メディアは推理ゲームを止めよ
元厚生事務次官とその家族に対する連続殺傷事件は、小泉毅容疑者の犯行との見方が固まったが、マスメディアは今度は犯行動機について、相変わらず専門家だの評論家だのという人物を招いて、推論を披瀝させている。
ついこの間まで、そうした人々が犯人像をあれこれ推測していたが、蓋を開けてみれば正答率は1割にも達していなかったと思われる。その同じ人間に訊いたところで、何の意味もない。
井戸端会議レベルのことを、メディアがやっていては困るのだ。
過去にもこうした重大犯罪が起きると、必ず犯行動機が問題とされ、その犯人の心理分析が行われていた。
しかし人間の心の中ほど不可解なものは無い。夫婦、親子といえでも相手の心が分かるわけではない。まして赤の他人の心理など、分かる筈が無いのだ。
時には「オレ、何であんな事したんだろう」と、自分の行動でさえ説明つかないことだってある。
話は飛躍するが、以前の「忠臣蔵の謎と真実」というエントリーでも書いたが、殿中で浅野内匠頭が吉良上野介に斬りつけた事件について、浅野内匠頭の犯行動機は今もって分からないのだ。分からないからこそ後世の人々は色々な推理をめぐらし、物語が書ける。
小泉毅容疑者に統合失調症の疑いも指摘されているが、少なくともノーマルとはいえまい。いずれにしろ容疑者の精神鑑定が行われるだろうから、その結論を待つしかない。
幼女連続殺人事件の宮崎勤や、池田小学校の児童殺傷事件の宅間守の心理や犯行動機を、「オレはよーく分かるよ」という人がいたら、そっちの方が変だろう。
動機がうまく説明つかないと「心の闇」で片付けるのだから、実にいい気なものだ。
メディアの一部に、容疑者がアパート住まいだったことから、無職なのに家賃を払っていたのがおかしいという指摘がある。無職だろうと何だろうと、借家に住んでいれば家賃を払うのは当然で、払わない方がおかしいのだ。
「無職」とは無職業の略称であり、「職業が定まっていない状態」を指す。従って、必ずしも無職=無収入ということではない。
小泉容疑者には多額の借金があったと伝えられているが、世の中には無職で借家住まいの人も沢山おられる。一方的な推論は、そうした人たちに対して失礼ではないか。
捜査当局としては今後、共犯者や背後関係の有無について調べることになる。現在の所、私たちは当局の厳正な捜査を見守るしかない。
メディアの報道は事実を公正かつ正確に伝えれば良いのであって、推理ゲームは電波の無駄使いになるだけだ。
なおこの事件を未だに連続テロと称しているメディア(例えば"YOMIURI ON LINE")があるが、どういう神経だろうか。
「小泉毅がテロリストならば蝶々蜻蛉も鳥のうち」。
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