもあり、三遊亭圓楽のエピソードがマクラで振られる。
談春の初高座が「圓楽・談志二人会」(今なら夢のような顔合せ)だそうで、圓楽への思い入れも強い。
圓楽は、見かけによらずそそっかしい一面や、ちょっとエキセントリックな一面もあった模様。
ある時、白の上下のスーツにブルーのネクタイという出で立ちで、寿司屋に現れた圓楽が、カウンターにいた談春の隣に座り、いきなり「春ちゃん、ボクが山本五十六だったらねえ、あの戦争勝ってたよ。」と一言だけいって、出て行ったとか。
光景が目に浮かぶよう。
さて本題の「木乃伊取り」だが、あまり普段の寄席にかからないので、ざっと粗筋を紹介する。
大店の若旦那が吉原に出かけたきり戻らない。旦那は、最初は番頭、次に出入りに頭領に頼んで迎えに行かせるが、これが揃って戻らなくなる。
そこで無骨者の飯炊きの清蔵を差し向ける。
清蔵の説得が功を奏して、一同帰ることになったのだが・・・・・。
諺通り、「木乃伊取りが木乃伊になる」という結末。
談春は珍しくノーミスで、集中力と緊張感を感じさせる、良い出来栄えの高座であった。
特に飯炊き清蔵の酔いっぷりが良い。無骨な男が、次第に花魁に篭絡される描写が見事だった。
「らくだ」
このネタは、八代目三笑亭可楽のものが絶品で、現在に至るまで可楽の「らくだ」を越えた者がいない。
この演目だけは、名人志ん生や圓生も、可楽の足下に及ばない。
周囲の誰もから嫌われていた「らくだ」という男が死に、兄貴分が通りすがりの屑屋を脅かし、通夜の仕度をさせるが・・・・。
古典的な演出では、屑屋が酔った勢いで、蔑まれたウップンを一気に吐き出すというものだが、談春は、かつては道具屋の若旦那だったのが屑屋にまで落ちぶれて、その口惜しさを爆発させるという手法であった。ここでは兄貴分は泣き上戸という設定で、次第に立場が逆転してくるという演出だった。
これはこれで、聴いていて楽しかった。
談春流が良いか、可楽流が良かったかは、それぞれの好みに拠るだろう。
細かい点では、屑屋が名乗る前に、兄貴分が屑屋の名前を呼んだりというミスが数ヶ所あった。
こういう古典の代表的演目だけに、キッチリと演じて欲しい所。
談春という落語家は不思議な芸人だ。
複数で出演する会は気分が乗らないのか、およそ薄味な高座になる。独演会となると気合が入り、別人のような姿を見せる。
独演会に人気が集まるわけだ。
来月の会のチケットも、発売日に完売していた。
なお、横浜にぎわい座は5月を記念公演として、
1日―志らく
2日―小朝
3日―鶴瓶
4日―権太楼
7日―笑志
8日―志の輔
9日―喬太郎
という豪華メンバーが揃う、
楽しみだが、チケットの争奪戦が今から思いやられる。
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