日本演劇の財産「化粧 二幕」@座・高円寺2
前々から見たいと思っていた「化粧 二幕」が今月「座・高円寺」の杮落とし公演として行われており、5月16日観劇。
劇場は今月オープンしたばかりだが、今回の会場となった「座・高円寺2」は300席足らずの座席数で、一人芝居にはピッタリの大きさといえる。客席の勾配もゆったりと取っていて見やすい。
タイトルに「二幕」が加えられているのは、1982年7月の初演の際は一幕であったのが、再演の時にさらに一幕追加され二幕としたためだ。
作 | 井上ひさし
演出 | 木村光一
出演 | 渡辺美佐子
この芝居は今回の上演期間中に600回を記録する。
日本国内だけでなく、北米、ヨーロッパ、アジア諸国でも上演を重ねてきた。
森光子の2000回には及ばないにしても、たった一人だけの舞台を通算27年間、600回も上演するというのは大変な記録だ。
まして初演の時に渡辺美佐子は既に俳優歴が30年を越していたと知れば、現在の年令も推定できるというもので、舞台での奮闘ぶりを見れば驚異的でもある。
渡辺美佐子はこの芝居で大衆演劇の座長・五月洋子を演じる。
乳飲み子を抱えていた時期に、前の座長だった夫が女と駆け落ち。乳児を施設に預けたまま彼女は座長となり、一人で座を切り盛りしていく、その過程での苦労は言葉に表せられない程だった。
この日、公演が終われば取り壊しになるという小屋で、母子の別れと再会の悲劇がテーマの「伊三郎別れ旅」(瞼の母に似たストーリー)に出演すべく、自分の人生を振り返りながら楽屋で化粧(メイク)を行っている。
そこにTV局の人間が訪れてきて、いま人気の若手スターが座長の別れた子供ではないかと、再会を勧めるが・・・。
劇中には何人かの登場人物があるのだが、そうした人物とのヤリトリも渡辺美佐子一人で演じる。時には小道具がいつの間にか彼女の手の中に現れる、まるで手品のような仕掛けも施されている。
でんぐり返りあり、立ち回りあり、そうかと思えばゴキブリを追いかけ客席の階段を駆け上がるという奮戦ぶりだ。
劇中、座長が演じる芝居の役柄と、分かれた息子との再会への期待と悔悟、これらがない交ぜになって次第に狂気を帯びてゆく。
さらに、渡辺美佐子という役者本人の生身もここに投影され、渡辺美佐子と五月洋子と伊三郎の母とが渾然一体となる重層構造が形作られている。
この劇がこれだけのロングランを続けてきたのは、もちろん原作や演出が優れていたからだろう。
しかし最大の要因は、渡辺美佐子の演技であり、彼女抜きには恐らくこの芝居は成り立たないだろう。
女のしたたかさや哀れさと同時に、この役には程よい色気と可愛いさが求められる。
脚本と役者のキャラが見事なまでに一体化した、日本演劇の財産の一つといえよう。
公演は31日まで。
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