第34回NHK古典芸能鑑賞会
年に1度のNHK古典芸能鑑賞会、34回の今年は10月28日NHKホールで行われた。
歌舞伎や狂言を中心に、日本の古典芸能の真髄を紹介する公演で、毎回各ジャンルの第一人者が出演して、磨き上げた芸を披露する。
第1部は「芸競四季粧(わざくらべしきのよそおい)」 と題して、日本の四季にまつわる演目が並んだ。
◇義太夫 「関寺小町(せきでらこまち)」
浄瑠璃:竹本住大夫
三味線:野澤錦糸、鶴澤清志郎
小鼓:堅田喜三久 笛:中川善雄
「関寺小町」、季節は秋、年老いて100歳となった小野小町が、月光の下で落魄をなげき、華やかなりし頃を想い出し、最後は現世を賛歌するという筋になっている。
義太夫は、歌舞伎や文楽ではお馴染だが、義太夫単独での公演は普段接する機会がなく、初体験であった。
冒頭に堅田喜三久の小鼓が、ポポンポンポンポンと響き渡る。なんという心地よい音色だろうか。
次いで、浄瑠璃・竹本住大夫が静かに語り出す。凛として、しかも柔らかい声だ。コクがあるのにキレがあるみたいなものか。
笛、三味線、どれも心に沁みる。
◇狂言(和泉流) 「蚊相撲(かずもう)」
大名:野村萬、
太郎冠者:野村扇丞、
蚊の精:野村万蔵
和泉流の狂言、と言ってもあのインチキ臭い和泉某とは別格。
狂言「蚊相撲」は、大名と蚊が相撲をとる愉快な場面や、蚊の姿を模した滑稽な扮装や仕草など、まるでドリフのコントのように分かり易い笑いの世界。
人間国宝の野村萬の、軽妙洒脱な芸に感心するばかり。
◇舞踊 上「傾城(けいせい)」、下「半田稲荷(はんだいなり)」
立方:坂東三津五郎 ほか
2作品共に、坂東流に伝承されているもので、当代の家元、10代目坂東三津五郎が舞う。「傾城」の方は、初めての舞台とか。加えて三津五郎の二人の娘が、これまた初共演というオマケ付き。
「傾城」は三津五郎の踊りに硬さが感じられたが、「半田稲荷」になると俄然面目躍如。
こういうコミカルな踊りをさせたら、三津五郎は天下一品。
これは舞台とは関係ないが、大向こうの掛け声がうるさ過ぎ。多くは動員された人間が掛けていたようだが、時と場をわきまえない掛け声は無粋だし、却って舞台の興をそぐ。
第2部「歌舞伎」
◇「菅原伝授手習鑑」寺子屋
松王丸:市川團十郎
武部源蔵:中村梅玉
松王丸女房千代:中村魁春
源蔵女房戸浪:中村芝雀 ほか
「寺子屋」は言うまでもなく、歌舞伎の代表的作品。舞台を観たことが無い方でも、この演目の中のセリフ、「いずれを見ても山家育ち」「せまじきものは宮使い」などという言葉は、ご存知だろう。
主の若君を助けるために、我が子を犠牲にする松王丸の抑制された悲しみ。十数年ぶりにこの役を演じた(意外!)市川團十郎の演技に、ただただ惹き付けられた。千代役の中村魁春が、タップリ泣かせる。
心理描写と様式美が一体となった作品、名作に相応しい舞台となっていた。
本公演は、12月7日夜、NHK教育TVで放送の予定。
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