特選落語名人会~小遊三・小朝・昇太~
2月7日、東京厚生年金会館で小遊三、小朝、昇太という人気の顔ぶれが出演した「特選落語名人会」に出向く。さすが、大きなホール一杯の客足。客層を見ると中年のご婦人が多く、明治座にいるような雰囲気。
・瀧川鯉斗「転失気」
今年二ツ目に昇進予定の前座だが、そんなレベルに達していない。声は大きいが、喋りがプロの噺家になっていない。毎回の元暴走族だったというマクラも鼻につく。
・三遊亭小遊三「短命」
山梨県出身ということで、山梨の自虐ネタをマクラに。確かに山梨という位置は微妙で、関東甲信越という大きな括りから関東地方に含まれる。以前、山梨県を首都圏に入れたのは、かつて地元の有力代議士だった金丸信の力だと聞いたが、本当かしらん。
甲州というと武田信玄を思い出すが、黒駒の勝蔵を始めとする、博徒の親分衆を輩出したことでも知られている。黒駒勝蔵は幕末から明治に移る時に処刑されてしまい、すっかり清水次郎長の敵役にされているが、本当は彼の方がはるかに立派なヤクザだった。
「短命」だが、小遊三はこういう軽いネタをやらせると上手い。艶笑落語だが、小遊三が演じると少しもイヤらしくなくなるのはキャラのせいか。
・春風亭小朝「七段目」
小朝ぐらい落語フアンの中で評価が分かれる噺家はいないだろう。圓楽が引退した時に、現役で誰が一番かという問に、迷わず小朝と答えていた。「今はやっぱり小朝さんよね」という声も耳にするが、厳しい声も多い。
批判の矛先は、もっぱら小朝の高座の手抜きに向けられる。落語家だってナマミの人間だから、常に全力投球をするわけにはいかない。手を抜くこともある(中には常に手を抜いている噺家もいる)。小朝については、期待度が大きい分だけガッカリ度も大きくなるのだろう。
加えて私見になるが、小朝のマクラが時代と微妙にずれ始めている。「近ごろの若い女性は・・・」などと喋る内容が、現実と離れてきつつある。
客席を暗くして歌舞伎の話をマクラに振ったので、てっきり「中村仲蔵」かと思ったが「七段目」であった。
完全版かと思える丁寧な演出で、面白く聴かせていた。見たことはないが、小朝は踊りがかなり上手いと見えて、所作の一つ一つがとても美しい。
手本となるような「七段目」だった。
~仲入り~
ロケット団「漫才」
今東京の漫才で一番面白いのは、このロケット団だ。定番になった四文字熟語や英語を山形弁で喋るギャグ、ボケとツッコミの微妙な間に更に磨きがかかってきている。
本格的なシャベクリ漫才の「星」だ。
春風亭昇太「花筏」
年末の紅白歌合戦や除夜の鐘、初詣などの風景をネタにしたマクラで場内は大爆笑。
森進一の「おふくろさん」の物真似では、周囲のご婦人たちが涙を流しながら笑い転げていた。ここ数年の「おふくろさん騒動」は、偏に昨年末の紅白盛り上げのための仕込みだったのだが、多くの視聴者がNHKの仕掛けにハマッタわけだ。
昇太の感覚は若い。小朝と年令が3つしか違わないとは思えない。もしかして独身のせいか?
「花筏」、面白かったですよ。昇太の古典は崩しているようで本筋を外さない。だから面白い。
こういう肩の凝らない落語会も実に楽しい。
三者三様、それぞれも持ち味が発揮されていて満足した。
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実に豪華なメンバーでしたね。
「花筏」は今何かと話題のお相撲の噺ですね。
先代の馬生の噺をCDで聴き、ひどく感心した覚えがあります。
昇太のことですから効果的なくすぐりを入れて盛り上げたろうと推察します。
特に提灯屋が千鳥ケ浜に恐れ戦くところなど、昇太の巧さが出ていたんではないでしょうか。
投稿: 福 | 2009/02/09 21:08
福様
コメント有難うございます。
そうですね、確かに豪華メンバーでしたし、それぞれが持ち味を発揮してなかなか充実した会になりました。
昇太はセンスが良いですね。噺家としての運動神経に優れているなと感じます。
「花筏」は八代目春風亭柳枝の形を踏んでいるように見えました。
投稿: home-9(ほめく) | 2009/02/10 10:36