研精会OB連昔若庵「さよなら稲葉さん公演」
若手落語家の育成の場「研精会」を主宰して30年、その稲葉守治さんの生前葬の落語会が9月25日、なかのZERO小ホールで行われた。二ツ目の若手を育てるというのは実は大変なことで、30年もの間続けてこられたのには頭が下がる。現在の落語ブームもこういう方の努力が実ったものだ。
当日は現役2名、OB3名の実力派を揃えた。
・春風亭一之輔「初天神」
いま最も期待の高い二ツ目で、古典を新しい感覚で演じてくれる。独自のギャグを入れて面白く聴かせてくれた。チョットした工夫で古典が新鮮に感じられる。変に器用にならずに、大成して欲しいものだ。
・柳家三之助「片棒」
こちらは対照的に正攻法で演じる。私の好みとしては、若い内はあまり受けを狙わず、基本をしっかりと身に付けることが大事だと思っているので、こういう高座には好意的だ。
ただ三之助はトチリが多いのが気になった。多分10回以上トチッていたと思われるが、少々聞き苦しい。それとこのネタ、もう少し囃子の口真似を練習して欲しい。
・柳家喜多八「盃の殿様」
「盃の殿様」のストーリーは、吉原お花魁にすっかり入れあげた殿様が、参勤交代で国許に帰るが花魁が忘れられない。そこで俊足の足軽に命じて盃を運ばせ、国許~吉原の三千里の道を通して盃のやり取りをしようとするのだが・・・。
と、まあ実に他愛ない噺だが、途中国許(今回は九州)から江戸の吉原までの「道中づくし」が聞かせ所。喜多八の口調は歯切れ良くとはいかなかったが、言いたてをトントントンと披露して拍手を浴びていた。
~仲入り~
・柳家三三「加賀の千代」
「加賀の千代」のストーリーだが、歳の瀬になって金の算段がつかず、しっかり者の女房がうっかり者の亭主に、隠居の所へ行って金を借りてくるように命じる。その際に、加賀の千代の俳句「朝顔に釣瓶(つるべ)取られてもらい水」を亭主に教えるのだが・・・。
どうもこの加賀の千代のエピソードが唐突で、あまり良く出来たネタではない。そのためか、かつて三代目桂三木助が高座にかけていた程度で、最近では演じ手が少ない。
三三の演じる亭主のキャラが良く出来ていて、これは三木助より上ではなかろうか。軽いネタではあるが、三三の力量を示していた。
「かっぽれ」の踊りのサービスが付く。
・柳亭市馬「小言幸兵衛」
このネタは三遊亭圓生の極め付けであるため、誰が演じても圓生と比較されてしまう損な噺である。特に心中の芝居の場面が、舞台が眼に見えるように演じなければならない。それと浄瑠璃を一節唸るのだが、子どものころ義太夫語りだった圓生にはとても敵わない。
柳亭市馬の「小言幸兵衛」は圓生の演出を忠実になぞっていて、毎度楽しませてくれる。
ただこの日の市馬はやや集中力に欠け、大家が仕立て屋の息子の器量をたずねる所を飛ばしてしまった。市馬の高座としては、今ひとつだった。
生前葬を行うと長生きするそうで、稲葉さんの益々のご活躍を祈念します。
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