鈴本夏まつり「吉例夏夜噺」
お盆には毎年ここ鈴本演芸場の中席夜の部に来るのを恒例としている。「鈴本夏まつり」は、権太楼とさん喬の二枚看板が交互にトリを取るのも恒例。今年は8月14日に出向く。
今の寄席、特に落語協会については権太楼とさん喬が屋台骨を支えている。鈴本でこの二人が顔を見せない日は少ないだろうし、大看板になっても浅い所でも出演する。以前国立演芸場で、さん喬が開口一番に登場したのには驚いた。
落語芸術協会には、この二人に匹敵する芸人がいないところが辛い。
切符売り場の前で、フリーで来た客と案内係が押し問答。「全て前売りなので、ここでは売っていません。」「前売りなら買えるのか。」「はい。」「そんなら前売りで買うよ。」「でも、前売りは売り切れています。」
何だか落語の小咄みたいだが、全数「ぴあ」に丸投げというのも、どうかとは思う。
かくして当日の客は立ち見となる。
鈴本の特別興行は前座を上げず、開演後は二ツ目から登場する。
・柳家我太楼「桃太郎」
この噺、マセた子どもの口調が大人にしか見えないと面白くない。生意気な口をききながら、子どもらしさを表現するところが勘所だが、我太楼の高座はそこがダメ。
・鏡味仙三郎社中「太神楽」
女性の芸人がジャグラーでバチを落としたのはお粗末。太神楽のような芸は、完璧に出来て当たり前。
・柳亭市馬「粗忽の釘」
底の抜けたタライでチンチン電車のギャグは圓菊流か。隣家に上がりこんで、いきなり夫婦の馴れ初めを語り出す亭主が秀逸。ダレ気味の高座を市馬が締める。
・ロケット団「漫才」
大袈裟に言えば、観るたびに少しずつ進歩していると思えるほど、このコンビは面白くなった。会話の「間」が絶妙で、喋くり漫才の基本を行っている。
・柳家甚語楼「不精床」
サゲが「耳を食べる犬」バージョンで、こちらは志ん生流か。不精で強面の床屋と、気の弱い客の対比が面白く描かれていた。
・春風亭一朝「牛ほめ」
東京の落語家だけでも真打が推定で250名くらいいると思われる。その中で生き抜いて行くのはさぞかし大変なことだろうなと、一朝の高座を観ながらふと考えてしまった。
・ダーク広和「奇術」
客を高座に上げての手品が、何を意図したのか不明。中途半端な芸に終わる。
・中トリは柳家喬太郎「ハンバーグが出来るまで」
38歳のバツイチの男ヤモメと、別れた元妻との、ちょっと切ないラブストーリー。別れて初めて相手のことに気付くこともある。それを、男が嫌いだったニンジンを意を決して食べて、「なんだよ、ニンジンって美味しいじゃないか」で表現させた。
シンミリとした男女の会話と、商店街の人たちの過剰なギャグのバランスが良かった。
~お仲入り~
・ホームラン「漫才」
2年前に協会に入ったので新人と思いきや、旧人だった。少々アクの強い芸ではあるが、なかなか面白く見せていた。
・柳家さん喬「不動坊」
さん喬と権太楼、陰と陽、静と動、緩と急、あらゆる面で対照的だが、そこが又良いのだろう。さん喬はユッタリとしたテンポで好演した。
ただこのネタは、本来が上方落語を東京に置き換えたものだが、婚姻も幽霊を追い払うのも全て金で解決というのが、どうも江戸落語に馴染まない。オリジナルの方が面白いのだ。
それにしても、さん喬は年を取らないねえ。
・林家正楽「紙切り」
・トリは柳家権太楼「鰻の幇間」
「面白うてやがて哀しき」の典型的なネタであり、その得意の絶頂から一気に絶望に至る落差が聴かせどころとなる。
権太楼の、客に逃げられてボヤク幇間(たいこ)のセリフに、独自にクスグリを織り込んでの熱演だった。会場はしばし爆笑に包まれた。
ただ幇間の元気が良すぎて、哀愁を感じる部分が薄く感じられたが、この辺りは評価が分かれるかも知れない。
好演、熱演が続き、充実の寄席であった。
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こんにちは。
この興行には12日・14日・15日の3日間通いました。中でも良かったのが14日の権太楼師の鰻の幇間。あの陽気な幇間がたまりません。またヨシオちゃんの存在が良いですね。
今まで鰻の幇間といえば円蔵師ですが、今後は権太楼師もその仲間入りですね。
投稿: 落語大好き24歳 | 2008/08/21 16:22
落語大好き24歳さま
コメント有難うございます。
「鰻の幇間」、現役では権太楼が一番面白いかも知れません。何をやらしても芸が明るいのが良いですね。
このネタ、鰻屋の御銚子と盃、床の間の掛け軸に何を出すかが楽しみの一つですが、「ヨシオちゃん」には意表をつかれました。
落語大好き60ん歳より
投稿: home-9(ほめく) | 2008/08/21 18:31