「テロ」のから騒ぎ
11月18日に、さいたま市で山口剛彦さん(66)とその妻美知子さん(61)の遺体が発見され、東京中野区では吉原健二さん(76)の妻靖子さん(72)が重傷を負うという痛ましい事件が起きた。現場の状況から山口さん夫妻は前日の17日に殺害されてと見られている。
現在までに判明しているのは、3人とも刃物で刺されたという事実と、意識が回復した吉原靖子さんの証言で、犯人が年齢30-40歳位で、身長が165cm程度だったということ、宅配便を装って玄関を開けさせいきなり刺したということだけだ。
警察はテロの可能性も視野に入れた捜査をしているとの報道である。
分かっていることはこれだけだ。
TVや新聞は連日このニュースを大きく伝えているが、先ず気になるのは「連続殺傷事件」という名称だ。確かに二つの事件は同日に発生が確認され、殺人の被害者と傷害の被害者の夫が共に元厚生省事務次官だったという共通項がある。
しかし犯行場所も日にちも異なる二つの事件を、「連続」と断定する根拠はなんだろう。現時点ではそれぞれが単独で起きた事件であるとの可能性も否定できない。
同一犯人(グループ)との確証がない時点で、こうした断定をするのは早計ではなかろうか。
政府の声明や各党の談話の中で、決まって「もしこれが年金問題や厚労省を狙ったテロなら、絶対に許すことができない」としているが、これはおかしい。
テロであろうとなかろうと、今回の犯罪は到底許されるものではない。
吉原さんと山口さんの接点は次の通りである。
①吉原さんが39年に三重県に出向しているが、山口さんも48年に同じく三重県に出向した。
②吉原さんが59年に旧厚生省の年金局長だった時に、山口さんは同局課長で上司と部下の関係だった。その後二人とも事務次官に昇進している。
報道では専ら年金問題に不満を抱いた人物による連続テロという推測が行われているようだが、お二人の接点は遠い昔のことである。共同して年金改革の実務を行っていたとされるが、一般に広く知られていたわけではない。
テロリストの犯行であれば世間へのアピールを狙って、通常はもっと分かり易いターゲットを設定するのではなかろうか。20-30年前のしかも実務者を狙って、どういう得があるのだろう。
年金問題は実務者を責めても仕方がない。官僚は決められた政策を実行に移すだけで、それ以上の権限はない。
年金問題の本質は、政府の社会保障費抑制政策の結果であり、保険料はしっかり取るが保険金は出来るだけ払いたくないという方針によって引き起された。社会保険庁のサボタージュもこうした文脈の上で起きており、当時はむしろサボタージュが奨励されていたのではなかろうか。
責められるべきは歴代の政権であり、厚生大臣や厚生族議員たちだ。
もしこれがテロなら、犯人たちは実に見当違いな行動をしていることになる。
こうして見ていくと、今の時点で予断を持つことは禁物だ。怨恨や物盗りの線だって、完全に否定はできない。あるいは明確な動機のない犯行かも分からない。
それに流行かも知れないが、近ごろやたらに「テロ」という言葉を簡単に使い過ぎる。単なる火付け強盗の類まで「テロ」呼ばわりされていて、余りに安売りされ過ぎている観がある。
相変わらず各ニュース番組に専門家なる者がゲストに呼ばれ、犯人像だの背景だのを推理しているが、過去の例からしても当たったためしがない。
ニュース番組は推理ゲームの場ではない。あくまで事実を正確に伝えることが本分だ。
誤った予見は捜査を遅らせる原因ともなるので、節度をもった報道を望みたい。
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