立川談春「与話情浮名横櫛」他
2月2日横浜にぎわい座は「立川談春独演会」、毎回前売りで完売になるドル箱である。人気の秘密は兄弟子志の輔と同様、顧客満足度が高いためだろう。独演会と称しながらゲストが多く、ガッカリさせられるケースが少ないなか、談春のそれは約2時間たっぷりと演じてくれるのも、大きな魅力だ。
1席目は「与話情浮名横櫛」(よわなさけうきなのよこぐし)の内、発端の「伊豆屋」。
長いタイトルだが、「切られ与三郎」「お富与三郎」と言った方が通りが良い。
お馴染のない方に、談春のマクラを借りて、少々作品解説をしてみよう。
江戸後期に初代三笑亭可楽弟子で菅良助という落語家がいた。しかし生来の話ベタで人気が得られず、乾坤坊良斎(けんこんぽうりようさい)と改名し講釈師に転じた。
この人が書いた(他説あり)いくつかの講釈の中に「与話情浮名横櫛」がある。その後歌舞伎に仕立てられ、当たり狂言としてしばしば演じられているのはご存知の通り。
春日八郎が歌って大ヒットした「お富さん」もルーツはこれだ。
近年では講談でも演じられることが少なくなり、落語界では十代目金原亭馬生が高座にかけ、「木更津」「稲荷堀」「島抜け」「与三郎の死」の四部作として演じた。
馬生の録音は聴いていないが、歌舞伎の全9幕のストーリーとは随分と異なるようだ。「しがねえ恋の情が仇・・・」の名セリフも、落語の方では無いらしい。
最近では同門の立川志らくが、独演会でこのネタをかけているが、この時は全編を40分で演じたとか。ダイジェスト版という所だろうか。
談春はこのネタを自分なりに練り上げて、今年1年を目処に通しで演じようということらしい。
当日が第1回目として、発端部分である「伊豆屋」。
江戸の大店「伊豆屋」の跡取り与三郎は、役者にしたいほどの色男だが、趣味は読書一辺倒の堅物。思案に余った両親が奉公人に協力を得て、同業者の会合に出席させる。
この辺りは、ちょっと「明烏」を思わせる筋の運びだ。
思惑通り、宴席の後はお定まりの吉原へ行く所までは良かったのだが、和泉屋の若旦那と舟遊びをしている内に間違いを起こしてしまう。それが元で江戸にいられなくなり、木更津の親類の家にしばらく預けられることになる。
ここまでが発端で、談春は40分かけた。
初演とは思えない程、談春の高座は完成度が高い。登場人物の性格描写が的確であり、特に悪人を演じさせると光彩を放つ。談春の「地」か。
この分なら1年間、観客を惹きつけていけるだろう。
談春のような人気の高い若手・中堅落語家が、埋もれた作品を掘り起こし、積極的に高座にかけるのは大いに評価できる。
2席目は「蒟蒻(こんにゃく)問答」
仲入り後はガラリと変わって、お馴染の明るいネタ。
コンニャク屋の六兵衛親分、道楽者の八五郎、寺男の権助、いずれも談春の得意とするキャラで、気持ち良さそうに演じていた。
ギャクでは、権助が唄う「墓掘り」が秀逸。
最近の談春は風格が感じられる。
満足のいく独演会であった。
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にぎわい座の近くに中華一番家っていう安くてボリュームのある店があるんですが、今もあるんでしょうかね・・・
ここのタンメンが好きです。
寄席とは無縁で申し訳ありません。
食い辛坊なもので・・・
投稿: dorunkon | 2008/02/03 18:12
dorunkon様
コメント有難うございます。
にぎわい座は通常夜7時開演で、跳ねるのが9時半ごろになりますので、それから食事に行くチャンスがありません。
若いお姐チャンの連れでもあれば事情が変るのでしょうが、残念なことにいつも一人なもので。
投稿: home-9 | 2008/02/03 18:31