昨年12月に警察庁キャリア官僚の男性警視が、海外旅行で成田空港から出国する際、航空機内へ100ミリリットル以上の化粧水入り容器を持ち込もうとして制止されて女性検査員と口論となり、トレーを投げ付けていた事件がありました。
この件で、千葉県警は22日、暴行容疑で増田貴行警視(36)を千葉地検に書類送検し、また同庁は同日付で停職3カ月の懲戒処分とし、同警視は辞職したと発表しました。
トレーを投げたり暴言をはいたりした事は確かに悪いですが、この背景として空港での保安検査の際の、機内への液体持ち込み制限が無意味であるという問題があるのではないでしょうか。警察庁の職員だったのでそうした事情に詳しく、だから制止されたのでキレタ、その辺りが実情だと推測されます。
当ブログでは以前からこの点を指摘していますが、 もう一度ここで整理してみたいと思います。
先ずこの制限がなぜ始まったのか。
2006年8月10日に明らかになった「英国での航空機爆破テロ未遂事件」を受け、12月7日国際民間航空機関(ICAO)は、2007年3月1日までに国際線で適用すべき暫定的な保安措置として、液体物の機内持込制限に関するガイドラインを各締約国に通知しました。
日本ではこの通知を受けて、国交省航空局監理部が国際線への導入を決め、2007年3月1日より日本から発着する全ての国際線で液体物持込制限が実施されています。
その「英国での航空機爆破テロ未遂事件」ですが、どうやら液体爆弾の使用が計画されていたとのことです。物質についても公表されていないようですが、可能性の高いのは過酸化アセトン(以下、略称AP)と考えられています。
APは衝撃、炎、熱などを加えられると容易に爆発する性質があります。 爆発させる時、少量でしかも非密閉下における場合の爆発は大きな炎の塊になるだけですが、密閉下か多量に存在した場合は炎を一切出さず、爆発します(爆轟)。この性質が爆弾に利用されるわけです。
では具体的な検査のルールですが、成田空港を例にとると(他も同様)次のようになっています。
・100mlを超える、あらゆる液体物の客室内への持ち込みは禁止です。手荷物検査場で破棄していただくことになりますので、あらかじめ航空会社にお預けになる手荷物にお入れ下さい。
ただし、以下の物品の持込は可能です。
(1)100ml以下の容器に入った液体物で、容量1リットル以下のジッパーのついた再封可能な透明プラスチック製袋に余裕をもって入れられている場合
(2)医薬品、ベビーミルク/ベビーフード、特別な制限食等の場合
“あらゆる液体物”には、ジェル類(歯磨き粉、ヘアジェルなど)、エアゾール、スプレー類も含まれます。
処が、例外があるんです。出国手続き後の免税店などの店舗で購入されたお酒、化粧品類等の液体物は上記の制限にかかわらず客室内へ持込可能なのです。
全く同じ品物を、空港の免税店で購入したものはOK,他で購入したものはダメ、これでは理屈が通りません。
恐らく空港内の土産物店から懇願されて、彼らの利益のためにこうした例外規定を作ったのは明らかです。
【問題その1】
最初に指摘しておきたいのは、なぜ100ml以上が制限されているのか、99mlならなぜ問題が無いのかかが不明確です。更に持込個数が1個とされているならともかく、容量1リットルの袋に入るだけ持ち込めるという根拠が分からない。
それに預け入れ手荷物は無制限とされていますが、液体爆弾をスーツケースなどに仕込んだ場合、安全は確保されるのでしょうか。
私にはどうも液体爆弾そのものを検出するしか、危険を避ける方法は無いように思えるのですが。
【問題その2】
こうした安全のルールは全世界で一斉に実行されなければ意味がありません。1つの国でも、1つの空港でも例外があれば、そこを狙って仕掛けてくるからです。
しかし実際には国によって対応はマチマチで、通達通り実姉した国もあれば、つい最近になって実施した国、中には未だに完全に実施していない国もあります。
これでは効果がない。
国内便への対応も各国バラバラで、乗り継ぎを考えれば国内、国際を問わず同一の基準で行うべきでしょう。
【問題その3】
実際の検査を見ると、更に問題があります。
液体物を手荷物に入れていた場合、殆んどがフリーパスになっています。因みに私は500mlペットボトルをバッグのサイドポケットに入れて検査を受けるのですが、上半分は完全に見えているにも拘らず、検査官からチェックを受けるのは数回に1回です。バッグの中に入れた場合は100%そのまま通過です。
つまりこの検査は自己申告が前提で、完全に実施するためには、搭乗者全員の手荷物を空けて検査するしか方法がありません。しかしそうした空港は極めて少数で、普通はX線検査で異常がなければ、手荷物を空けてチェックすることはありません。
爆弾を仕掛けるような人間が、自ら申告することは有り得ないわけで、そうすると一体この液体物検査というのはどういう意味があるのでしょうか。
安全を証明させるためにペットボトルの液体を飲ませる空港もありますが、飲ませてから廃棄する係員もいて、彼らの退屈しのぎのイタズラに付き合わされる破目になります。
【問題その4】
例外規定が国によってアイマイです。
日本を含めて多数の国は、検査を行う空港の免税店で購入した液体物のみ、機内持込が認められています。他の空港で購入したものは廃棄させられます。そのため乗り継ぎの際に、前の空港で機内持込が認められた液体も廃棄の対象となります。
これは安全より、空港の土産物店の利益を優先する姿勢に他なりません。
また南アのヨハネスブルグ空港にように、例外規定を恣意的に運用し、検査係員の判断で持込の有無が変えられる例もあります。ブランド物の化粧品や洋酒が取り上げられてしまう。その反面、ペットボトルなどは見向きもされません。恐らくは、取り上げた商品を再び土産物店に買い取らせて小遣い稼ぎをしているのでしょう。
日本はともかく、海外の検査係員には質の悪い人間がいることは確かであり、例外規定が悪用されています。
【問題その5】
その国の空港内で購入したという証明は通常、包装とレシートにより判断されていますが、これも偽造しようと思えば簡単に出来るわけで、犯罪の抑制にはならないのです。
結局、液体物爆弾の持込を阻止しようとすれば、本来はその液体爆弾そのものを検出できる検査を行うか、又は全ての乗客の手荷物と預け入れ荷物を空けて中味を検査する(イスラエルのテルアビフ空港のような)しか方法がありません。
それをやらないで形だけのチェックで済ませているから、煩雑の割には実効性の無い検査を、日々旅行客に強いているというのが現状だと思います。
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