こまつ座公演「人間合格」
2月17日、紀伊国屋サザンシアターのこまつ座84回公演「人間合格」を観劇。
前日の「恋はコメディー」とは打って変わった芝居、客層も全く異なる。ボクの場合は何でもOK。良く言えばキャパが大きい、悪く言えば無節操。でもそれぞれ面白いんだから、いいジャン。
というわけで「人間合格」、タイトルが示すように作家・太宰治をモチーフした芝居です。作はもちろん井上ひさし、演出はこまつ座の芝居演出などで数々の賞を獲得している鵜山仁です。この芝居は1989年初演以来、今回が5回目の公演です。
出演は、岡本健一(津島修治=太宰治)、山西惇(佐藤浩蔵)、甲本雅裕(山田定一)、馬渕英俚可(チェリー旗ほか7役)、田根楽子(青木ふみほか7役)、辻萬長(中北芳吉)の6名。相変わらずこまつ座の女優陣は、一人で何役も演じねばならないので、大変ですね。今回のキャストの目玉は、主役に元「男闘呼組」のオカケンこと岡本健一を起用したことでしょう。むろん初役です。
太宰治が生きた時代と言うのは、激動の時代でした。彼が生まれた年に伊藤博文が暗殺されていますし、翌年には大逆事件が起きています。
少年期はちょうど大正デモクラシーの時期になりますが、大学に入って作家となる時期に、日本は日中戦争から太平洋戦争に突入する軍国主義の時代になります。
そして敗戦、何かも価値観が変わっていく中で、戦後間もない1948年に自殺によって39歳の短い人生を閉じます。
太宰治が青年期に、戦前の左翼運動に共鳴、というよりは共産党のシンパであったことは良く知られています。
「人間合格」はその時期から後半生の太宰の姿を、生涯の親友として佐藤、山田という二人に友人(架空の人物と思われる)との人生と重ねて描いています。
そして戦前は「天皇陛下万歳」一色だったのが、敗戦と共にいとも簡単に「マッカーサー元帥万歳」に変わって行った当時の日本人の心象を、太宰の保護者役である中北芳吉に代表させています。
太宰は当時のそうした風潮がガマンならず、戦後その著作の中で「今こそ天皇陛下萬歳を叫べ」という表現で怒りをぶつけています。
井上ひさしの作品は、太宰が自殺を繰り返す破滅型人生から死に至る軌跡を、左翼運動へのシンパシー、挫折、戦後の大きな時代変化と親友の死にその原因を求めています。
それが事実であるかどうかというより、井上の筆は太宰という人物の名を借りて、戦前戦後を自らの信条を貫き誠実に生き抜いた青年群像を描きたかったのでしょう。
こう書くと重いテーマを想像するでしょうが、実際は喜劇といえる作品です。
登場人物が類型的なキライはありますが、分かり易く、肩肘張らずに楽しめる商業演劇として、良く出来ていると感じました。
出演者では、主役の岡本健一が良い。本人が「何もせず立っているだけで太宰に見えたら最高」と言ってますが、正にその通り、太宰治のイメージにピッタリでした。抑制された演技でしたが、7幕目で怒りを爆発させるシーンは、ジーンときました。
脇では辻萬長の俗物ぶりが秀逸。ちょっと九州訛りの入っている津軽弁がご愛嬌です。
女優では、馬渕英俚可の熱演が光っていました。
山西惇、甲本雅裕、田根楽子の3名は決して演技が悪いわけ無いのですが、要は役が「らしく見えない」所から、不満が残りました。
3月中旬まで東京公演。
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こないだは遅くまで有難うございました。
小生、甲本雅裕という俳優が好きなんですが、あまりぱっとしませんでしたか・・・
テレビではいろんな役を演じて結構味のある役者だと思うんですが・・・
配役上しかたないところもあるんでしょうね。。。
投稿: dorunkon | 2008/02/18 20:07
dorunkon様
コメント有難うございます。
今回の「人間合格」という芝居、みな芸達者が揃っていました。
甲本雅裕さんの演技も悪く無かった。ただ彼の今回の役所は、人気俳優です。しかし人気俳優としてのオーラが無い。あんな色気が無い役者に、人気の出る筈がない。
この芝居はフィクションではありますが、太宰治は実在の人物です。だから出演者には演技力と同時にリアリティが求められると思います。
私の見立てでは、甲本雅裕さんはミスキャストではないかと思いました。
投稿: home-9 | 2008/02/18 21:24