思い出の落語家(番外編) 立川談志
落語名演ガイド集というCDシリーズの「立川談志」の経歴欄に次のような記述があったので、少々気になった。
「(前略)40年10月に三一書房から『現代落語論』を出す。この中で、今まで落語通と言われる人の評価が低かった五代目古今亭志ん生の芸を高く評価する。これが後の志ん生ブームのきっかけとなる(後略)」
その当時を知らない人がこれを読むと、そのまま信じるといけないので敢えて申し上げるが、これは事実と反する。私が寄席に行き始めたのは昭和20年代の後半だが、その当時から八代目桂文楽と志ん生は別格であった。40年代以後に評価が変わったというのはあり得ない。
第一、一人の落語家が書いた本で評価をひっくり返すほど、落語ファンはヤワではない。
こうした提灯持ちの取り巻きがいるから、談志が増長するのであろう。
かつて安藤鶴夫という高名な評論家(直木賞作家でもある)がいて、芸術祭賞の審査員をやっていた関係から、落語界の中で権威者としてまかり通っていた時期がある。この人が極端な文楽びいきであった半面、志ん生に対しては辛らつであった。しかしこれは安藤の個人的な好みの問題であり、彼の意見だけで世評が左右されていたわけではない。
安藤は明るく華やかな芸風の落語家を嫌う傾向があり、談志もその標的にされていた。談志が志ん生を高く評価し、その一方で文楽に対して点数が辛いのは、安藤鶴夫の権威に対するアテツケもあるのではなかろうか。
立川談志の文楽評に、次のようなことが書かれている。
「79年の生涯、63年の芸人生活の中で『創り上げた』と本人のいう自信作はたったの30席。その自信作の中に『玉』ならず『石』もあり、『玉』の作品に比べ『石』の酷さ、その落差をどう説明すればいいのか・・・」
この批評は、一面確かに当たっている。というよりは、名人上手と言われている全ての噺家に当てはまる一般論だと言えよう。なかには「玉」無しの「石」ばかりの噺家もいるが。
持ちネタ全てが得意ネタで傑作などという噺家は皆無だ。誰だって得手不得手があり、本人は自信をもって高座にかけているのだが、聴き手から見るとイマイチという事だってある。
名演の多い六代目三遊亭圓生でさえ、箸にも棒にもかからない演目がある。
先の文楽評は、談志自身に対しても言えることだろう。
談志の文楽評の引用を続ける。
「だから家元、『談志は、桂文楽のネタの中で何が好き?』と聞かれりゃ、迷わず、『よかちょろ』と『酢豆腐』、そして『王子の幇間』と答えるし、それが理解る人を『噺の判る人』といい・・・」
こういう所が、私は談志がキライだ。
文楽のネタで好きなものはと問われたら、落語通と言われる人でも答は千差万別。評価の基準が異なるし、だいいち好みが一人一人違うのだから当然だ。
先の談志の言い方からすれば、談志の主張と同じくする者だけが「噺の判る人」ということになる。
大衆芸能の世界に、最高裁判所を持ってくるようなもので、時代錯誤もいい所だ。昔のソ連じゃあるまいし。
弟子の「人格は最低だが芸は最高」という評を待つまでもなく、立川談志が現在の落語界を代表する一人であることは多くの落語ファンが認めるところだろう。門下の弟子たちにも優秀な人材が揃っており、指導者としての腕も確かなのだろう。
ただ談志は噺家なのだから、自己の落語理論、メッセージを高座の芸を通して観客に示したらどうだろうか。
桂文楽が裸足で逃げ出すほどの芸を見せれば、それだけで談志の主張は人々の納得が得られると思う。
現役で活躍している人を「思い出」とするのは失礼なので、これは番外編ということで。
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えー、世の中には電車に乗ると優待席なるものがあります。
ですが、この優待席。
年寄りや妊婦が座るかと思いきや、違うんですね。
ほとんどが若くて活きのいい奴がふんぞり返って座っていやがる。
気の弱い私なんぞはそれを尻目に普通の席の前に立っております。
するってーと、年老いたご老人が、杖を突いている私に席を譲ろうとするんでさぁ。
おいおい。
こりゃ筋がとおらねーけど、俺も疲れてらぁな。
よー。
優待席で踏ん反りかえったり股おっぴろげて潰しのきかねぇー面にドウランを塗りたくってる小娘。
貴様らにこういう粋な真似ができるか!
って思いながら私は座っちまったよ。
そんな私の杖に躓いた若造。
お前さんも杖を持つことだな。
なんたって、転ばぬ先の杖っていうぐれーだ。
何?
躓いたのは俺の杖が本物かどうか確かめるためだと・・・
立川談志師匠。
このお方は多摩川線は鵜の木の東京高校中退だそうで、実家もその近くにあるそうです。
彼が杖を突いて電車に乗っているところを何回か見かけたことがあります。
home-9さんの記事を読み、談誌師匠をイメージして枕にして見ましたが、落ちが決められませんでした(x_x;)シュン
投稿: dorunkon | 2007/12/24 21:16
dorunkon様
コメント有難うございます。
それでは僭越ながら続きをこの・・・。
「なんでぇ、それじゃあオチがねえじゃねえか。」
「いいんだよ、オチがなくったって。躓いたのは男じゃないんだから。」
「どうして?」
「女の子で、オチンない。」
ご退屈さまでした。
投稿: home-9 | 2007/12/25 09:14