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2007/11/18

思い出の落語家8「芝浜」の三代目桂三木助

Mikisuke三木助の「芝浜」か、「芝浜」の三木助かと称された三代目桂三木助、三木助を襲名して売れ出してから10年余りの58歳でこの世を去った。もう少し長生きしていれば、間違いなく名人に列せられただろう。あまりに活躍期間が短過ぎたのが惜しまれる。三木助のナマの高座を観た人も、もう数は限られていると思われる。

明治生まれの三木助だが、売れ出したのは戦後で50歳を過ぎた頃からだった。一時は落語家を辞めた時期もあったくらい、若い頃はさっぱり売れなかったようだ。
その理由だが、私の想像では次のことがあげられる。
一つは、芸風が地味な上に声が細く、全体に陰気な印象を与えたのではないだろうか。噺家である以上声は大事で、美声でなくても良いが、張りのある良く通る声の持ち主が有利だ。
三木助の場合、音域が狭いという欠点があった。
二つ目は、芸人としては不器用な部類に属する噺家だった。マクラで面白いことを言えるわけではないし、若い頃は客席の笑いを取れなかったのだろう。

若い頃から人気が出る噺家というのは、例外なく器用な人が多い。マクラも面白いし、5-6分の短い時間でも観客を楽しませる術を知っている落語家が、人気が高くなる。だが年齢が高くなってもサッパリ上手くならないのが多いのも、このタイプだ。
当代の円歌、円蔵あたりがそれに該当する。
処が、後年名人上手と言われている人は、どちらかというと不器用で、じっくり聞くと始めて味が出るタイプが多い。上手い落語家に大器晩成型が多いのはそのためだ。その典型が三代目桂三木助だろう。

三木助が人気が出だしたのは、戦後のNHKラジオ番組「とんち」教室に出演するようになってからだ。ただ同じ出演者だった六代目春風亭柳橋と違うのは、人気が出た時期にレギュラーを降りたことだ。その後NHK専属にはなったが、落語一筋であった。
滑稽噺も得意で、「へっつい幽霊」では若い頃のバクチ修行のお陰で、サイコロの振り方がプロ級だった。
「蛇含草」では餅の食い方が上手く、その仕草だけで観客を笑わせていた。

しかし何といっても三木助の本領は人情噺、極めつけは「芝浜」だ。昭和29年に三木助はこのネタで芸術祭奨励賞を受賞したが、これは落語家の初の受賞だった。
私は、今でも三木助の「芝浜」を越える高座に出会っていない。
何が良いのかというと、全編に溢れる詩情だと思う。
先ず冒頭の夜明け前から日の出の芝の浜の描写が良い。人っ子一人いない早朝の浜辺、道成寺の鐘の音、打ち寄せる波、潮水で顔を洗い、一服していると財布を見つける、まるで静かな波の音が聞こえてくるような感じがする。
それと最終場面での、当時の商家の大晦日の描写が優れている。掛取りに来る人のために火をおこしておく、ソバ屋が忙しいだろうからと奉公人に出前の空容器を届けさせる、こうした描写により、主人公がこの3年間で商売に成功し、人間的にも成長したことを示している。
「芝浜」のようなネタは、こうした細部の描写が肝要なのだ。

もう一つあげるとすれば、「ざこ八」だろう。
元々が、三代目三木助が大阪の二代目三木助から教わり、東京に持ってきたネタだから当然ではあるが、これまた三木助を越える演者が出現していない。
10年ぶりに江戸に戻った鶴吉と、大店だった「ざこ八」がつぶれるに至った経過を語る枡屋新兵衛との会話が実に小気味良い。
新兵衛に「お前さんがつぶしたんだ」と言われ激高するが、諄々と説かれて納得し後悔する鶴吉。この二人の火の出るようなぶつかり合いが活きて、今は病気で乞食同然となった「ざこ八」の娘お絹と所帯を持つという鶴吉の決心が、始めて説得力を持つのである。
とても良い噺なのに、三木助の死後、高座に掛かる機会が少ないのは、難しいせいだろうか。

こうした心理描写は、落語家になりながら若い頃バクチで身を持ち崩し、一時は踊りの師匠に転向するまでに至った三木助の、苦難の人生経験が生かされているのだろう。

他に「崇徳院」や一連の左甚五郎ものなど、今に至るまで他の追随を許さない三代目桂三木助。
早くこの芸を追い越す噺家の出現を、見てみたいものだ。

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