五木ひろし「日本歌謡史100年―昭和編―」in国立劇場
昨年「石川さゆり音楽会」で半世紀ぶりに歌謡曲(演歌が嫌いなので)歌手のコンサートに行った時、次は五木ひろしのコンサートと決めていた。
五木ひろしは、声量、歌唱力ともに現役歌手の中で傑出しており、歌詞を大事にし、ポップス調の歌もこなせるという特長を持っている。同時に「五木節」ともいうべき、独特の歌の世界を持っている稀有な歌手でもある。
彼は今年還暦を迎えたので、そろそろ声が落ちる前にライブを観ておきたかったというのが最大の理由だ。
昨年に引き続く「日本歌謡史100年」をテーマにした国立劇場での公演だが、今年は昭和編ということで、二部構成になっていた。
第一部「昭和の名曲を歌う」
第二部「伝統・古典とのコラボレーション」
対象となった昭和30-40年というのは、歌謡曲の黄金時代であった。
経済の高度成長期、沢山の若者が職を求めて都会に移動した時代だった。馴れない都会の生活と故郷への思い、ふるさとに残してきた両親や兄弟・恋人への思い、その一方ふるさとの家族・友人らの本人への思い、そうした心情は当時の日本人に共通していた。あの時代の歌謡曲は、そうした感情を共有した者同士の中で培われ、共鳴しえたのだと思う。
故郷を離れる時は、夜汽車の汽笛、駅のホームや波止場での別れがあった。これが歌謡曲の主な舞台となっていた。
その時代に名曲が数多く生まれたが、オリジナルの歌手の多くは第一線を退き、あるいは物故していて、今の人々はナマの歌を聴く事ができない。それを現役歌手が再現しようとするなら、ざっと歌謡界を見渡しても、五木ひろししかいない。つまり余人をもって代え難いのだ。
第一部は第一回レコード大賞を受賞した「黒い花びら」で幕を開け、「ふるさと」をテーマにした叙情歌謡、股旅もの、「夜空」をテーマにした作品など、五木の持ち歌を含めて様々なジャンルの歌を次々と歌い続けた。
「G.S.」をテーマにした時は、エレキギターの弾き語りを披露するなどサービス満点。
オリジナル歌手も水原弘、フランク永井、坂本久、三橋美智也、春日八郎、東海林太郎、三波春夫、村田英雄、ザ・タイガース、青木光一、田端義夫らで、当時の主な流行歌の歌手を総ナメにした感がある。
特に印象に残った作品として、「おさげと花と地蔵さんと」「一本刀土俵入り」(共に三橋美智也)、「柿の木坂の家」(青木光一)の歌唱が優れていた。
第二部ではオーケストラをバックに五木ひろしの持ち歌を中心に、美空ひばり、石原裕次郎、加山雄三、藤山一郎らのヒット曲を披露した。
ここでは邦楽、日舞などとのコラボレーションが行われ、華を添えていた。
フォークソングのコーナーで歌った、「心もよう」(井上陽水)の歌唱が特に優れていた。
自身のヒット曲は、一、二部を通して「よこはま・たそがれ」「ふるさと」「千曲川」「契り」「細雪」「長良川艶歌」「夜空」「山河」などが歌われ、CDやTVではお馴染の曲だが、はやりナマで聴くと素晴らしい。
今回のコンサートの良さは、五木ひろしの歌唱に尽きる。数えたわけではないが、恐らく40曲を超える歌を歌い続けたと思われるが、音を外さないのは流石である。強いてミスをあげれば、美空ひばりの「哀愁波止場」のワンコーラス目の中ほどで、間のとり方が少しずれた程度であった。
これは立派としか言い様がない。
しかも、どの曲を歌っても自分の歌の世界にしてしまう、大した技量である。
歌唱と楽器の音のバランスが良く、舞台の場面転換もスムーズであり、何より全体として舞台に高級感があった。
今回の公演は、日本人歌手のコンサートとしては、極めて質が高いものだったと思われる。
入場料が高くても、この内容であれば多くの観客は納得するのではなかろうか。
3月23日昼の部にて。公演は25日まで。
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いつも読んでます。 「行きたい」と思わせる文章に思わずコメントしてしまいました。プロフェッショナルなんですね。
私は、小学生の時から前川清が好きなんですが「ポップスの歌手とは違う良さがあるな、演歌系統のひとは」と思います。
投稿: ico | 2008/03/24 20:23
ico様
コメント有難うございます。こういうコメントを頂くと、正にブロガー冥利につきます。
私は五木ひろしファンではないし、演歌も好きではありません。そういう人間でも感動させられる、それは歌手の力だと思います。
上手い歌手は何を歌っても上手いということを、改めて実感しました。
投稿: home-9(ほめく) | 2008/03/24 22:27
はじめまして、
私も。国立劇場へ行ってきました。
素晴らしい舞台でした。
感動しました。
五木ひろしさんの歌と同じらい
ほめくさんのレポートにも感動しました。
投稿: kazumi | 2008/03/28 17:13
kazumi様
コメント有難うございます。
歌というものが、これ程人間を感動させるものかということを実感したステージでした。
演歌が好きでもない、五木ひろしのファンでもない。そういう人間を感動させてこそ、真のエンターテナーと言えるでしょう。
とにかく良い舞台でした。
投稿: home-9(ほめく) | 2008/03/28 20:43