「死刑を執行させて頂く」とは面妖な
私がキライな言葉使いに「・・させて頂く」というのがあります。以前から芸能人が多用していたが、実に聞き苦しい。「お付き合いをさせて頂いております」だの「結婚の報告をさせて頂きました」だの、一体誰のさせて頂いたのかと、ついついツッコミを入れたくなります。
女房から「この度、妊娠をさせて頂きました」などと言われたら、亭主はビックリ仰天だぜ。
本人はへりくだった表現をしているつもりでしょうが、「します」「しました」で済むことを、どうしてもって回った言い方をするのか理解できません。
最近、この言い回しを政治家が多用するようになりました。これまた自らの責任を回避し、まるで他人事のような言い方に聞こえ、不快な思いをしています。
その極みが、昨日7日の衆院法務委員会での鳩山邦夫法相の次の発言です。
「・・・(執行命令書に)サインをさせていただいた。大きな心の痛みを感じるが、法に基づいて粛々と実行しなければいけないということで、逃げることのできない責務と思って執行させていただいた」というものです。
鳩山法相は、一体誰に向って「執行させて頂いた」のだろうか。
死刑は、刑法に次のように定められています。
第11条 死刑は、刑事施設内において、絞首して執行する。
2 死刑の言渡しを受けた者は、その執行に至るまで刑事施設に拘置する。
死刑の執行は、刑事訴訟法で次のように定められています。
第475条 死刑の執行は、法務大臣の命令による。
2 前項の命令は、判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない。但し、(以下略)。
つまり死刑の執行は法務大臣の命令により行うもので、その命令に従って刑務官が刑務所内で執行します。
鳩山法相は、「執行命令書にサインして死刑を執行した」と答えるべきで、「執行させて頂く」ような性格の問題ではありません。
また、鳩山法相の発言の「法に基づいて粛々と実行しなければいけないということで、逃げることのできない責務と思って執行」ウンヌンという表現は、実際に死刑を執行する現場の刑務官が言われるなら分かりますが、法相の発言としては不適切でしょう。
鳩山氏の発言は、自らの真情を吐露するというよりは、単なる言い訳、責任回避としか聞こえません。
裁判によって確定した刑を執行するのは、行政の責任です。法務大臣はその最高責任者として、法に従って執行を命ずるだけのことです。もし、どうしてもイヤというなら、はなから法務大臣などに就任しなければ良い。それだけの話です。
鳩山法相の就任以来の発言は、自らは手を汚したくないという意図が感じられます。
やはりお坊ちゃまですかね。
死刑制度を存続させるか廃止するか、処刑方法として絞首刑が適正かどうかという議論は確かにあり、それはそれとして審議し、必要なら法律を改正すれば良い。
その事と、現在の法律に基き刑を執行するという事は全く別の問題です。
死刑の廃止を主張するあまり、法に基く刑の執行そのものを非難するがごとき言動は、厳に慎まなくてはなりません。
もし抗議するのであれば、死刑を確定した司法の判断に対して行うのが筋でしょう。
今回法務省は死刑の執行にあたり氏名を公表しましたが、これは評価できます。
むしろ秘密にしてきた従来のやり方がおかしいのであって、死刑制度に賛成するにせよ反対するにせよ、いずれにしろ情報公開が先決です。
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