「拉致」問題で米国に何を期待していたのか
民主党の鳩山由紀夫幹事長は12日夜の街頭演説で、米国による北朝鮮のテロ支援国指定解除について「1年に2度も首相が代わるから、日米同盟を命のように思っていても米国から袖にされる。政権がだらしないからだ」と述べた。この主張は見当違いだ。
当ブログでも以前からとりあげたように、北の核施設解体作業と引き換えに、アメリカがテロ指定解除するというのは、今年の4月に両国間で基本的に合意されたもので、今回の措置もその既定方針に沿って行われたものだ。日本の首相交代とは何ら関係がない。
また、民主党の直嶋正行政調会長が、指定解除について「国民として失望を禁じ得ない」との談話を発表したが、同様の発言は拉致被害者家族会のメンバーからも行われている。
11日の札幌での講演会で増元照明事務局長は、「自国の国益のため、同盟国の日本人の命を顧みない裏切り行為だと思う。(指定解除を)軽々しくやってほしくないというメッセージを、政府は米国に伝えてほしい」と訴えている。
拉致問題の解決のために、米国に対していったい何を期待していたのだろう。
自国の利益のために他国の人間を拉致・監禁したり、時には闇から闇に葬るは、むしろアメリカCIAのお家芸だ。むかしむかしの話ではない、現在進行形である。
例えば、2003年12月にレバノン系ドイツ人のハリド・マスリ氏が、旅先のマケドニアでCIAに拉致され、アフガニスタンに移送された後、拷問などの虐待を受けた。人違いだったことが分かり5ヶ月後にアルバニアで解放された。消されなかったのがせめてもの幸いだった。この件でドイツ検察当局は、2007年1月に監禁容疑でCIA職員13人の逮捕状を取ったことを明らかにした。
同じ2003年にはイタリアのミラノでも同様の事件がおきて、こちらもイタリア当局がCIA要員ら26人の逮捕状を取っている。
アメリカが「拉致はいかん」などと言っても、「アンタにだけは言われたくない」と言い返されるのがオチだ。
元々が頼りにならない相手だったということではなかろうか。
アメリカへの期待=北朝鮮への先制攻撃、口には出さぬとしてもこうした期待感も持つ人もいただろう。イラクみたいに一気に叩いて金正日政権を倒し、拉致被害者を救出するという図式だ。しかし武力攻撃は国益、つまりソロバン勘定次第である。北朝鮮を攻撃しても、米国には大した利益にならない。それより、ロシアや中国との関係が決定的に悪化すれば、マイナス面の方が大きくなる。
ましてイラクやアフガニスタンが泥沼化している現状では、とてもじゃないが手が回らない。だからテンから先制攻撃など有り得ない。
それより拉致問題の解決のために、日本の政治家は何をしてきたのか。特に「対話と圧力」の「圧力派」議員たちは、この数年間、具体的にどういう成果を上げてきたのだろうか。
この問題で自分から動き、ともかくも金正日に拉致を認めさせ、被害者の一部を帰国させたのは小泉元総理だけだ。私は小泉純一郎が嫌いだが、この一点に限っては評価している。
拉致問題の解決を最も期待されていた安倍内閣は、結局何の進展も得ることなく瓦解してしまった。
してみるとアメリカ待望論は、日本の政治家たちの無為無策を覆い隠す「隠れ蓑」として使われたと言える。それが外されたので、彼らは失望や落胆をしている。
今回の件で家族会前代表の横田滋さんは、「日本としては8月の合意(拉致問題再調査)の実行を強く求め、それでも応じないなら独自の制裁をすべきだ。この(指定解除)問題と拉致問題はあまり結びつける必要がないと思う」と述べた。
横田滋さんの指摘が正しいのだ。この方のいつもながらの冷静な分析と判断には、頭が下がる。
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