(WAZAOGIろっく・おん)市馬・扇辰
2月23日はお江戸日本橋亭での「WAZAOGIろっく・おん」へ。第一回は柳亭市馬・入船亭扇辰の二人が登場。「ろっく・おん」とは録音、つまり公開レコーディングを指す。実力者二人の会とあって前売り完売。この日夕方から風が強まり、千葉方面への電車が遅れた影響で、30分余裕を見て家を出たにもかかわらず、開演時間ギリギリの到着となってしまった。台風でもあるまいし、JRはヤワにできている。
前座は柳亭市朗で「やかん」
このネタは前座噺ということになっているが、中に講談が入っているため、前座でもやり手が少ない。市朗は随所に独自のクスグリを入れて、面白く聴かせた。芸もしっかりしている。講釈の部分が上達すれば、得意ネタになるだろう。
入船亭扇辰の1席目は「鮑のし」
落語には、しっかり女房とうっかり亭主の組み合わせが多いが、このネタもその典型。
実はこの噺、良く考えると辻褄が合わない所がある。大家へのお祝いがマトモに言えないのに、「海女が海に入って鮑の貝を採ってきて釜に入れ、むしむしと蒸して薄刃の包丁で薄く裂くんだ。それを筵に並べ、その上からまた筵を敷いて、後家でいかず、寡男でいかず、仲の良い夫婦が一生懸命こしらえ上げて熨斗になるんでぇ。その目出てぇ熨斗の根本を、なんで受け取らねぇ。」と啖呵を切る時はスラスラ言う。扇辰はそこが気になったのだろうか、大家に「はっきり言えるじゃねえか」と指摘させている。扇辰の丁寧さが出ている。
扇辰の描く亭主は、行く先々で叱られオロオロする姿に哀愁があって、とても良い出来だった。
柳亭市馬の1席目は「提灯屋」
師匠の五代目柳家小さんが得意としていたネタだ。
広告宣伝のメインがチンドン屋だった時代で、字が読めない人がいた頃の噺とあって今とはズレがあり、一歩間違うとサッパリ面白くなくなるネタでもある。
提灯屋の主人が次第に怒っていくさまが可笑しく、こういう噺で客を満足させるのは、市馬の芸の確かさを示している。
仲入り後。
市馬の2席目は「あくび指南」
マクラで、落語家の稽古のことが紹介され、教えを乞うた師匠たちのエピソードが披露された。
このネタの眼目は、あくびの師匠が手本を見せる時に、夏の昼下がりの船上での気だるさが出せるかどうかである。ここが上手く表現できないと、噺に締まりがなくなる。現役では、当代の金原亭馬生が上手い。
市馬の師匠が言うセリフはやや急ぎ過ぎで、もう少しユッタリとして欲しい。
扇辰の2席目は「鰍沢」
マクラで出身が新潟で、雪については嫌な思い出ばかりだと言っていた。
吹雪の光景から本題へ。新助が吹雪に凍える姿や、あばら家に入って囲炉裏にあたるシーンはとてもリアルで、落語というより一人芝居を観ているような感じだった。
この噺も以前から疑問の点があった。痺れ薬を入れた玉子酒を新助と伝三郎の二人が飲むのに、伝三郎は死に、新助は助かるのが何故かなと思っていた。
扇辰の演出は、新助が少しだけ飲み、後で戻ってきた伝三郎が残りを飲むとき、下に沈んでいた玉子を全てすすってみせた。成る程、これなら下に沈んでいたであろう痺れ薬の大半は伝三郎の口に入ることになり、効き目が全く違ったのだと納得した。
ことほどさように扇辰の演出はとても丁寧で、噺に引き込まれた。
ただこのネタの最も大事なところは、「月の輪お熊」に色っぽさと凄味が出せるかどうかである。三遊亭圓生が極め付けであるが、圓生以外誰もこの描写に成功していない。扇辰も残念ながらこの部分には不満が残った。
しかし熱演であった。聴いていて、久々に身体が緊張した。
中味の濃い落語会で、十分満足した。
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