安倍政権の拉致問題解決への「フリ」
米国ブッシュ政権は、昨年の中韓選挙敗北と泥沼化がいっそう深刻になっているイラク戦争への対応のため、対北朝鮮の核問題での具体的な成果を求められ立場に追い込まれてきました。
政策の主導権は、ネオコンからライス国務長官、ヒル国務次官補のラインに委ねられています。
兆しは昨年末から始まり、今年2月に行われた6カ国競技の中で、米国の姿勢はさらに鮮明になりました。
4月末に行われた日米首脳会談で、安倍首相が「拉致問題の解決をテロ支援国家指定解除の前提条件にして欲しい」と要請したのに対し、同席したライス国務長官が、指定や解除の根拠となる国内法に照らして判断すると説明したうえで「米国民が直接(拉致の)被害にあったわけではない。前提条件にはならない」と述べたと伝えられています。
もう一つあります。
この首脳会談の直後に米国務省は06年版のテロ年次報告書を発表しましたが、拉致の記述が大幅に減り、米朝がテロ支援国家の指定解除に向けた作業を始めることが新たに記されているそうです。ヒル国務次官補は4月に来日した際、外務省幹部に報告書の拉致問題の記述を弱めないよう求められた際に、「どう書くのかは我々が決める」と答えたそうです。
よその国に拉致問題など構っちゃいられない、これが米国の本音でしょう。
私たち自身振り返ってみれば、過去に他国で起きた人権問題にどれほど真剣に心を痛め、その解決のために協力してきたでしょうか、胸に手を当てて考えれば分かります。
一般的には同情するけれど、身を犠牲にしてまで尽力する人は少ない。
所詮は、他人事なんです。
こうした米国の方針は、もちろん我が国にも伝えられており、政府も承知はしていた。
しかし安倍政権としては、拉致の解決を重要課題としており、担当の総理補佐官までおいているわけですから、国内向けには真剣に取り組んでいる姿勢だけでも見せなくてはいけない。
私が最初に気付いたのは、NHKニュースです。
今年の初めころから、連日のように拉致被害者の家族の活動を報道するようになりました。民放ならニュースにしないような事柄まで、積極的に取り上げていました。
NHKというのは極めて政治的ですから、ニュースの内容をチェックしていると、政府がどの方向で動こうとしているか、予想できます。
私はいつもNHKニュースを、国営放送の政府広報番組として見ています。だから受信料を取られることに腹が立つ。
家族会の関係者と米国高官との面談で、高官たちは必ず「拉致問題の解決抜きに、北朝鮮への支援を行うことはない」と言明していますが、あれも恐らくは“エクスキューズ”ですね。
ニュース画面での安倍総理の決意表明や勇ましい言葉は、「フリ(pretend)」にしか見えないのですが。
私は小泉前総理に対していつも批判してきましたが、北朝鮮に自ら乗り込み、拉致の事実を認めさせ金正日に謝罪させたことは、大いに評価しています。
拉致被害者とその家族の方々、それは一部であったかも知れませんが、とにかく日本に連れ帰ったのは、快挙と言っても良いでしょう。
しかし残念なのは、当時の関係者たち、特に窓口となって動いた外務省の田中均氏が、その後大きな批判にさらされたことです。
確かに拉致被害者の家族の方の歯がゆい思い、なぜもっと強く主張してくれないのかという思いはあると思います。
しかし相手は、正面から帰せと迫って、ハイそうですかと帰すタマではない。
様々な外交ルートを使ったり、時には手練手管をろうすることも必要だったでしょう。
それに彼ら行政官は、政府首脳の命を受けて動いたわけで、彼らを一方的に非難するのは、フェアーでない。
まして田中氏宅に爆弾が仕掛けられたり、これに便乗した口先男の某都知事は、「爆弾を仕掛けられて当然だ」とか、「昔なら一刀両断された」とか、言いたい放題。
それに対して、政府は抗議すらしなかった。
これでは担当者は浮かばれない。
こんなことを許しておけば、これから北朝鮮問題に真剣に取り組むような担当者は、出てこなくなります。
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