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2009/11/03

「落語家の襲名」への提案

当代の橘家円蔵に「円鏡から円蔵へ」というネタがあります。1982年に円蔵を襲名する前後のエピソードを綴ったもので、落語家の襲名の舞台裏をチラリと見せてくれます。
この噺の中で円蔵は、「(死んだら)自分の名前は協会に返すようにしたい」と語っています。襲名の時のゴタゴタがいかに大変だったかを暗に指しているのです。

この中身に入る前に、円蔵をめぐる師弟関係について見ておきましょう。
八代目・桂文楽―七代目・橘家円蔵―初代・林家三平
                     ―八代目・橘家円蔵
この系図を見て、少し詳しい落語フアンなら「この師匠と弟子、全然似てないじゃん」と思われるでしょう。
名人・文楽と、その弟子の先代・円蔵とは、芸風も得意ネタも全く異なります。むしろ対照的と言ってもいいでしょう。それ位違います。
そのまた弟子の先代・三平や当代・円蔵、これも師匠にも大師匠にも全く似ていないし、影響すら感じません。

古典芸能の世界というのは、通常は師匠から弟子に芸を伝えることにより継承されていきます。
なにせ「一子相伝」という言葉もあるくらいですから。
落語家の世界でも師匠は弟子に稽古はつけますが(なかには師匠に稽古をつけて貰ったことがないと公言する人もいる)、自らの芸の真髄を弟子に教え込もうというわけではありません。
だから名跡を継いでも、芸風は全く違うということがおきるのです。
先代と当代の文楽の芸風を比べれば分かりますよね。

名跡を継ぐということになると、これが更に複雑になります。
実は、六代目の円蔵というのが、六代目・三遊亭円生の前名でした。従って七代目の円蔵が襲名する際は、文楽の弟子だったにもかかわらず、円生の許しが必要だったのです。
ヤヤコシヤ、ヤヤコシヤ。

処で、1987年に落語協会の分裂騒動がおきて、円生一門は協会を脱退してゆきます。
先代の円蔵も円生に従って一度は出ていったのですが、直ぐに協会に戻ってしまいました。
怒ったのは円生とその夫人で、あの裏切り者めがというわけです。
円生が亡くなった後、七代目円蔵が死去したその通夜の席に円生の未亡人が乗り込んできて、「名前を返せ」と持っていってしまったというんですから、穏やかじゃない。
でも名前をどうやって持ち帰ったんでしょうね。風呂敷にでも包んだのでしょうか。
かくして橘家円蔵の名前は、円生未亡人の所有となってしまったというわけです。

なんだかこのストーリー、落語みたいですね。

そこで当代の円蔵は襲名にあたり、せっせせっせと柏木の円生未亡人宅に通い、ついにお許しを得て晴れて襲名の運びとなったとのことです。
襲名を許した当の噺家が口出しするのならともかく、関係の無い未亡人が決定権を握るというのは、明らかにおかしいですよね。
これは過去の話でもなんでもない。
七代目・林家正蔵の息子が初代の三平だったというだけで、当代の正蔵も三平も、襲名の許可は海老名家、具体的には故三平の未亡人である海老名香葉子さんが握っています。
過去には未亡人が障害になって、襲名できない名跡もあったそうですから、バカバカしい話です。

襲名については、先日亡くなった五代目三遊亭円楽についてもエピソードがあります。
八代目林家正蔵(彦六)の前名が円楽でしたが、この正蔵と円生は昔から犬猿の仲だったのです。
本来は襲名の許可が下りないところですが、先代の正蔵は円楽の若い頃から才能を高く評価していたので、円生との間柄には目をつぶって名前を継ぐことを許可したと言われています。

ますます、ヤヤコシヤ、ヤヤコシヤ。

そんな襲名にまつわる厄介な経験をしたからこそ、冒頭の円蔵の「名前は協会に返したい」という発想が生まれたのでしょう。
私もこの考えに大賛成です。
落語家の名跡は個人のものではありません。落語界全体の共有の財産であるべきです。
空席となっている名跡は全て協会が管理する、これが最も納得がいくと思います。
その上で、実際の襲名には師弟関係などを考慮して、協会が決めていくようにしたら良い。
特に「止め名」(最高位の名前)と呼ばれる、桂文治、三笑亭可楽、三遊亭圓生、柳家小さん、古今亭志ん生、林家正蔵については、そうした措置が必要だと考えます。

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