特選落語会「あの人のあの噺」
5月31日よみうりホールで、《夢空間》特選落語会其の一「あの人の、あの噺が聞きたい」という長いタイトルの落語会があった。要は旬な噺家4人それぞれに最も得意とするネタを披露して貰うという企画である。
開幕直後に正蔵と三三の二人が揃って出てきて、会の趣旨説明みたいなものをしていたが、時間稼ぎだったのだろうか。あまり意味があったとは思えない。
柳家三三「五貫裁き」
近ごろの三三は、このメンバーの中に入っても引けをとらない。貫禄のようなものが付いてきた。
ネタは大岡裁きの中の一つ、本来は講談ネタで落語では「一文惜しみ」の題が使われてきたが、最近は講談と同じ「五貫裁き」のタイトルが使われている。
主な登場人物は店子・初五郎、家主・太郎兵衛、因業な質屋・徳力屋万右衛門とその番頭だが、この噺の実質的な主役は大家だが、三三の人物描写がやや甘く、その分薄味に仕上がったようだ。やはり志の輔や談春のものが断然面白かった。
林家正蔵「子別れ(下・子は鎹)」
複数の噺家が出る落語会では、得てして正蔵は手抜きして軽い噺にする傾向があるが、今回は違った。子別れの下をたっぷりと演じたが、とても良い出来だったと思う。
この噺は母と子、別れた父と子、それに夫婦愛が絡む実に良く出来た人情話だが、それだけにそれぞれの人物の性格描写をしっかりやらないと聴いている方がダレる。
正蔵は大工の熊五郎、息子の亀吉の人物描写が優れていて聞かせてくれた。
本ブログで、初めて当代の正蔵を誉めることとなった。
―仲入り―
柳亭市馬「片棒」
市馬の十八番(オハコ)である。片棒という噺は親父が死んだ時どういう葬式をあげるかを、三人の息子それぞれがアイディアを出すという、落語としては風変わりなネタである。聞かせ所は、上の二人の息子のアイディアをどう面白く見せるかであり、ここが演者の工夫のしどころとなる。
このネタは九代目桂文治が得意としていて、文治の演出は次男の時に囃子や山車を出してお祭り騒ぎにするという趣向にしていたが(これは想像だが、八代目桂文治が「祇園祭」を得意としていた影響ではないかと思う)、市馬もこの演出を踏襲している。ただ得意の喉を披露するために、「木遣り」や「お祭りマンボ」を挟むなどして、サービスたっぷりに仕上げている。
こういう演目をやらせたら、市馬の独壇場である。
柳家喜多八「鰻の幇間(たいこ)」
落語には幇間(たいこもち)の悲哀を描いた作品が多いが、その中でも代表的作品である。
眼目は、ようやく上客をつかめたと思った幇間の安堵と、食い逃げされたと分かった後の悲哀の落差である。後悔と落胆がないまぜになり、オレはやっぱり芸人に向かないんだと自己嫌悪に陥る一八の姿。鰻屋の女中のあれこれ文句を言うが、それも自分自身への愚痴なのだ。
喜多八の演出は、そうした幇間の哀しみにやや欠けていて、不満の残る高座だった。
全体としては四者四様それぞれも持ち味を出して、充実の会となった。
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