鯉昇・喬太郎二人会「古典こもり」(2/10昼の部)
瀧川鯉昇、柳家喬太郎という、落語協会と芸術協会を代表する古典の実力派二人の落語会が2月10日、東京芸術協会小ホールで行われた。昼夜公演で昼の部へ。平日の昼だというのに満員の入り。
寄席は景気に左右されない商売で、バブルだから連日大入りということがない代りに、不景気だから閑古鳥ということもない。むしろ不況の時のほうが笑いを求める傾向があるので、客が増えるようだ。
「古典こもり」というタイトルから分かるように、二人が古典のネタを2席ずつ演じるという趣向。
・柳家小ぞう「初天神」
さん喬一門の前座だが、しっかりとした高座だった。きん坊が子供らしく描かれていて良かったと思う。
・柳家喬太郎「家見舞い」
出だしでいきなり噛んで、「今日はもう噛みますよ」と宣言していたが、結局この1回だけだった。
時間の関係からか前半をカットし、10銭で肥甕を買う場面から入る。川で甕を洗うシーンで、一人が手に縄を巻きつけて、相棒から形が良いと誉められと見栄を切るところが喬太郎独自のくすぐり。それ以外はオーソドックスな演出で、手堅くまとめたという印象だった。
・瀧川鯉昇「茶の湯」
このネタ、現役の噺家の中でも鯉昇が一番面白いのではなかろうか。第一、この人は黙って高座にいるだけで可笑しく、独特の風貌と語りのリズムが良い。展開はスピーディだが決して平板にならない。
過去の高座に比べ、この日はよりパワーアップしていたように感じた。
~仲入り~
・瀧川鯉昇「粗忽の釘」
2席のうち1席は短めにするようで、亭主が重い荷物を背負って新居に着く場面から始まる。女房や隣近所の人間の落ち着きぶりが、この亭主の粗忽ぶりを一層際立たせる。聴いているうちに、亭主と鯉昇のキャラがかぶってくる。
釘が阿弥陀様の股座から出るところが独自の演出、こっちの方が面白い。
・柳家喬太郎「按摩の炬燵」
喬太郎の「按摩の炬燵」は、もはや芸術品といって良い。このネタで喬太郎を越える人は、しばらく出てこないだろう。
このネタでは全体の8割近くが按摩・米一の、酒を5合呑みながらの独り語りだが、ここが実にしんみりと聴かせる。と、言って決して暗くならず。
子どものころ近所の子にメクラだとからかわれて虐められると、幼馴染だった店の番頭がかばってくれたというたった一言、これだけで按摩の境遇を分からせる、実に見事というしかない。
喬太郎は、盲人が主人公の演目はどれも上手い。ここだけは名人・文楽に似ている。
古典落語の良さをしみじみ味わうことができた、充実の二人会だった。
« 「ああいえば麻生」 | トップページ | 「金賢姫と面会」は疑問だ »
「寄席・落語」カテゴリの記事
- 祝!真打昇進 立川小春志、三遊亭わん丈(2023.11.02)
- 落語『鼠穴』のキズと権太楼による改変(2023.11.01)
- (続)この演者にはこの噺(2023.09.03)
- 素噺と音曲師(2023.08.30)
- 落語『永代橋』(2023.08.05)
コメント