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2007/05/21

前進座5月国立劇場公演

Tatugoro前進座が毎年1回行う国立での公演ですが、ここ数年観劇するのを恒例としています。
プログラムが意欲的で、今年も歌舞伎十八番の『毛抜』と、前進座が得意とする演目で、31年ぶりに出演者全員が初役という『新門辰五郎』の組み合わせでした。
5月19日の夜の部を観に行きました。

今年から前進座友の会に入会し、通常発売日より1日早く予約が取れたもので、前から7列目の花道脇と、良い座席が確保できました。
年会費は払いますが、チケットの割引とプログラム半額サービスで、直ぐに元が取れる仕組みです。
花道の役者と目が合うと感じるほどで、やはり芝居は良い席で観たいですね。

『毛抜』 
―配役―
粂寺弾正      嵐 圭史
小野左衛門春道  山崎 辰三郎
小野春風      瀬川 菊之丞
八劒玄蕃      山崎 竜之介
数馬         中嶋 宏幸
秦民部       小佐川源次郎
秀太郎       嵐 広也
桜町中将清房   武井 茂
百姓万兵衛    藤川 矢之輔
実は石原瀬平
錦ノ前        山崎 杏佳
侍女 巻絹     河原崎 國太郎

『毛抜』の粂寺弾正は、歌舞伎界きっての異色のヒーローです。
脅し賺(すか)しにハッタリかまし、男女別なく美形と見れば言い寄る両刀使い。それでいて医学に通じ、イザとなると名探偵ポアロのような見事な推理を働かせて難問を解決し、一方で悪人の首を打ち落とす腕前も披露する。
正にスーパーヒーローです。

古典歌舞伎には珍しく喜劇的な要素が強く、それだけに粂寺弾正役はとても難しいと思われます。
豪快な面と洒落た面、両者を併せ持つ大らかな演技が要求されますが、嵐圭史が見事に演じきりました。
口跡が良く、風格もあり、特に花道の引っ込みの場面での、なんとも言えぬ愛嬌が良い。
脇も、小野春風役の瀬川菊之丞、錦ノ前役の山崎杏佳に品があり、好演。
難を言えば、敵役の藤川矢之輔が、力を入れてセリフを言う時に声が割れること。この点は後の『新門辰五郎』の芝居でも同様でしたので、注意して欲しいところ。

『新門辰五郎』
―配役―
新門辰五郎    中村 梅雀
花川戸の小竹   武井 茂
海苔屋の久次   山崎 辰三郎
金看板の源次   益城 宏
山谷掘の彦造   嵐 広也
秋葉屋お六    河原崎 國太郎
九紋竜の定五郎 山崎 竜之介
黒部六之進    志村 智雄
三春の猪之吉   小佐川 源次郎
会津の小鉄    藤川 矢之輔
八重菊       瀬川 菊之丞
絵馬屋の勇五郎 中村梅之助

『新門辰五郎』は真山青果の原作で戦前発表された作品ですが、戦時中に前進座により初演されています。
戦後になって何回か再演されましが、辰五郎が当たり役だった中村翫右衛門の死去以来、上演が途絶えていたものが、この度の復活の運びとなりました。

時は幕末、騒然とした空気の京都の街。
将軍上洛のお供人足として子分を引き連れ京都に入った新門辰五郎、ひょんな事から義理のある水戸藩の武士をかくまってしまいます。
一方京都守護職の会津藩主・松平容保の警備にあたる見廻り組の中間・小物の中には、権威をかさにきて乱暴狼藉を働く者たちがおりました。その組頭が会津の小鉄です。
いつしか権力闘争に巻き込まれていく彼らと、辰五郎と小鉄の対決と意地の張り合いが、この芝居の見所となっています。

江戸町火消しの組頭という辰五郎、颯爽と威勢の良い所を見せると同時に、小鉄らとの対決場面では腹のある演技が求められ難役です。
前進座が31年も上演してこなかったのは、辰五郎を演じる役者がいなかったためと思われます。
主演の中村梅雀ですが、初役にもかかわらず、見事にこの大役をこなしました。
先ず口跡が良い。凛としたセリフが舞台を締めます。腹の据わった演技で、改めて梅雀の成長を窺わせてくれました。

二つの組の立ち回り場面は迫力があり、火事場に向かう勢揃い場面は感動的でした。「木遣」も結構でした。
この辺りは、前進座のアンサンブルの優れたところです。
小鉄役の藤川矢之輔は押し出しが良く、貫禄を示しましたが、口跡が良くないのが難点。
八重菊役の瀬川菊之丞に気風(きっぷ)の良さがあり、秋葉屋お六役の河原崎國太郎は最近色気が出てきました。

絵馬屋の勇五郎役の中村梅之助は、出だしに少しセリフがもつれ衰えを感じさせましたが、途中から立ち直り、酸いも甘いも噛み分けた男の姿を見せたのは、さすがです。

ただ寄席前の喧嘩場で、三春の猪之吉役の小佐川源次郎が啖呵を切るシーンで、セリフを咬んだのは頂けない。せっかくの見せ場に水を差してしまう。
それと芝居とは直接関係ありませんが、プログラムの「あらすじ」の書き方が不親切過ぎる。この程度では、HPの解説と変らない。一考を要します。

全体としては、ここ数年の前進座国立劇場公演で、最も充実した舞台でした。

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