病院が「社会的弱者」になった
入院費を払わない人を7年間も入院させ、退院の時は自宅まで送り届けたのに引取りを拒否され、挙句のはてに「置き去り」と非難されたんじゃ、病院もやってられないですね。
それなら治療費を払えない患者は、最初から診療拒否すれば良いのでしょうか。
マスコミも自らの報道が、どういう結果を招くかを良く考える必要があります。
私は医療機関で仕事をしたことがありませんが、自身や家族を含めて何回か入院の経験があり、病院には随分とお世話になってきました。
入院患者の世界というのも、社会の縮図でもあります。立派な人もいますが、病院や職員、周囲の患者に迷惑をかける困った患者も少なくありません。
最近になって、「院内暴力」ということが問題視されているようですが、以前からそうした行為はありました。
もう20年ほど前になると思いますが、日曜日に近所の病院職員から電話があり、手が空いていたら至急来て貰えないかという依頼でした。経緯は次の通りです。
この病院の男性患者の中に、当たり屋がいたんです。
当たり屋というのは、わざと自動車などに近付き、交通事故を起こさせ、損害金・賠償金などを要求してくる人間で、最終的には法外な保険金を詐取する保険金詐欺になります。
この病院には外科があり、事情を知らない医師がその当たり屋を診察し、入院させてしまったわけです。
当たり屋の男というのは大体ヤクザに近いですから、入院してもルールは守らず、病院の職員や看護婦に暴言をはくなど、問題患者になっていました。処が、担当医の前に出ると途端に卑屈な態度を取り、急に大人しくなるものですから、強制退院にまでは出来なかったのです。
日曜日にその当たり屋が、暴言をとがめた看護婦に暴力をふるうという事が起きました。
病院は早速その男を会議室に移し、退院を勧告したわけです。当たり屋としては、ここで退院させられたら飯の食い上げですから、言を左右にして抵抗するわけです。
休日ということで男性職員が少なく、事態によって再び暴力沙汰になる可能性があります。
私に、急いで病院に来て、近くで黙って立っていて欲しいと言うのです。
「オレは用心棒か」と思いながら、知り合いの職員からの依頼だし、ナマの当たり屋を見るのも向学のためだと思い、取り敢えず病院に駆けつけました。
会議室の窓越しで見ていると、椅子に座った中年の男を二人の病院職員がなにか説明し、男が反論している様子が窺えました。その当たり屋は、身長は低いですが、一見してヤクザ風の男でした。
廊下に立っている私のことが少し気になるようで、チラチラこちらを見ていましたが、やがて職員の説得に応じ、間もなく退院してゆきました。
何事も無かったので、そのまま私もお役ゴメンとなりました。
後日談ですが、私に電話した職員によると、その当たり屋は私を見て、「なんで刑事を呼んだんだ」と言ったそうです。
処が、事情を知らない別の職員は私を、「当たり屋が仲間のヤクザを呼んだ」と勘違いしたとか。
当たり屋からは刑事と間違われ、職員からはヤクザと間違われる、オレってよっぽど目付きが悪いんだなと苦笑するしかありません。
いずれにしろ、多少お役には立ったようで感謝されました。
この病院によると、看護士が暴力を振るわれそうになったりする例は、結構あるのだそうです。
入院中の母親が亡くなったのに、一度も見舞いに来なかった息子の暴力団員が、数ヶ月経ってから病院を訪れ、医療ミスがあったので慰謝料をよこせと要求されたこともあったとか。
救急指定の病院になっていますが、救急車で運びこまれる患者の中には、保険証は勿論、現金も身分証明も持たず、治療が終わるといつの間にかドロンしてしまう者も少なくないそうです。
治療費や入院費の未払いも増えており、そうかと言って診療を拒否するわけにもいかず、病院の経営を圧迫する結果となっているという問題が起きています。
救急患者のたらい回しはマスコミを賑わせますが、医療費を払わない患者は非難されない、これは片手落ちです。
今や医療機関が社会的弱者になってきた、そう言えるのではないでしょうか。
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本、内容についてはごもっとも、同感です。
最近知った情報で、医師会はかつて大学医学部増設を、医者供給過剰を恐れたのか、反対して実現させなかったそうですね。そこに思いを馳せると、エゴのしっぺ返しを受けているようにも思えます。
現場の医師には「仁」も多いと思いますが、医師に限らず権力を持っている立場の人間のような生き物に問題が多い気がします。しかし、政治家のレベルは有権者のレベルと同じと言う指摘がありますので、権力者も平民も同罪かもしれません・・・
脱線ついでに。迷宮入り大事件が多過ぎると思います、何とかなりませんか
投稿: ロング | 2007/11/16 23:06
ロング様
コメント有難うございます。
医師の総数は充足しているようですが、産婦人科や小児科など、特定の診療科の医師不足が問題になっています。
この点に関しては、厚労省が少子化を見越し、出産や小児医療の医療機関、医師を抑制する方針の反映ではないかと想定しています。
私自身、乳児の頃から50才になるまで慢性喘息に苦しみ、沢山の医師と接してきましたが、多くは尊敬できる方々でした。悪徳医も世間にはいるのでしょうが、一部ではないでしょうか。
犯罪の検挙率が年々低下しているのは由々しき問題で、これも行政が早急に手を打つべき課題だと思います。
投稿: home-9 | 2007/11/17 11:34
バンコク在住中の病院での経験を一つ。
我が家のメイドさんの姉の娘さんがバイクで事故に遭い、足を切って病院に担ぎ込まれました。
病院のフロント担当者は、患者の氏名、年齢、住所などを確認した後、至急お母さんに連絡せよと言っただけで治療には取り掛かりませんでした。
切った足の傷口から出血しているのに止血もせずに。
お母さんとようやく連絡がつき、彼女が病院に到着して支払いを保証するとようやく治療が始まったそうです。
この病院にはタケチャンマンも治療に訪れたことがありますが「患者様はお客様」の思想が徹底していて、病院に到着すると玄関先まで車椅子を押した係員がすっ飛んできて患者を受付まで運んでくれます。
病院内で患者は1歩も自分の足で歩く必要がありません。
当然、医者が患者を待たせるなんてこともなく、薬もすぐに出してくれます。
帰りには門番が「運転手さんをお呼びしましょうか?」「タクシーですか?」
しかし、この病院でお客様になれる患者様はお金持ちとバッグパッカーではない外国人のみ!
投稿: タケチャンマン | 2007/11/17 15:25
タケチャンマン様
コメント有難うございます。
日本でも聖路加病院あたりだと、そうしたサービスがあるのでしょうか。でも差額ベッド代が月100万円では、手も足も出ません。
ご指摘のように、海外の多くの国では医療が二重構造になっていて、低料金・低レベルと高料金・高レベルの医療機関に分かれているケースが多い。
その点、日本の医療制度は相対的には優れていると思います。
しかし今のように医療費未払いの人が増えていくと、やがて医療制度が崩壊します。そういう人々は、自分で自分の首を絞めているという事を考えておくべきでしょう。
投稿: home-9 | 2007/11/18 08:09