桂吉弥独演会@横浜にぎわい座
スポーツ選手だろうと芸能人だろうと、センスがない人間は一流にはなれない。特に落語家はそうで、だって扇子(センス)がなければ落語ができない。
その噺家としてのセンスにかけて桂吉弥は、上方落語界でも屈指の存在だろう。師匠だった桂吉朝亡きあと、大師匠桂米朝の芸風をいちばん継いでいるのは、一門の中で吉弥ではないかと私は見ている。
その桂吉弥の独演会が2月3日節分の日、横浜にぎわい座で行われた。NHKドラマやバラエティ番組出演で顔が売れ、東京でもフアンが多くなった。男前のゆえか、中年のご婦人の姿が目立つ。
・桂吉の丞「動物園」
自己紹介で前座といってたし、座布団返しもしていたから前座の位置なのだろう。しかし高座はしっかりとしていた。独自の演出上の工夫も見られ、このネタをここまで面白く聴かせる力量に感心した。
さすが吉朝最後の弟子だけある。
・桂吉弥「七段目」
5代目桂米團治襲名披露の口上のエピソードをマクラに。桂ざこばに、最近TVで人気が出て少し驕っているぞというツッコミがあったと紹介していたが、吉弥の入門時のエピソード(ざこばだけが反対したといわれている)を思い出した。
このネタは一にも二にも、演者に歌舞伎の形が身についているかどうかで、出来が決まる。吉弥は役者の所作やセリフをよく研究していて、とても良い仕上がりだった。
例えば若旦那が二階に上がるときに八百屋お七の人形振りを真似るが、こうした演出が吉弥の優れたところだ。これで店の主人に風格が出れば、言うことがないのだが。
・桂紅雀「向こう付け」
無筆の男が葬儀の記帳を担当するというネタ。確か吉弥とは同年代だと思われるが、随分と差がついたものだ。
高座のハイテンションが客席と空回りしていた。噺の「間」のとり方に工夫を要する。
・桂吉弥「不動坊」
このネタ、長い割に笑うところが少なく、演者に力量がないとダレル。吉弥は米朝を彷彿とさせる落ち着いた高座で、タップリと聴かせてくれた。
特に利吉が風呂で独り言をいう場面の目の動きに色気があり、不動坊のニセ幽霊の場面では適度の緊張感を保たせて、私としてはこのネタのベストに選びたい。
欲をいえば、家主にもう少し貫禄がほしい。
~仲入り~
・桂吉弥「くしゃみ講釈」
久々に面白い「くしゃみ講釈」が聴けた。先ずは男が八百屋に胡椒を買いに行き、品物の名前を思い出すのに、カラクリの八百屋お七を一段語る場面が秀逸。八百屋が人だかりを整理する場面で場内は爆笑。
講釈(講談)の場面もしっかりと演じて、くしゃみを連発させる場面で、もう一度場内は大爆笑。
吉弥の声が良くて口調が明快なところが、十分生かされた高座だった。
終演後は節分の日にちなんで出演者そろっての豆まきがあり、にぎにぎしく終了。
吉弥の三席、いずれも言うことなし。
この3つのネタだが、この日の吉弥を凌駕する東京の落語家が果たしてどれだけいるだろうか。
そう考えると、チョット寂しい気もする。
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