日本映画の秀作「おくりびと」
今年カナダで開かれたモントリオール世界映画祭でグランプリを授賞した話題の映画、「おくりびと」を観に行く。
ここ数年映画といえば年に1回くらい、それも日本映画しか観ていないのだが、その大半がその年の邦画ベスト・ワンに選ばれている。つまりハズレが無いわけだ。それならもっと沢山の映画に行けば良いのだろうが、どうも舞台や寄席のナマの魅力には勝てないのだ。
さて「おくりびと」だが、ストーリーはチェロ奏者の夢を絶たれた男(本木雅弘)が、妻(広末涼子)の美香を連れて故郷の山形に戻り、求人広告で見つけた仕事に就く。処が、その会社の仕事というのが遺体を棺に納める納棺師。社長(山崎努)の下でアシスタントとして日々納棺の作業を続ける破目になる。
友人からは蔑まれ、妻には去られ、何度か挫折しそうになるが、やがて納棺師の仕事が、誰しも避けて通れない死への旅立ちを「おくる」大事な仕事であることに気付き、人間的にも成長してゆく。
主役の本木雅弘の発案だそうだが、納棺師という聞きなれない職業にスポットを当てた着想が、先ず良い。
棺の蓋が閉って初めて人間の評価が定まると言われるが、確かに人生の最期をどう迎えるかは、その人の過去の総決算だと言えるだろう。
映画は、人の死生観が問われるような重いテーマを投げかけているにも拘らず、小山薫堂の脚本と滝田洋二郎監督の演出は、親子の情、夫婦の絆や友情などをちりばめ、泪と笑いを誘いながら、爽やかな感動を与えてくれる。
背景となる庄内平野(山形県酒田市)の自然の美しさと、久石譲の音楽がストーリーを盛り立てていた。
俳優では社長役の山崎努の演技が断然光る。亡き妻の遺影の前で食事をする時や、主人公の弾くチェロの演奏を聴くときの表情の上手さ、溜め息が出る。
本木雅弘も好演で、かなり練習を積んだのだろうが納棺の手捌きが実に鮮やか。私の時もこういう人に頼みたくなった。チェロ演奏の形も堂に入っていた。こうしたディテイルが映画の質を左右するのだ。
事務員役の余貴美子の存在感が光る。過去を持つ陰を背負った女を演じきった。
火葬場の職員を演じた笹野高史が、相変わらず渋いところを見せていた。
それと、冒頭シーンでの遺体の役を演じた白井小百合、あれだけ弄くり回されたのに微動だにしない。拍手。
広末涼子に色気が出てきたが、あの台詞回しがどうもねえ。
メッタに映画に行かない人間が言うのもナンだが、この作品も今年のベスト・ワンではなかろうか。
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