前進座「解脱衣楓累」千秋楽
10月25日は浅草公会堂での前進座「解脱衣楓累」(げだつのきぬもみじがさね)を観劇。この演目は「東海道四谷怪談」などで知られる鶴屋南北の幻の未上演台本で、前進座が実に172年ぶりに1984年初演したもので、怪談話。
本来は文化九年(1812)に、江戸・市村座で幕を開ける予定だったちょうですが、主役を演じる役者が急病となり、その後亡くなるという因縁じみた逸話が残されている。
オリジナルは8時間ちかいものだったようですが、初演の台本(小池章太郎)でおよそ3時間の芝居に仕立て直した。今回が3度目の上演となる。
主な配役は次の通り。
空月=嵐圭史
お吉/累(二役)=河原崎國太郎
与右衛門=藤川矢之輔
金谷金五郎=瀬川菊之丞
羽生屋助七=嵐広也
丸藤の磯兵衛=津田恵一
小夜風=山崎辰三郎
庄屋作郎左衛門=姉川新之輔
定使い長太=松涛喜八郎
若党甲斐次=中嶋宏幸
おとら=亀井栄克
やたら勘次=渡会元之
小三=生島喜五郎
ストーリーは、
かつては武家であった僧・空月はお吉と情を交わし懐胎させてしまう。別れを決意し旅立つ空月の後を追ってきたお吉、短刀で自害を図るが止めようとした空月が誤ってお吉を刺してしまう。 お吉の生首と短刀を持って江戸の出てきた空月は、お吉そっくりの累(かさね、実はお吉の妹)に出会い、言い寄る。
ここから登場人物がそれぞれ兄弟姉妹、かつての上役や恩人など因縁の糸で結ばれていて、正にあざなえる縄のごとし。
最後は凄惨な殺し合いで幕をとじる。
鶴屋南北の作品としては登場人物もそう複雑ではなく、物語は分かり易いが、「四谷怪談」と比べるとやや単調で薄味だ。この辺りが永らく上演されずにいた理由なのかも知れない。
大詰めの舞台で、雨を降らせた中での与右衛門と累の立ち回りシーンが迫力十分。この場面が全てと思わせるほどの、見ごたえがあるシーンだった。
数ある歌舞伎の演目の中でも、立ち回りでは出色の出来ではなかろうか。
出演者では、お目当ての河原崎國太郎の演技が群を抜いていた。匂い立つような色気と、雨中での乱闘シーンでの凄惨な美しさ、共に申し分ない。欲をいえば、累にもう少し儚さがあったらさらに良かった。
嵐圭史は口跡が良く、こうした悪役をやらせても凄味がある。
嵐広也が颯爽とした若者ぶりと、渡会元之の軽妙な悪役ぶりが目を引いた。
生島喜五郎の女形は柔らかさに欠け、未だ女になりきっていない。
他に、津田恵一のコミカルな演技が客席を沸かしていた。
前進座はここのところ完全に國太郎が中心に座ってきた。
反面、中村梅之助ら第二世代の高齢化や、人気役者だった中村梅雀の退団で、立役のコマ不足の感が否めない。
前進座は曲がり角にかかってきている。
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