志の輔らくご「ひとり大劇場」@国立劇場
立川志の輔が国立劇場で独演会、3回公演の最初の会へ8月15日に出向く。永田町の駅から劇場に向かうと、地図を確かめる人や最高裁の守衛に道を尋ねる人。果ては間違えて国立演芸場に入って行く人まで。普段あまり寄席に来た事のない人が多いのか、それも志の輔の人気のお陰だ。マスメディアへの露出で、今や談志を知らなくても、志の輔を知らない人は先ずいないだろう。
志の輔の特に古典落語は、決して初心者向きとは言いがたい。古典の本筋を辿りながら、独自の解釈を加えての高座となるため、オリジナルを知っていないと、本当の面白さが理解し難いこともある。この辺り、分かり易さとどう両立させていくか、演者の腕の見せ所だ。
タイトルに偽り無しで、前座もゲストもなく、志の輔一人だけの番組となった。やっぱり独演会は、こうじゃなくっちゃ。
1席目「生まれ変わり」
自作と思ったら、桂三枝の作だったようだ。それほど良くこなれていた。志の輔は古典と新作の二足の草鞋で通しているが、両方成功している数少ない一人だ。
2席目「三方一両損」
大岡政談ものだが、落語とはいえ不自然な点が以前から気になっていた。
①二人の係争に、奉行が金を出して解決するのは不自然。
②白州での裁きが終わってから、紛争当事者の二人に食事を振る舞うシーンはいかにも変だ。これは「大岡(多くは)食わねぇ」「たった越前(一膳)」のサゲのために無理矢理入れ込んだのだろう。
志の輔の演出は、このネタの矛盾点を衝きながら、独自のオチを加えた。これを新鮮な解釈と見るか蛇足とみるかは、受け取る側の問題だ。
〜仲入り〜
3席目「中村仲蔵」
国立劇場は普段歌舞伎を上演している小屋であり、ネタの選定としてはドンピシャである。歌舞伎を知らない客に花道を教えるのだって、場内に実物があるのだから分かり易い。1時間をユウに超える熱演であったが、先ず苦言から。
①この話、夫婦愛と師弟愛がテーマの一つだが、仲蔵の師匠(団十郎は師匠ではない)である中村伝九郎の陰が薄かったし、肝心の師弟愛が描かれていない。
②成功した仲蔵に、役者仲間が金を出し合って届ける場面は不要だ。観衆が感動し座頭の団十郎が評価してくれれば十分だ。
では、良かった点は次の通り。
①他の演者では省略されている親方・市川団十郎が仲蔵を評価し取り立てていく過程が丁寧に描かれていて、説得力があった。
②中村仲蔵とその女房との夫婦愛、特に新たな役作りに挑戦する仲蔵を励ますシーンは、ジーンときた。
③仲蔵が役作りに思い悩む場面での「間」のとり方が絶妙。
全体としては好演で、観客席全体が噺に引き込まれているのが良く分かった。
先代の正蔵や圓楽とは違う、志の輔の「中村仲蔵」を見せてくれた。
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