アスベスト被害と自動車産業
アスベストによる中皮腫や肺がんの発生について、主に石綿を原料としていた建材企業やその周辺、家屋の解体作業に伴う石綿の飛散などが発生源として採りあげられている。兵庫県尼崎市のクボタの旧神崎工場の元従業員の妻が、夫の作業服に付着したアスベストの吸引が原因で、肺がんで死亡したと認定されたのは、記憶に新しい。これが事実なら、石綿関連工場で仕事をしていた従業員の家族全てが、アスベスト被害にあう可能性が高いということになる。
アスベストによる健康被害について、なぜかあまり注目を浴びていない産業に自動車産業がある。自動車では、つい最近までブレーキパッドやライニングに石綿を使用してきた。現に大手ブレーキメーカーの曙ブレーキ工業で、アスベスト疾患による死亡者が公表されている。
自動車のブレーキでは、耐熱性樹脂とアスベストの複合体が使われていた。ブレーキを踏むごとに、この複合体の粉塵が撒き散らされていたわけで、空気中を浮遊したアスベストを含む粉塵を、大多数の国民は日常的に吸引していたわけだ。
東京都大田区内の環境測定で、幹線道路の周辺で石綿の粉塵濃度が高いと報告されているのは、このためだ。
しかし、自動車による不特定多数の人へのアスベスト被害は、殆んど問題とされていない。
その理由として、次の点があげられている。
①ブレーキでは、アスベストの周辺を耐熱樹脂がとりまいているため、アスベストが露出しない。
②中皮腫や肺がんが発生するのは、アスベストが繊維状であるからで、ブレーキから出る粉塵は粉状なので、健康被害の発生原因とならない。
本当にそうだろうか。ブレーキをかけた時に材料にせん断力が働き、材料が破壊する。複合体では、最も弱い部分が、優先的に破壊を受けることになる。
石綿/耐熱樹脂の複合体を考えると、一番弱いのは石綿単体であり、次に石綿と樹脂の界面、最後に樹脂単体の順で、恐らくその順位で破壊が起きると想定される。
そうなると、浮遊粉塵の表面の大部分は石綿が露出しているであろうし、超微粉であれば容易に人間の肺に吸い込まれる。
繊維状だから有害、粉状なら無害というのは、なぜアスベストが中皮腫や肺がんを引き起すのか、決定的なメカニズムの解明がなされていない以上、根拠が無い。
してみると、自動車産業が外されているのは、政治的発言力が強いからではなかろうか。
もう一つ、大きな問題がある。
アスベストが使われ始めたのは1879年である。しかしアスベストの健康被害がこれほどまでに明らかになったのは、およそ100年経ってからだ。
現在、石綿に替わる材料が開発され実用化されているが、これらの代替品が健康被害を引き起さないという何の保証もない。
石綿と同じ性能を持つ材料であるからには、同じような被害を及ぼす危険性は常にあるわけで、今後この点についても注視しなければならない。
« 「入学式に出席できず」は親の責任 | トップページ | 「児童ポルノ改正案」には反対だ »
「環境」カテゴリの記事
- アスベストに罪はない(2023.01.16)
- 原発は廃止できるか(2023.01.14)
- 「SDGsの大嘘」読後感(2022.09.04)
- 再生エネルギーに立地条件の壁(2022.08.08)
- 紙コップは「紙」ではない(2022.02.14)
コメント