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2007/10/31

感動の舞台 前進座「俊寛」

Syunkan江戸時代に一日に千両の商いがあったのは3ヶ所で、吉原、魚河岸、それに芝居(歌舞伎)だったことから、「日に三箱 鼻の上下 ヘソの下」という川柳が生まれた。
鼻の上が目で芝居、鼻の下が口で魚、残るヘソの下はいうまでもなく吉原である。
それほど歌舞伎と言うのは、江戸庶民に愛されていたわけだ。
吉原が男の世界なら、歌舞伎は女・子供の世界であった。本来の歌舞伎は大衆娯楽、笑わせて泣かせて楽しませる、そういう世界だ。
前進座の舞台は常に、そうした歌舞伎本来の姿を見せてくれる。

10から11月にかけて、前進座は中村梅之助主演の「俊寛」の公演を行っている。
10月27日昼の部の前進座劇場での舞台を観劇した。
【配役】
俊寛僧都:中村梅之助
平判官康頼:山崎辰三郎
丹波少将成経:嵐広也
海女千鳥:河原崎國太郎
丹左衛門基康:嵐圭史
瀬尾太郎兼康:小佐川源次郎 ほか

原作は近松門左衛門作の人形浄瑠璃『平家女護嶋』全五段で、その中の「鬼界ヶ島の場」だけが独立して「俊寛」として演じられる。
歌舞伎の演目の中でも人気が高く、この10月には「俊寛」が、3ヶ所で上演されている。

物語は、平清盛の権勢は天下をおおっていた頃、その清盛への謀反を企てたという罪で、法勝寺の僧・俊寛、丹波少将成経、平判官康頼の3人が絶海の孤島・鬼界ヶ島の流人となった。
以来、はや三年の月日がたち、三人は憂き艱難の日々を送っていたところ、迎えの船がやってくる。
一時は3人揃って帰還と喜び合うが、最後は俊寛一人島に取り残されて、船が去って行く。

この演目は、一幕の中に喜怒哀楽が全て詰め込まれていて、しかもそれが次々と展開していく。
①3名の流人の嘆き
②成経に千鳥が夫婦固めの杯を交わす喜び
③迎えの船を見つけた喜び
④赦免状に俊寛の名前が無いと知った悲しみ
⑤別の赦免状に俊寛の名があった時の喜び
⑥俊寛の妻が都で殺されたと知った時の悲しみ
⑦千鳥は乗船させないとされた時の怒り
⑧妻の仇として瀬尾を討つ俊寛の怒り
⑨自らを身代わりに千鳥を船に乗せる俊寛の慈しみ
⑩3人と分かれ一人島に残される俊寛の嘆きと最後の笑い

前進座の舞台は、こうした喜怒哀楽にメリハリをつけ、ともすると陰気な舞台になりがちな「俊寛」を、泣いて笑って楽しませ感動させるという魅力的な演出を行っている。
例えば、成経が千鳥との馴れ初めを語るとき、千鳥が裸で汐汲みをしている姿を、身振り手振りでかなりキワドク表現しているシーンがあげられる。

その一つは、海女・千鳥を単なる可憐な娘として描くのではなく、自立した女性として描いていることだ。
成経と引き裂かれて島に置かれると知るや、「武士(もののふ)はものの哀れを知るというは偽り、虚言(そらごと)よ。鬼界ヶ島に鬼はなく、鬼は都にありけるぞや・・・」と嘆き、自殺しようとして俊寛に止められる場面である。
加えて、俊寛と瀬尾の立ち回りの最中、塩かき熊手をもって俊寛に加勢しようとする場面があるが、これは恐らく前進座独自の演出と思われる。
この舞台では、千鳥が影の主役となっていた感があった。

もう一つは、帰還してゆく3人を見送り一度は悲嘆にくれる俊寛が、ラストシーンでは彼らに未来を託して、正面を向き笑みを浮かべるという演出。この物語を単なる悲劇に終わらせず、そこに救いを持たせている。
更に俊寛が乗った岩をグルリと回すと同時に、客席に向けてせり出させることによって、俊寛の最後の表情が、客席から見てクローズアップされるという工夫を凝らしている。
喜びが大きければ、その反動の悲しみも深くなる。
嘆きが深ければ、それだけ未来への希望も大きくなる。
計算され尽くした演出といえよう。

久々に歌舞伎の舞台で、感動を味わった。

役者では、千鳥役の河原崎國太郎が実に良かった。
初々しさと芯の強さを併せ持つ難役だが、見事に務め上げていた。何より、匂い立つ色気が良い。怒りを爆発させる場面でも、決して可愛らしさを失わない。
最近の國太郎は、役者としての風格も出てきて、いよいよ座を背負う存在となりつつある。

瀬尾太郎兼康役の小佐川源次郎の、悪役ぶりが板に付いていた。
声に張りがあり、舞台をシメていた。

俊寛の中村梅之助、最後の岩場で別れを惜しみ嘆くシーンは、胸を打たれる。
ただ最近の梅之助は声の張りを欠き、大きな劇場では後方の席に声が届かないのではと、心配になる。健康状態が、どうなのだろうか。
それでも瀬尾との立ち回りシーンでは、迫力十分だった。

前進座のアンサンブルが光る舞台だった。
他に「人情一夕噺」を上演。

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