三浦和義の掌で「世間は踊る」
「ロス疑惑」が、TVというメディアが生んだ最高の劇場型犯罪事件であるとすれば、その主役であった三浦和義はTVが生んだ最高の犯罪型スターといえる。
事件の被害者、加害者、共犯者に美男美女が揃い、舞台となったのはアメリカのロサンゼルス(L.A.)、殴打事件から銃撃事件あり、謎の全裸死体あり、そしてロサンゼルス検察の捜査官の登場があり、なにやら正体不明の人物の怪しげな証言あり。下手な推理ドラマや映画より、ずっと面白い。
主役の三浦和義は、最初は妻を殺され自らも負傷した被害者として同情を集め、次第にそれが疑惑に転化し、やがて彼こそが真犯人だという扱いに変わっていった。サスペンスの常道である。
一人一人の視聴者が日々推理を働かせ、次の日の新たな証拠や情報を待ち望んでいた。
1980年代にメディアを席捲したこの事件、当時被害者への同情などそっちのけで、皆が楽しんだというのが本音だろう。
いわゆる「ロス疑惑」だが、3つの事件から成り立っていて、ここで一度整理してみたい。
主人公である三浦和義は実業家として輸入雑貨店「フルハムロード」、「フルハムロード・ヨシエ」などを経営しており、旅行などで度々ロサンゼルスを訪問していたようだ。
事件① 1981年8月31日に、三浦和義とその妻の一美がロサンゼルスを旅行中、一美が宿泊していたホテルで頭部を鈍器で殴打され、軽傷を負った。
この事件で三浦和義は殺人未遂で共犯者の矢沢美智子と共に逮捕され、三浦は1998年に懲役6年(矢沢は2年6ヶ月)の刑が確定し、服役している。
事件② ①の事件の3ヵ月後の同年11月18日、三浦夫妻はロサンゼルス市内の駐車場で車に乗った2人組の男に銃撃され、一美は頭を撃たれて意識不明の重体。夫の三浦も足を撃たれ軽傷を負った。一美は日本へ移送され治療を受けたが、翌年の11月30日に死亡した。この後三浦は、1億5500万円の保険金を受け取った。
この事件で三浦和義は殺人罪で逮捕され、1994年東京地裁で無期懲役の判決が出されたが、1998年の控訴審で逆転無罪となり、2003年に最高裁で無罪が確定している。
事件③ 三浦が経営していた「フルハムロード」の役員だった白石千鶴子が1979年3月に出国したまま行方不明となり、5月4日ロサンゼルス郊外で全裸死体で発見された。たまたま同じ時期に、三浦和義もロサンゼルスに滞在していたことが分かっている。
その後三浦は、白石千鶴子の預金口座からおよそ420万円余りを引き出したとされるが、三浦はこれは貸した金を返して貰ったものと主張している。他人の口座から勝手に預金を引き出したことが、なぜ立件されなかったのか、こちらの方が不思議だ。
この事件は、未解決のままである。
今回の三浦和義のサイパンでの逮捕について、「無罪」だった人物がなぜ逮捕という報道があるが、無罪だったのは事件②であって、その直前に起きた妻への殺人未遂は有罪が確定している。してみると、余り無罪無罪と世間に胸をはって言い張るのは、いかがなものだろうか。
そうした三浦の態度が、日米捜査員の心証を悪くしたことは否定できないと思われる。
1980年代において、三浦和義は最大のスターだった。TVへの露出時間でいえば、後にも先にも、この人を超える例は無いだろう。
マスコミが面白がってとりあげた側面はあるが、本人も積極的に取材に応じ、芸能プロダクションに所属するようになった(現在も所属)。TV出演によりギャラを得るという、いつの間にか芸能人の一員となっていた。自らの体験を本にして、作家を名乗るようにもなった。
かくして犯罪事件を機に、稀有な大スターが誕生したわけだ。
一度有名になった芸能人にとって、世間から忘れ去られるほど辛いことはない。それが芳しくない言動であっても、メディアでとりあげられ報道されることが大事になる。
2000年代に入ってからの一見意味の無い万引き事件も、そうした視点から見れば納得できる。
かつての弁護人らが、米国では未だ捜査が続いているという忠告をしていたにも拘らず、渡米を繰り返していたのも、捕まえられるものなら捕まえてみろという気持ちの反映ではあるまいか。
その願いがかなってサイパンで逮捕されたとすれば、本望ではないだろうか。サイパンがアメリカとは知らなかったという三浦の主張は、ご愛嬌である。
20数年の時を経て、今やこの事件は被害者家族と捜査関係者にしか係わり合いのない事件だが、メディアから注目を浴びるのは必至である。
世間は再び、三浦和義により踊らされることになる。
(敬称略)
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