立川談春「源氏物語・柏木」他@博品館劇場
「源氏物語」が生まれて今年で1000年を迎え、現在千年紀にちなむイベントが行われていますが、そのひとつとして落語版「源氏物語」が制作され、博品館劇場で上演されています。
源氏と落語、およそ水と油であり、どう料理するのか興味をそそられました。
10月30日より日替わりで5人の落語家が高座をつとめるのですが、その皮切りとして30日は立川談春が「柏木」を演じました。この日と31日の喬太郎(本人の自作)の両方リクエストしていたのですが、談春の昼の部だけゲットできたというわけです。
立川談春「柏木」
「源氏物語」第二部のうち「若菜 上・下」と「柏木」を下敷きに、本田久作が脚色したものです。
談春はマクラで小朝と泰葉騒動に触れ、泰葉の言動は怨念の表出であり、まるで「六条御息所」だ。そう考えると落語と源氏も縁があると解説。だけど、あんな女を女房に選んだ小朝に見る目がなかったとは言わないとのこと。
原作の方は、39歳の光源氏に女三の宮が降嫁するが、あまりの幼さに源氏はがっかりします。その一方中納言の柏木は、その女三の宮に猛烈に思いを寄せ、源氏の留守に忍び込み関係を結んでしまいます。女三の宮は懐妊しますが、源氏は自分の子かどうか疑いを持ちます。ある日女三の宮から柏木に宛てた文を見てしまい、二人の関係が源氏にばれてしまいます。
落語のストーリーは、平安朝→江戸時代、宮中→太棹三味線の家元世界と、舞台を落語向けに翻案しました。
検校で家元の源氏、紫の上が元吉原の花魁で今は源氏の妾・紫という女がいながら、源氏は伝説の三味線弾きの娘・三の宮を嫁にします。源氏は弟子の中で柏木の芸を認め、予てより自分の跡取りにしようと心に決めていましたが、その柏木と三の宮が不義密通し懐妊してしまいます。そのことに気付いた源氏は・・・。
源氏物語を落語の世界にそっくり入れたという筋立てで、談春はとても良くできた台本だと誉めていましたが、どうでしょうか。台本は相当に苦労したのでしょうが、芸人の家で御簾越しに言葉を交わすなどの設定は、やはり無理がありました。
人情噺仕立てでしたが、内容がやや陰々滅々としていて、もう少し手を入れないと落語の演目としては不適だと感じました。
それでも、それなりに聴かせたのは、談春の芸の力です。
立川談春「厩火事」
もう一席は、古典落語で明るいネタを選んだとのこと。マクラで12/25の大阪フェスティバルホールでの初の独演会をPRして本題へ。
「厩火事」は名人・八代目文楽が十八番にしていたネタで、以後の落語家は全て文楽の形を継承して演じています。
談春の演出は文楽のオリジナルにかなり手を入れていました。
オリジナルでは仲人が八五郎の家を訪れるのが昼間になっていたが、談春はこれを夕暮れにしました。女房の帰りを待ちきれなくて、先に刺身を肴に酒を呑んでいたという設定。こちらの方が、女房のおさきが亭主をかばうのに説得力があります。
一番大きな違いは、おさきが年上なので、自分が年をとった頃に亭主が若い女と浮気をするのが心配だという場面です。談春の演出は、仲人に、八五郎のような稼ぎも金も地位も無い人間が、若い女にもてるわけが無いと指摘させます。
これにおさきは反論します。ああいう男ほど、女の母性愛本能をくすぐり、却って女にもてるのだ。自分が一緒になっているのが、その何よりの証明だと主張します。
亭主をけなされるのは、おさきにとってアイデンティティを否定されるも同然なのです。
このヤリトリが、このネタに深みを与えました。
今の談春、本人が認めているように絶好調です。
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