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2008/03/19

思い出の落語家9「落語ブームの立役者」三代目三遊亭金馬

Kinba戦後の落語ブームは、昭和26年の民間放送(ラジオ)開局がきっかけとなる。ちょうど戦後の混乱も収まり、人々が笑いを求めていた時期とも重なって、毎日のようにラジオ各局から寄席番組が放送されるようになった。当時どこの家庭でも茶の間に1台だけラジオがおかれ、家族全員が同じものを聴いていたわけだから、親が落語を聴けば子どもも一緒になって聴いていた。小学校でも前の日の寄席番組が話題となり、オマセな子になれば、同級生の前で一席うかがうこともあった。金馬の口調を真似て、「孝行糖、孝行糖、孝行糖の本来は・・・」などとやっていた。全国の大学にオチ研が次々誕生したのも、この時期だ。

今でこそ昭和の名人といえば、文楽、志ん生、圓生となっているが、当時で最も人気があったのは三代目三遊亭金馬である。落語ブームの最盛期とされる昭和34年に、金馬はラジオに113回、TVにも68回出演している。つまり2日に1回は金馬の落語が放送されていた勘定になる。フリーだった事を割り引いても、いかに金馬の人気が高かったを物語っている。
当時の落語ファンの大半は、金馬ファンだったと言っても過言ではない。小柄だが顔が大きく、ハゲ頭に乱杭歯がトレードマークだった。
昭和29年には電車にはねられ、片足を失ったが、それでも元気に高座をつとめていた。
三代目三遊亭金馬の名が全国に知れ渡ったのは、昭和4年に発売した「居酒屋」のレコードが大当たりになってからだ。昭和39年に死去したが直前まで高座に上がっていたから、通算すれば35年間落語界を支えていたことになる。
それまでの落語は寄席でしか聴かれない、東京や大阪に住むファンのものだった。ラジオやTVを通して全国区になったわけで、金馬の功績は大だ。

今回この記事を書くにあたって、改めて金馬の録音を30席ほど聴いたが、やはり上手い。「間」のとり方が絶妙なのだ。
若いときは講釈師をしていたせいか、口調がとても明快だ。人物の性格描写もはっきりとしていて、とにかく聴いていて分かり易い。特に「やかん」「転失気」「金明竹」など一連の前座噺は、落語のお手本と言っても良いだろう。
噺家も真打、大看板ともなると、いわゆる前座噺を高座にかけなくなる。大家が今さらそんなネタを・・・という面もあるだろうが、本当は上手く出来ないから、難しいから手を出さないのではなかろうかと、私は推測している。
だって、文楽の「金明竹」や志ん生の「やかん」など想像もつかないし、多分下手でしょう。

ラジオ番組の出演が多かったせいか、金馬の落語は15分前後の短いネタが多い。その一方人情噺にも長けていて、「唐茄子屋政談」「佃祭」など名品も数々ある。「高野違い」「万病圓」などは、金馬の死後、後を継ぐ噺家は出てこない。
創作意欲も強く、「勉強」は金馬の新作であり、「薮入り」や「居酒屋」を現在の形に改作したのも金馬の功績だ。マクラやネタの間に差し挟む薀蓄を聞いていると、この人が実に研究熱心だったという事が分かる。
先の「居酒屋」を始め「茶の湯」「小言念仏」などは金馬の極め付けであり、この人を越す高座にお目にかかったことがない。

残念なことに、金馬は当時の落語通とよばれる人たち、特に久保田万太郎や安藤鶴夫といった権威者にウケが悪かった。理由は恐らく次の点であろう。
①確かに噺は上手いのだが、観客の心を打たない。
②ネタの途中に入れるクスグリや薀蓄が、文士たちの眼からから見ると小賢しいとうつったのでは。
③多くのネタを放送用に15分前後に仕上げたのが、権威者から邪道と見えたのでは。
三代目三遊亭金馬は、「名人」とはいえなかったが、「名手」ではあった。純文学では無く、直木賞なのだ。そういう落語家はいつの時代でも必要であり、金馬への評価が低すぎるのはなかろうか。

余談だが、釣り好きの金馬が戦前通っていた釣具屋があって、そこの娘が東京大空襲で家と家族全員を失い、戦災孤児となっていた。それを聞いた金馬はその娘を自宅に引き取り、養女にして育て上げ、落語家に嫁がせた。その娘の名は海老名香葉子、林家三平の夫人であり、当代の正蔵、いっ平の母である。
金馬は人情家でもあった。

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