社会保険庁や市区町村の職員が過去に年金保険料や給付などを計3億4000万円着服していた問題で、舛添厚生労働相は9月4日の閣議後の記者会見で、「横領したような連中はきちんと牢屋(ろうや)に入ってもらいます。今からでも刑事告発してやろうかと思って」と語りました。総務省の協力を得て、横領職員らの処分状況調査の徹底も指示しました。
その言や良しですが、あまり期待できないと思います。
横領の金額全体は、公表されている数字を遥かに上回っているのは確実ですし、それらを告発するのは極めて困難です。
その理由は、これから説明します。
年金に限らず、公務員による広義の公金横領は、広く深く根を張っていて、その土壌の上に年金横領が乗っかっています。
従って年金横領を本格的に摘発し、再発防止をしようとするなら、この土壌そのものを取り去らなければならないからです。これは容易な事ではありません。
年金を含む公金横領には、大きく分けて二つあります。
第一は、公的横領です。勿論、これも公金横領に違いはありません。
通常「機密費」あるいは「調査費」と呼ばれていますが、実態は「裏金」です。
横領した金は、幹部への上納金、幹部や所員の飲み食い、餞別や慶弔金などに充てられます。また一部は政治資金に流れています。
過去に「裏金」作りをやったことが無いという省庁は、一つも無いでしょう。
第一、行政トップの内閣に、官房機密費という立派な裏金が存在し、およそ月額1億円程度が使われているとのことです。
国会対策と称して与野党議員に配られたり、首相や大臣の外遊の際の餞別として渡されたり(海外で千万円単位の買い物をした首相夫人もいたそうです)、マスコミ対策と称して記者や評論家(サンプロのあの方も貰っていました)の小遣いに、などと実に幅広く使われています。
トップがこれですから、以下は右にナラエですね。
取り締まりにあたるべき警察や検察でも裏金を作っていましたので、刑事告発など出来るはずが無いわけです。
遠藤農水相辞任の原因となった農業補助金の詐取も、一種の公的横領でしょう。
これとて氷山の一角、恐らく全国を詳細に調査すれば、後から後からゾロゾロ出てくることでしょう。
第二は、私的横領です。横領が発覚しない場合もありますが、発覚した場合は、どう処理していたのでしょうか。
①最も多いのは、本人が弁済して済ませるケースです。関係者しか事実を知らないし、横領そのものが消しゴムで消されます。金額が少なかったり、横領が早期に発見された場合は、大体こうした処理が多い。
横領した本人も、何事も無かったように勤務を続けます。
②弁済して本人が退職するケースです。退職金で弁済するので、依願退職扱いとなり、組織も本人の経歴にも傷が付かない。
③弁済が出来ず、懲戒などの処分を受けた上で本人が解雇されるケースです。横領が長期に亘った場合や、金額が大きい場合は、こうした方法が採られます。
④横領罪として本人が刑事告発される場合もありますが、これは極めて稀です。
これは公務員も企業も同じですが、①と②の処理が圧倒的であり、横領として表に出ません。
なぜそうなるか、不祥事が明るみになれば、本人だけでなく上司も処分されるからです。裁判沙汰にでもなれば組織にも傷が付く、だから隠密に処理するわけです。
横領の場合、横領をしていた時期と、発見される時期がずれる場合が多い。
処が問題が明るみに出ると、その時の上司が処分を受けるのが一般的です。自分が上司の時は、見て見ぬフリをして任期中をやり過ごすことになります。
かくして、横領の大半は表に出てこない、だから摘発のしようも無い、こうなるわけです。
年金の横領について考えて見ましょう。
私は金額において、第一の公的横領が圧倒的に多いと推定しています。
厚生労働省は過去に、年金を財源にしたリゾート開発などを行ってきましたが、この目的は
①天下り先の確保
②公的横領の財源の確保
であったと見ています。
事業を外郭団体に高値でやらせて資金を還流させ、一部は政治資金に、その他は裏金としてプールされ、幹部達の遊興・接待費に使われていたでしょう。
しかしこの分は、関係者の内部告発でもない限り、先ず表に出ることはありません。
私的横領についても先に記したように、公表されているのは氷山の一角であり、もし氷山の下に隠れている部分を暴こうとすれば、厚生労働省自体が、相当な返り血を覚悟しなければならない。
それはいくら舛添氏が怒って見せたところで、現政権の下では実現は無理です。
折角ですから、その一部でも実現することを期待したいですが。
内閣を始めとする省庁での公的横領を完全に止めない限り、公金横領という罪の意識は薄くなり、厳しく罰すると言う空気は生まれて来ないと思います。
「裏金」の完全廃止を含む抜本的な公務員制度改革を行うことが、年金など公金横領を根絶させるためには欠かせないと思われます。
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